5 / 114
1──揺れる気持ちの真実【兄】
3 彼と和宏
しおりを挟む
指定された時間に、目的地に到着する。
見上げたガラス張りのビル。
彼が大きな会社の社長であることは、一目瞭然であった。
受付けで名乗ると、暫くして社長秘書とやらに専用エレベーターで上階の社長室まで案内される。
「やあ」
社長は書類から視線を上げ和宏のほうを見ると、微笑んだ。
和宏はその様子に戸惑う。あの日の彼とは、別人のように感じたからだ。
「社長はお忙しい身です。あまりお手を煩わせ……」
「やめなさい。彼は大事な客人だ」
秘書の言葉をぴしゃりと止める、彼。
「ランチはここで。二人分用意してくれるね」
柔らかい物腰で彼が指示をだすと秘書は、
「承りました」
といって下がった。
「雛本くん」
二人きりになると、彼はデスクから離れゆっくりと和宏の前まで歩いてくる。和宏はどうしていいか分からずに、立ち尽くしていた。
「逢いに来てくれてありがとう」
じっと見つめられ、鼓動が速くなる。
「どうしたんだい?」
「俺は、あんたのこと憎んで……」
泣きたい気持ちになりながら絞り出すように告げれば、彼は悲しそうな顔をした。
「でも、僕は君のことが好きだよ」
儚げな微笑みと、呟くように落とされた言葉。
────好き? 何を言っているんだ、一体。だって、あんたは……。
「ずっと、好きだったよ。逢ったことはなかったけれど」
そうだ、あの日が初対面だったはずだ。
「話、しに来たんだろう? とりあえず、座ったらどうだい?」
彼に促され、応接のソファーに腰かける。
彼は何故か傍らに立ち和宏を見下ろしていた。
「言葉には、魂が宿るって話、聞いたことあるかい?」
言葉とは昔、言霊と言われていたという程度の知識ならある。
「うん、そう。僕は、君の書評が好きだった」
言葉の向こうの君に恋をしていたと彼は言う。
「君に会ってみたくて、探したんだよ」
書評に顔写真などは載せてはいなかったはずだ。
彼は出版社に頼み面会を求めた。しかし、当然のことながら断られてしまう。仕方なく仕事を頼んだが、すぐに断りの連絡が入る。
「せめて会って話がしたいと思った。しかし、君の素性を知って事情を理解した」
自分が恋い焦がれた相手が、十以上も年が離れていること。
ならばせめて思い出にと、書評を一本無理矢理書かせたのだという。
「滑稽だな。君の紡ぐ言葉が好きだったのに……」
悲し気に和宏を見つめていた彼が、少し首を傾ける。
「仕事を辞めさせてしまうことになるなんて」
和宏はただじっと彼を見上げていた。
整った顔、スラリと背が高くがっちりとした体形。きっと筋肉質で、男らしい体つきをしているに違いない。
自分とは、正反対の男。
「君が、好きだよ」
優しい言葉を紡ぎ、彼は和宏の髪に触れたのだった。
見上げたガラス張りのビル。
彼が大きな会社の社長であることは、一目瞭然であった。
受付けで名乗ると、暫くして社長秘書とやらに専用エレベーターで上階の社長室まで案内される。
「やあ」
社長は書類から視線を上げ和宏のほうを見ると、微笑んだ。
和宏はその様子に戸惑う。あの日の彼とは、別人のように感じたからだ。
「社長はお忙しい身です。あまりお手を煩わせ……」
「やめなさい。彼は大事な客人だ」
秘書の言葉をぴしゃりと止める、彼。
「ランチはここで。二人分用意してくれるね」
柔らかい物腰で彼が指示をだすと秘書は、
「承りました」
といって下がった。
「雛本くん」
二人きりになると、彼はデスクから離れゆっくりと和宏の前まで歩いてくる。和宏はどうしていいか分からずに、立ち尽くしていた。
「逢いに来てくれてありがとう」
じっと見つめられ、鼓動が速くなる。
「どうしたんだい?」
「俺は、あんたのこと憎んで……」
泣きたい気持ちになりながら絞り出すように告げれば、彼は悲しそうな顔をした。
「でも、僕は君のことが好きだよ」
儚げな微笑みと、呟くように落とされた言葉。
────好き? 何を言っているんだ、一体。だって、あんたは……。
「ずっと、好きだったよ。逢ったことはなかったけれど」
そうだ、あの日が初対面だったはずだ。
「話、しに来たんだろう? とりあえず、座ったらどうだい?」
彼に促され、応接のソファーに腰かける。
彼は何故か傍らに立ち和宏を見下ろしていた。
「言葉には、魂が宿るって話、聞いたことあるかい?」
言葉とは昔、言霊と言われていたという程度の知識ならある。
「うん、そう。僕は、君の書評が好きだった」
言葉の向こうの君に恋をしていたと彼は言う。
「君に会ってみたくて、探したんだよ」
書評に顔写真などは載せてはいなかったはずだ。
彼は出版社に頼み面会を求めた。しかし、当然のことながら断られてしまう。仕方なく仕事を頼んだが、すぐに断りの連絡が入る。
「せめて会って話がしたいと思った。しかし、君の素性を知って事情を理解した」
自分が恋い焦がれた相手が、十以上も年が離れていること。
ならばせめて思い出にと、書評を一本無理矢理書かせたのだという。
「滑稽だな。君の紡ぐ言葉が好きだったのに……」
悲し気に和宏を見つめていた彼が、少し首を傾ける。
「仕事を辞めさせてしまうことになるなんて」
和宏はただじっと彼を見上げていた。
整った顔、スラリと背が高くがっちりとした体形。きっと筋肉質で、男らしい体つきをしているに違いない。
自分とは、正反対の男。
「君が、好きだよ」
優しい言葉を紡ぎ、彼は和宏の髪に触れたのだった。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる