19 / 114
4──抱えていた想い【実弟】
2 恋を知った日
しおりを挟む
「兄さん、寝ていていいから」
車に乗り込むと、疲れ切った和宏に優人はそう声をかける。
もう二度とこの幸せを失いたくないと思う。
ぎゅっとハンドルを握ると、彼の方を一瞥しアクセルを踏む。
三年前のあの日、優人は母から兄、和宏が家を出たことを知らされたのである。
「優人、ごめんね。和宏を止められなかった」
母は泣きながらそう言ったのだ。
優人は兄が家を出たことそのものよりも、自分に黙っていなくなったことの方がショックだった。
「兄さんは……俺のことが嫌いなの……?」
泣きたくなくて唇を噛みしめる。
しかしそんなものなんの役にも立たなかった。
傍に居た姉が二人から目を背ける。
それはまるで”痛々しい”とでも言っているように感じた。
「違うわ。和宏は優人のことが大好きで大切だから、黙って行ってしまったの」
その意味が優人には理解できなかった。
姉は何かを察したように、優人の背中を撫でる。
「意味が分からないよ」
震える声。
思った以上に傷ついている自分がいた。
「優人、よく聞いて」
母は優人の両肩を掴むと、優人の瞳を覗き込む。
「和宏はあなたが好きなの。それは特別な好きよ。でもきっと……あなたにはそれを受け入れることはできない。和宏はそう思って離れる決心をしたの」
優人は何がなんだかわからずに、ただ首を左右に振った。
「なに? なんで勝手に俺の気持ちを決めるの?」
母の言っていることは全く理解できない。
兄が自分を捨てたのだと思った。
何も話していないうちから勝手に何かを決めて、自分を捨てて阿貴と何処かへ行ってしまったのだと。
「優人も恋をするようになったら分かるわ」
それは姉の言葉。
だからいろんな人と付き合ってみた。
好きだと言われたらOKした。
でも、分かるどころかますますわからなくなっていったのだ。
学ぶことは多かった。
好きになれば、嫉妬、独占欲、優しさ、温かさ、笑顔、そして肉欲が沸き起こるものだと知る。
けれども兄は自分にそれらのものを求めなかった。
──兄さんの言う好きが分からない。
どうすればよかったの?
応えようにも当の本人がいない。
何を求めていたのか分からない。
理解したいと思った。
初めはたくさん送っていたメッセージ。
まったく既読がつくことはなかった。
拒否されているのだろうか?
毎日兄のことばかり考え、泣いた日もある。
そのうち、これが恋だと知った。
もう、手遅れなのだと半ばあきらめていたが、姉が傍に居てくれたから何とか耐えられたのだ。
そして母づてに送られる誕生日のメッセージに希望を繋いだ。
二年も経てば、兄の意思ではなく阿貴によって連絡が遮断されていると予想くらいつく。
どうやって兄を取り返したらいいのだろう?
そんなことばかり考えていたある日、あの男の秘書から連絡が来たのだ。
やっと巡って来たチャンスを逃すはずなどない。
いつの間にか車は目的地に着いていた。
和宏の自宅からは遠く、優人のマンションからはほど近いホテル。
今夜は外泊すると同居人には告げてある。姉は優人のマンションへ泊ると言っていた。同居人は男だが、姉とは顔見知りであるし特に心配はしていない。
「兄さん、着いたよ」
予約を取ってるのでフロントへ向かうだけだ。
「うん……」
ゆっくりと目を開ける和宏。
優人はシートベルトを外すと、和宏の頬を撫でた。その手に添えられる彼の手。くすぐったいというように、小さく笑う。
「兄さんに触れたい。早く部屋に行こうよ」
優人は気が変になるほど彼を求めて、愛を感じたいと思っていた。
「結構、積極的なんだな」
と和宏。
少し驚いたように優人を見上げている。
「兄さんは俺をなんだと思っているの? 俺はお姉ちゃんと違って無性愛者じゃないよ」
その言葉に和宏は一瞬言葉を失ったが、意味を理解したのか真っ赤になり腕で顔を覆ったのだった。
車に乗り込むと、疲れ切った和宏に優人はそう声をかける。
もう二度とこの幸せを失いたくないと思う。
ぎゅっとハンドルを握ると、彼の方を一瞥しアクセルを踏む。
三年前のあの日、優人は母から兄、和宏が家を出たことを知らされたのである。
「優人、ごめんね。和宏を止められなかった」
母は泣きながらそう言ったのだ。
優人は兄が家を出たことそのものよりも、自分に黙っていなくなったことの方がショックだった。
「兄さんは……俺のことが嫌いなの……?」
泣きたくなくて唇を噛みしめる。
しかしそんなものなんの役にも立たなかった。
傍に居た姉が二人から目を背ける。
それはまるで”痛々しい”とでも言っているように感じた。
「違うわ。和宏は優人のことが大好きで大切だから、黙って行ってしまったの」
その意味が優人には理解できなかった。
姉は何かを察したように、優人の背中を撫でる。
「意味が分からないよ」
震える声。
思った以上に傷ついている自分がいた。
「優人、よく聞いて」
母は優人の両肩を掴むと、優人の瞳を覗き込む。
「和宏はあなたが好きなの。それは特別な好きよ。でもきっと……あなたにはそれを受け入れることはできない。和宏はそう思って離れる決心をしたの」
優人は何がなんだかわからずに、ただ首を左右に振った。
「なに? なんで勝手に俺の気持ちを決めるの?」
母の言っていることは全く理解できない。
兄が自分を捨てたのだと思った。
何も話していないうちから勝手に何かを決めて、自分を捨てて阿貴と何処かへ行ってしまったのだと。
「優人も恋をするようになったら分かるわ」
それは姉の言葉。
だからいろんな人と付き合ってみた。
好きだと言われたらOKした。
でも、分かるどころかますますわからなくなっていったのだ。
学ぶことは多かった。
好きになれば、嫉妬、独占欲、優しさ、温かさ、笑顔、そして肉欲が沸き起こるものだと知る。
けれども兄は自分にそれらのものを求めなかった。
──兄さんの言う好きが分からない。
どうすればよかったの?
