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9──社長遠江の辿った真実【社長】
1 三年前の真相
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三年前、自分は『雛本阿貴』の策略に嵌まり、この世で一番大切なものを傷つけた。
自分が『雛本和宏』の書評に出逢ったのはそれよりも前のことになる。
彼の産み出す言葉は愛の海のようなものに感じた。事務的でも義務でもなく、その作品を愛しているから紡がれていくのだろう文字たち。
気づけば自分はすっかり彼のファンになっていた。
そうなってくると、どんな人物が書いているのかくらい知りたいところだ。
後から知ったことだが、彼は当時まだ学生だったため素性を隠していたのである。出版社に問い合わせても、プライバシーは公開できないと言われた。
恋をしていたのかもしれないが、どちらかというと彼は自分にとって世間でいうところの『推し』という存在だったのかもしれない。
自分は経営者であり、それなりの地位を築いてはいるものの無力なのだと知った。
自分は以前、婚姻したことがある。だが、女性との婚姻が自分には合わないものだと気づき、直ぐに離婚してしまった。もちろん子供もいない。
個人的な付き合いになんら弊害はないと思われた。
そんな時だ、『雛本阿貴』と出逢ったのは。
彼を家に招いたのは運命だったのだろうか。
書斎に積みあげた彼の書評を見て、
『この著者知ってるよ。ファンなの?』
と彼は言った。
何故自分はあの時、策に乗ってしまったのだろうか?
書評の著者の義弟だという阿貴。
彼は実父を憎んでおり、今はその彼の妹の家に世話になっているという。そこから出るきっかけが欲しいと彼は言った。自由になりたいと。
その為に協力してくれないかと言われたのだ。
家を出るのにその書評の著者である『兄、和宏』も連れ出すと言っていた。
どうして何も調べようとしなかったのか。彼の策に乗り、全てを終えたあと何かがオカシイと感じた。
『どうしてこうなった?』
確かに和宏への書評の書かせ方は乱暴で力づくだったろう。
しかしそのことが原因で彼が書評の仕事から身を引くことになるとは想定外。
嫌というほど金を積んだのは、彼の将来を思ってのこと。金でどうにかなるとは思っていないが、せめてもの罪滅ぼしのつもりだった。
その後、独自に『雛本阿貴』について調査を始めた。
簡単に見つかりはしなかったが、阿貴の実母を探し出し面会。
『ここに三十万ある』
『は? あんたなんなの』
阿貴の母は友人の経営するスナックで働いており、裕福とは言い難かった。金に困っているなら、金をちらつかせれば話くらい聴けるだろうと思ったのだ。
『阿貴の友人だ』
『また随分年の離れた友人がいるのね、あの子』
彼女は大きなため息を一つ着くと、
『で?』
と遠江を見つめた。
『話が聞きたい。これは回答料だ。嘘偽りなく話してくれれば支払う』
『へえ、雛本家についてでも調べているのかしら?』
彼女も同様、阿貴の実父には恨みを抱いてるのかかなり協力的だった。
『あの男には独身だと騙されたのよ。よくある結婚詐欺ってやつね。子供が四人もいるなんて聞いてないわ』
阿貴の母はお世辞抜きでも美人だと思う。
『そのうえ、そんな男のガキが出来ていい迷惑よ』
気づいた時にはおろすことは不可能だったようだ。
責任の一環として認知はしてくれたもののほったらかし。その認知も彼の本妻から言われてのことだったらしい。
『アイツは最悪だったけれど、アイツの妻はまともな女だったわよ』
なのに何故阿貴があんな風になってしまったのか?
『慰謝料は要らないから代わりに阿貴を育ててって押し付けたの』
だが彼女は雛本家では立場が弱い。
一族がどんな力関係か分からないが、阿貴の育った環境は良好とは言えなかったようだ。
その後の調査は決して簡単ではなかった。
阿貴と和宏が本当に望んで恋人関係になったのか? そこに疑念を抱くまで実に二年を費やしたのだ。
自分が『雛本和宏』の書評に出逢ったのはそれよりも前のことになる。
彼の産み出す言葉は愛の海のようなものに感じた。事務的でも義務でもなく、その作品を愛しているから紡がれていくのだろう文字たち。
気づけば自分はすっかり彼のファンになっていた。
そうなってくると、どんな人物が書いているのかくらい知りたいところだ。
後から知ったことだが、彼は当時まだ学生だったため素性を隠していたのである。出版社に問い合わせても、プライバシーは公開できないと言われた。
恋をしていたのかもしれないが、どちらかというと彼は自分にとって世間でいうところの『推し』という存在だったのかもしれない。
自分は経営者であり、それなりの地位を築いてはいるものの無力なのだと知った。
自分は以前、婚姻したことがある。だが、女性との婚姻が自分には合わないものだと気づき、直ぐに離婚してしまった。もちろん子供もいない。
個人的な付き合いになんら弊害はないと思われた。
そんな時だ、『雛本阿貴』と出逢ったのは。
彼を家に招いたのは運命だったのだろうか。
書斎に積みあげた彼の書評を見て、
『この著者知ってるよ。ファンなの?』
と彼は言った。
何故自分はあの時、策に乗ってしまったのだろうか?
書評の著者の義弟だという阿貴。
彼は実父を憎んでおり、今はその彼の妹の家に世話になっているという。そこから出るきっかけが欲しいと彼は言った。自由になりたいと。
その為に協力してくれないかと言われたのだ。
家を出るのにその書評の著者である『兄、和宏』も連れ出すと言っていた。
どうして何も調べようとしなかったのか。彼の策に乗り、全てを終えたあと何かがオカシイと感じた。
『どうしてこうなった?』
確かに和宏への書評の書かせ方は乱暴で力づくだったろう。
しかしそのことが原因で彼が書評の仕事から身を引くことになるとは想定外。
嫌というほど金を積んだのは、彼の将来を思ってのこと。金でどうにかなるとは思っていないが、せめてもの罪滅ぼしのつもりだった。
その後、独自に『雛本阿貴』について調査を始めた。
簡単に見つかりはしなかったが、阿貴の実母を探し出し面会。
『ここに三十万ある』
『は? あんたなんなの』
阿貴の母は友人の経営するスナックで働いており、裕福とは言い難かった。金に困っているなら、金をちらつかせれば話くらい聴けるだろうと思ったのだ。
『阿貴の友人だ』
『また随分年の離れた友人がいるのね、あの子』
彼女は大きなため息を一つ着くと、
『で?』
と遠江を見つめた。
『話が聞きたい。これは回答料だ。嘘偽りなく話してくれれば支払う』
『へえ、雛本家についてでも調べているのかしら?』
彼女も同様、阿貴の実父には恨みを抱いてるのかかなり協力的だった。
『あの男には独身だと騙されたのよ。よくある結婚詐欺ってやつね。子供が四人もいるなんて聞いてないわ』
阿貴の母はお世辞抜きでも美人だと思う。
『そのうえ、そんな男のガキが出来ていい迷惑よ』
気づいた時にはおろすことは不可能だったようだ。
責任の一環として認知はしてくれたもののほったらかし。その認知も彼の本妻から言われてのことだったらしい。
『アイツは最悪だったけれど、アイツの妻はまともな女だったわよ』
なのに何故阿貴があんな風になってしまったのか?
『慰謝料は要らないから代わりに阿貴を育ててって押し付けたの』
だが彼女は雛本家では立場が弱い。
一族がどんな力関係か分からないが、阿貴の育った環境は良好とは言えなかったようだ。
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