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6──雛本一族の問題【実弟】
3 愛の行方
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「うん。似合わないね」
「煩いな」
平田に指摘され、優人はムッとした。
「優人、そろそろ……似合わないな」
本家へ行くための準備をしていた兄が部屋から顔を出し、リビングを覗き込みそう言った。
「兄さんまで」
部屋から出てきた兄はスーツを身に着けている。
優人もそれに倣ったが、色が合わないのか似合わないと言われた。
「優人は可愛い顔をしているから」
兄は傍まで歩いて来ると、自分よりも背の高い優人に手を伸ばし、前髪に触れる。
それを平田がやれやれというように眺めていた。
仲が良すぎる二人に呆れているのだろうか?
「先、車行ってる」
と兄は壁にかかっている優人の車のキーを掴むと玄関へ。
平田がまだ何か言いたげだったので、”何?”とそちらに向き直る優人。
「いや、別に。ただ、好いた相手の恋人が実の兄弟っていうのは、あれだなと思って」
「あれ?」
「ん、勝ち目ないなって」
”初めから勝ち目なんてなかったろ”と優人は玄関の方へ視線を走らせる。
「秒で断ったし」
と付け加えて。
「男がダメなんだと思ったんだが?」
「男もいけるんじゃなくて、兄さんが特別なだけだ」
言って優人が荷物を持つと、
「ああ、そういうことね」
と平田は引き下がった。
平田は兄と同じパンセクシャル。
好きになった人が好き。好きでなければ、誰でも無理。
それがパンセクシャルだ。
優人の言っていることがそれなのだと気づき、彼は踏み込むのを止めたのである。
「気をつけてな。結構距離あるんだろ?」
兄はペーパードライバー。必然的に自分が運転することになる。
距離よりも、本家の人間に会うことの方がずっと気が重かった。
「まあ、大したことないよ」
平田に片手をあげると、優人は玄関へ向かう。
遠江とは本家の近くで待ち合わせをしている。
両親たちは既に本家へ到着しているはずだ。これから阿貴に会うことを考えると、憂鬱にはなるがそんなことも言っていられない。
駐車場へ向かうと、兄は既に荷物を詰め込んでいて助手席に乗り込むところであった。奪還計画は慎重に行う必要がある。
本家での協力者たちと、今夜は旅館で会う予定。
何世帯暮らしているのかは知らないが、敷地内には三棟あり、うち一つは独身者の為の三階建ての洋館だといっていた。
我が一族は非常に変わっており、一族の絆が深い。
古くは、迫害にあ遭ったためとも言われている。
「場所は?」
「入力済みだ」
シートベルトを締め、運転席に乗り込む優人を見つめている兄に問うとそのような返答が戻ってきた。
再会したばかりの頃は少し硬い印象だったが、日に日に昔のように戻っている。その関係を嬉しく思いながら優人は運転席から身を乗り出し、彼に口づけた。
「おい……ここ駐車場だぞ?」
「大丈夫。地下駐車場なんて、滅多に人に遭遇しないから」
と優人。
「そういう問題か?」
ジャケットを後部座席に置くと、シートベルトを締める。
不服そうな兄がカーナビを操作し、音楽をかけた。
「デートみたいだね」
と言うと、
「そうだな」
と兄。
「一応手土産持っていった方がいいとは思うけれど」
「人数が人数だからな」
左右確認をし、アクセルを踏みこむ優人に、
「どこかで何か買っていこう」
と兄は言う。
少し埋まっていく兄と離れた時間。
戻ることはないが、確実にその心の距離は埋まっている気がした。
車内に流れるHere with me。
まるで自分の気持ちに被るような歌詞と切ない音楽。
泣きそうな気持になりながらも、運転に集中する。
変わらない朝が来て。
同じ夜が来て。
そしていつもの笑顔がそこにあることを願う、切に。
多くは望まないから。
「いつかスーツ似合うようになるかな」
「もっと細めのものなら合うんじゃないのか?」
なんとなく話題にしたことに即答する兄。
そのいつかは遠い未来でもいい。兄がずっと傍に居てくれるなら。
なのに。
「まあ無理しなくても。似合わない人もいるしさ」
とフォローを入れて彼が微笑む。
”ラフな恰好のお前が好きだよ”と添えて。
「煩いな」
平田に指摘され、優人はムッとした。
「優人、そろそろ……似合わないな」
本家へ行くための準備をしていた兄が部屋から顔を出し、リビングを覗き込みそう言った。
「兄さんまで」
部屋から出てきた兄はスーツを身に着けている。
優人もそれに倣ったが、色が合わないのか似合わないと言われた。
「優人は可愛い顔をしているから」
兄は傍まで歩いて来ると、自分よりも背の高い優人に手を伸ばし、前髪に触れる。
それを平田がやれやれというように眺めていた。
仲が良すぎる二人に呆れているのだろうか?
「先、車行ってる」
と兄は壁にかかっている優人の車のキーを掴むと玄関へ。
平田がまだ何か言いたげだったので、”何?”とそちらに向き直る優人。
「いや、別に。ただ、好いた相手の恋人が実の兄弟っていうのは、あれだなと思って」
「あれ?」
「ん、勝ち目ないなって」
”初めから勝ち目なんてなかったろ”と優人は玄関の方へ視線を走らせる。
「秒で断ったし」
と付け加えて。
「男がダメなんだと思ったんだが?」
「男もいけるんじゃなくて、兄さんが特別なだけだ」
言って優人が荷物を持つと、
「ああ、そういうことね」
と平田は引き下がった。
平田は兄と同じパンセクシャル。
好きになった人が好き。好きでなければ、誰でも無理。
それがパンセクシャルだ。
優人の言っていることがそれなのだと気づき、彼は踏み込むのを止めたのである。
「気をつけてな。結構距離あるんだろ?」
兄はペーパードライバー。必然的に自分が運転することになる。
距離よりも、本家の人間に会うことの方がずっと気が重かった。
「まあ、大したことないよ」
平田に片手をあげると、優人は玄関へ向かう。
遠江とは本家の近くで待ち合わせをしている。
両親たちは既に本家へ到着しているはずだ。これから阿貴に会うことを考えると、憂鬱にはなるがそんなことも言っていられない。
駐車場へ向かうと、兄は既に荷物を詰め込んでいて助手席に乗り込むところであった。奪還計画は慎重に行う必要がある。
本家での協力者たちと、今夜は旅館で会う予定。
何世帯暮らしているのかは知らないが、敷地内には三棟あり、うち一つは独身者の為の三階建ての洋館だといっていた。
我が一族は非常に変わっており、一族の絆が深い。
古くは、迫害にあ遭ったためとも言われている。
「場所は?」
「入力済みだ」
シートベルトを締め、運転席に乗り込む優人を見つめている兄に問うとそのような返答が戻ってきた。
再会したばかりの頃は少し硬い印象だったが、日に日に昔のように戻っている。その関係を嬉しく思いながら優人は運転席から身を乗り出し、彼に口づけた。
「おい……ここ駐車場だぞ?」
「大丈夫。地下駐車場なんて、滅多に人に遭遇しないから」
と優人。
「そういう問題か?」
ジャケットを後部座席に置くと、シートベルトを締める。
不服そうな兄がカーナビを操作し、音楽をかけた。
「デートみたいだね」
と言うと、
「そうだな」
と兄。
「一応手土産持っていった方がいいとは思うけれど」
「人数が人数だからな」
左右確認をし、アクセルを踏みこむ優人に、
「どこかで何か買っていこう」
と兄は言う。
少し埋まっていく兄と離れた時間。
戻ることはないが、確実にその心の距離は埋まっている気がした。
車内に流れるHere with me。
まるで自分の気持ちに被るような歌詞と切ない音楽。
泣きそうな気持になりながらも、運転に集中する。
変わらない朝が来て。
同じ夜が来て。
そしていつもの笑顔がそこにあることを願う、切に。
多くは望まないから。
「いつかスーツ似合うようになるかな」
「もっと細めのものなら合うんじゃないのか?」
なんとなく話題にしたことに即答する兄。
そのいつかは遠い未来でもいい。兄がずっと傍に居てくれるなら。
なのに。
「まあ無理しなくても。似合わない人もいるしさ」
とフォローを入れて彼が微笑む。
”ラフな恰好のお前が好きだよ”と添えて。
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