応えようにも当の本人がいない。
何を求めていたのか分からない。
理解したいと思った。
初めはたくさん送っていたメッセージ。
まったく既読がつくことはなかった。
拒否されているのだろうか?
毎日兄のことばかり考え、泣いた日もある。
そのうち、これが恋だと知った。
もう、手遅れなのだと半ばあきらめていたが、姉が傍に居てくれたから何とか耐えられたのだ。
そして母づてに送られる誕生日のメッセージに希望を繋いだ。
二年も経てば、兄の意思ではなく阿貴によって連絡が遮断されていると予想くらいつく。
どうやって兄を取り返したらいいのだろう?
そんなことばかり考えていたある日、あの男の秘書から連絡が来たのだ。
やっと巡って来たチャンスを逃すはずなどない。
いつの間にか車は目的地に着いていた。
和宏の自宅からは遠く、優人のマンションからはほど近いホテル。
今夜は外泊すると同居人には告げてある。姉は優人のマンションへ泊ると言っていた。同居人は男だが、姉とは顔見知りであるし特に心配はしていない。
「兄さん、着いたよ」
予約を取ってるのでフロントへ向かうだけだ。
「うん……」
ゆっくりと目を開ける和宏。
優人はシートベルトを外すと、和宏の頬を撫でた。その手に添えられる彼の手。くすぐったいというように、小さく笑う。
「兄さんに触れたい。早く部屋に行こうよ」
優人は気が変になるほど彼を求めて、愛を感じたいと思っていた。
「結構、積極的なんだな」
と和宏。
少し驚いたように優人を見上げている。
「兄さんは俺をなんだと思っているの? 俺はお姉ちゃんと違って無性愛者じゃないよ」
その言葉に和宏は一瞬言葉を失ったが、意味を理解したのか真っ赤になり腕で顔を覆ったのだった。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
眠れない夜の雲をくぐって
ほしのことば
恋愛
♡完結まで毎日投稿♡
女子高生のアカネと29歳社会人のウミは、とある喫茶店のバイトと常連客。
一目惚れをしてウミに思いを寄せるアカネはある日、ウミと高校生活を共にするという不思議な夢をみる。
最初はただの幸せな夢だと思っていたアカネだが、段々とそれが現実とリンクしているのではないだろうかと疑うようになる。
アカネが高校を卒業するタイミングで2人は、やっと夢で繋がっていたことを確かめ合う。夢で繋がっていた時間は、現実では初めて話す2人の距離をすぐに縮めてくれた。
現実で繋がってから2人が紡いで行く時間と思い。お互いの幸せを願い合う2人が選ぶ、切ない『ハッピーエンド』とは。
兄弟ってこれで合ってる!?
ててて
BL
母親が再婚した。
新しいお義父さんは、優しそうな人だった。
その人の連れ子で1歳上のお兄さんも優しそう
ずっと一人っ子だったおれは、兄弟に憧れてた。
しょうもないことで喧嘩したり、他愛もない話をしたり、一緒にお菓子を食べたり、ご飯も1人で食べなくていいし。
楽しみだな…
って、思ってたんだけど!!!
確かに仲のいい兄弟に憧れはあったけど!!!
え、兄弟ってこんなに距離近いの?
一緒にお風呂に入ったり、一緒に寝たり??
え、これって普通なの!?
兄弟ってこれで合ってる!?!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる