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5──憎しみの代償【義弟】
4 阿貴と彼の価値観の違い
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遠江は年齢という意味ではなく、とても大人だと思った。
自分は確かに彼に恨まれるようなことをしたのだ。
その事については後日、恨み言を言われた。
「君は最低なことをするよねえ」
彼にとって『雛本和宏』は特別な位置にある。
つまり遠江は和宏の純粋な書評ファンなのだ。
「自分のモノにしたいとか思わないわけ?」
と問う阿貴。
誰かを特別にリスペクトしたことのない阿貴には”純粋なファン”という、その感覚が分からなかった。
好きなら欲しい。それが阿貴だ。
「君は恋愛至上主義なのかい?」
と遠江。
「どうかな」
恋愛至上主義の定義くらいは知っているが、自分が絶対にそうだとは言い切れない。
現に阿貴は、優人のことを諦めている。
恋愛至上主義だというならば、叶うかどうか関係なく突っ走るはずだ。
「好き=恋愛とは限らないし、恋愛=性交とはならないものだよ」
その逆を体験している阿貴からすれば、それは簡単に理解できることだが、矛盾を感じているのも確かだった。
「世の中は矛盾で出来ている」
遠江は阿貴の考えを特に否定も肯定もせずにそう言う。
つまり恋愛=性交だとしても恋愛外≠性交とはならないということ。その逆も然《しか》り。
「人間は複雑な生き物だ。感情があり、倫理道徳観念を持つ。だがら葛藤もするし他人と衝突することもある」
阿貴は黙って遠江の話しを聞いていた。
「例えば性交は”子を成す”為に行うものだ。人間だけが愛だの金のために目的外の性交を行う。それは自然界に反する行為であり、無意味だ。それを知りながら人間は己の欲望の為に性交を行う」
倫理、道徳観に当てはめた時、それは必ずしも間違いとはならない。
「人間が自分で選び取っているだけなんだ。それを言い訳と感じるかは、人それぞれだろう?」
つまりイコールにならないのは、いろんな人がいるからであって善悪の問題ではないということである。
「人間って面倒なんだな」
遠江の話しを聞いて阿貴が思った感想は、概《おおむ》ねそれであった。
「少なくとも遠江は、義兄さんとヤりたいわけじゃないということ?」
すると、
「それは何とも言えないね」
と彼は笑った。
無理強いしたいわけではないが、和宏の気持ちが自分にあるならことに及んでもいいということなのだろうか。
「人の気持ちは複雑なんだよ、阿貴」
阿貴にとって遠江は分からないことの多い存在だ。
自分を愛人と豪語する癖に、性的なことを求めてきたりはしない。
だからこそ逆に束縛を感じてしまう。
例えば仕事には就業時間とお給金というものがあり、仕事内容もある程度決められている。
だがもし、何も決まっていなかったなら?
めどが立たず、いつ解放されるのかもわからないということだ。
やることが決まっているなら、それが終われば帰ることもできるだろう。
二人の間には『愛人』という見えない束縛があるだけで、何も求められることがなかった。だから阿貴は和宏を盾にして、逃げ出したのである。
「何故、あんたは俺に何も求めない?」
阿貴はサイドボードに寄りかかり話を聞いていたが、ソファーに腰かけると遠江にそう尋ねた。
初めは不能、もしくは異性愛者なのかと思ったりもしたが、どうやらそういうわけでもないらしい。
「なんだ。求められないのが不満なのかい?」
と彼。
「そういうわけじゃないが。愛人だという割には、何も求めないのが気になっただけだ」
「君は、和宏の義弟だ。僕にとってはそれだけで十分価値がある」
阿貴の質問に回答をくれた彼だが、阿貴はなんだか申し訳ない気持ちになった。自分は優人から『和宏に近づくな』と釘を刺されたばかり。
近づくことはおろか、連絡だって取らせては貰えないだろう。
その事を告げれば、彼は肩を竦め小さく笑う。
「それは些細なことだよ」
と。
自分は確かに彼に恨まれるようなことをしたのだ。
その事については後日、恨み言を言われた。
「君は最低なことをするよねえ」
彼にとって『雛本和宏』は特別な位置にある。
つまり遠江は和宏の純粋な書評ファンなのだ。
「自分のモノにしたいとか思わないわけ?」
と問う阿貴。
誰かを特別にリスペクトしたことのない阿貴には”純粋なファン”という、その感覚が分からなかった。
好きなら欲しい。それが阿貴だ。
「君は恋愛至上主義なのかい?」
と遠江。
「どうかな」
恋愛至上主義の定義くらいは知っているが、自分が絶対にそうだとは言い切れない。
現に阿貴は、優人のことを諦めている。
恋愛至上主義だというならば、叶うかどうか関係なく突っ走るはずだ。
「好き=恋愛とは限らないし、恋愛=性交とはならないものだよ」
その逆を体験している阿貴からすれば、それは簡単に理解できることだが、矛盾を感じているのも確かだった。
「世の中は矛盾で出来ている」
遠江は阿貴の考えを特に否定も肯定もせずにそう言う。
つまり恋愛=性交だとしても恋愛外≠性交とはならないということ。その逆も然《しか》り。
「人間は複雑な生き物だ。感情があり、倫理道徳観念を持つ。だがら葛藤もするし他人と衝突することもある」
阿貴は黙って遠江の話しを聞いていた。
「例えば性交は”子を成す”為に行うものだ。人間だけが愛だの金のために目的外の性交を行う。それは自然界に反する行為であり、無意味だ。それを知りながら人間は己の欲望の為に性交を行う」
倫理、道徳観に当てはめた時、それは必ずしも間違いとはならない。
「人間が自分で選び取っているだけなんだ。それを言い訳と感じるかは、人それぞれだろう?」
つまりイコールにならないのは、いろんな人がいるからであって善悪の問題ではないということである。
「人間って面倒なんだな」
遠江の話しを聞いて阿貴が思った感想は、概《おおむ》ねそれであった。
「少なくとも遠江は、義兄さんとヤりたいわけじゃないということ?」
すると、
「それは何とも言えないね」
と彼は笑った。
無理強いしたいわけではないが、和宏の気持ちが自分にあるならことに及んでもいいということなのだろうか。
「人の気持ちは複雑なんだよ、阿貴」
阿貴にとって遠江は分からないことの多い存在だ。
自分を愛人と豪語する癖に、性的なことを求めてきたりはしない。
だからこそ逆に束縛を感じてしまう。
例えば仕事には就業時間とお給金というものがあり、仕事内容もある程度決められている。
だがもし、何も決まっていなかったなら?
めどが立たず、いつ解放されるのかもわからないということだ。
やることが決まっているなら、それが終われば帰ることもできるだろう。
二人の間には『愛人』という見えない束縛があるだけで、何も求められることがなかった。だから阿貴は和宏を盾にして、逃げ出したのである。
「何故、あんたは俺に何も求めない?」
阿貴はサイドボードに寄りかかり話を聞いていたが、ソファーに腰かけると遠江にそう尋ねた。
初めは不能、もしくは異性愛者なのかと思ったりもしたが、どうやらそういうわけでもないらしい。
「なんだ。求められないのが不満なのかい?」
と彼。
「そういうわけじゃないが。愛人だという割には、何も求めないのが気になっただけだ」
「君は、和宏の義弟だ。僕にとってはそれだけで十分価値がある」
阿貴の質問に回答をくれた彼だが、阿貴はなんだか申し訳ない気持ちになった。自分は優人から『和宏に近づくな』と釘を刺されたばかり。
近づくことはおろか、連絡だって取らせては貰えないだろう。
その事を告げれば、彼は肩を竦め小さく笑う。
「それは些細なことだよ」
と。
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