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7──許されるならば永遠に【兄】

4 雛本一族の事情

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 何故怒っているか非常に気になったが、
『近くに縁結びの神社があるから行こうよ』
と優人に言われ、それきりになった。

 温泉街らしい町並み。趣のある土産物屋が軒を連ね、浴衣で歩く人たちもまた風情がある。
 和宏はと言えば、浴衣で外はダメと言われてしまったのでワイシャツにスラックス。いつも通りだ。
 繋いだ手が暖かくて、子供の頃のことを思い出しながら目的地へ向かう。
 彼が自分の身長を越えたのはいつだったのだろう。やはり空白の三年は心に影を落とす。

──自業自得なのに、何故自分はこんなにもこだわってしまうのだろう。
 傍にいたとて、次々彼女を作っていたなら辛かっただけなのに。

 人間とは勝手な生き物。
 失った時間に幸せな”たら、れば”を想像してしまう生き物なのだ。

「もう、そんな浮かない顔してどうしたの?」
 そんな和宏の沈んだ心に気づいたのだろうか? 優人が心配そうにこちらを覗き込む。立ち止まったのは神社への小道。
「いや。一緒にいなかった三年間、優人はどんなだったのかなって考えてた」
 和宏の言葉にため息を一つ着くと、腕を引き寄せ抱きしめてくれた。
「兄さんのことばかり考えていたよ。心配もしていたし」
 往来には人気もあるのに、こんなところで抱きしめられるなんてと思っていると、
「大丈夫、誰も俺たちなんて見てないよ」
と囁かれた。

 優人は母親似。和宏は父親似。
 正直あまり似てない兄弟だ。
 周りから見て、自分たちはちゃんと恋人同士に見えるのかと思うと少し嬉しくもある。
「アイツが、さっきさ」
「ん?」
 遠江のことだろうか?
「ちゃんと満足させてやれよって。兄さんは欲求不満だった?」
「え? いや」
 そんな顔をしていたのだろうか? と少し恥ずかしく思う。
「あっさり持っていかれたからの負け惜しみだとは思うけれど、腹立つなあ。アイツきっとまだ、兄さんのことが好きなんだ」
 ムッとする彼の背中に手を伸ばし、ぎゅっと抱き着く。
 自分にはお前しかいないというように。

 確かに遠江には好きとは言われたが、彼の言う好きは恋慕とは少し異なるような気もする。少なくとも情熱を感じる様な熱いものではなかった。
 とは言え、愛の形にもいろいろある。好きと言う以上、否定はしないが。
「打ち合わせの方はどうだったの?」
「日付なんかを提示されたよ。本人にも当日のことは話すから、指示通りに動くようにってさ」
 そこには阿貴も同席したはずだ。
 和宏はそのことが気になるが、
「連れ去るのは良いけれど、その後ってどうするの?」
 今回は、彼女が無理矢理好いてもいない男と結婚させられそうだから反対派が連れ去る判断。しかしその後本家に戻ってしまってはなんの意味もないだろう。

「阿貴がどうしたいかにもよるみたいだけれど、しばらくは分家の家で匿う算段みたい」
「そうなのか」
「むしろ、大事なのはその後の一族会議みたいだけれど」
 阿貴の父であり、彼女の父でもある男を一族から追放する計画だが、本家に縛っておけば娘に被害がこれ以上及ぶことがないというのが皆の見解。
 追放するとなると、娘に寄り付かせないようにするのも至難の業。
「最悪、法の力を必要とすることになるかも知れないけれど、出来ればそうはしたくないみたい」

 法の力を借りたからと言って、結局は本人次第。
 恐怖とトラウマで怯える生活を強いられるよりは、本家に置くことで何処にいるのか把握できた方が安全だとも言える。
「家長がびしっと言ってくれたらいいのにね」
「それはそうだが、祖父は?」
 家長は自分たちにとって曾祖父にあたる。母の両親は健在なはず。ここはやはり、親がびしっというべきではないのだろうか?

「それが今、海外出張でいないらしいんだよね」
「ああ。なるほど」
 いない時期を狙っての強硬手段なのかと和宏は納得したのであった。
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