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リーマン物語1

【九話・電車もやってたあのSNS?!】

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「ん? 課長、今なんと?」
 塩田と 話していたはずの電車が課長を振り返る。塩田は記にせず管理人について店に入っていった。
「おい!急に止まったら……」
 チーん! 塩田について店に入ろうとした板井の手が電車の股間にクリーンヒット!
「痛った!」
「悪い!」
 ここに居ると股間が危険にさらされそうなので、ひとまず店内へ。

****

「うっわ! その子知ってる」
 電車がムンクの叫びのようなポーズを決める。
 しかし、ショックを受けたのはメニューにバナナがなかったからである。
「なんて、SNSだっけ?」
と板井。
 塩田は無言で管理人と二人鍋をつついていた。
「“お前がスターだ! ”誰でもスターになれるんですが、時々怪奇現象が起きるんですよ」
(大丈夫、それはサイト管理人の意図的なものだ)
「うちの花は大丈夫なのか?」
 課長の娘はとっても可愛い花と言う。ちなみに【とっても可愛い】は名字である。

「うちの花、変なパンツ書いてないだろうな?」
「スケスケの時点で変なパンツなんじゃ?」
 板井が課長にツッコミをいれたが、課長はテーブルに突っ伏していた。
「スケスケと言えば、今季男性物のスケスケおパンティを箱買いする奴がいるんですが」
「箱買い?!」
(ええ、変態兄弟の兄です。知らんかたごめんなさい)
「そんな買ってどうするの? 俺ですらバナナパンツは七枚しか持ってないのに」
と、電車。
「七枚も……バナナ。いや、お前のバナナはどうでもいい! うちの花だ!」
「課長、バナナじゃなくてパンツ!」
 電車は“へ・ん・た・い♡”といって股間を押さえた。

「課長、次のデザインどうするんです?」
と板井。
 とことん娘の話はスルーされるようだ。
「ああ……原始人シリーズな……」
「男のバナナにしましょうよ」
 電車は急に活気づいた。
「もう『男は  ”股間が命、原始人”』でだしてるからなぁ……」
(この度、変態兄弟とコラボ決定いたしました)

****

「“主人公の手芸部員が作った、スケスケのおパンティを手に入れたものは、何でも一つだけ叶うという噂が囁かれ、街ぐるみで奪いあう話”らしい」
「ンン?!」
 あまりにも課長が項垂れているので塩田がサイトへアクセスし、あらすじを読み上げる。
「なんだそりゃ、面白いのか?」
「知るか!」
 塩田はそこまで責任持てるか! と言わんばかりに即答した。課長は塩田のスマホを覗き込む。

「健全みたいだよ」
と、バナナ……もとい、電車。“課長、塩田とくっつき過ぎ!”と二人の間にバナナを挟む。
 非常に邪魔だ。
「パンツ奪いあうとか全然健全じゃな……」
 横から口を出してきた板井の顔にベシッとバナナをぶつける、電車。
「痛ッ」
「バナナ読め」
「読めるか、そんなもん!」
「違った、空気」

 塩田はそんな二人を腕を組み眺め、電車がその視線に気づく。
「なに、塩田。俺と板井が仲良くしてるから妬いてる?」
「は?」
 “何言ってるんだ、バカか?”という顔をしたが、電車はニコニコしている。

「そんな、顔しなくても俺は塩田一筋だから安心して♡」
 バナナを可愛く抱え、ウインクして見せる。
「いらん」
「バナナモチモチクッション持っていってあげるしー」
「いらな……それは、いる」
 あれだけあってまだ欲しいという塩田に、課長が嫌な顔をした。すでに五個もあるはずだ。
「俺にもくれよ」
「塩田限定で」
 電車の塩田愛はまるでペット愛のようである。

****

「電車さあ、ちょっと塩田を贔屓し過ぎじゃね?」
と、課長。
「えー、課長だって御中元。塩田に和牛贈ってたじゃん」
「いや、あれはだな」
 電車と課長の会話にびっくり顔の板井。
 塩田は片腕で頬杖をつき板井に向かって、
「腕時計ありがとな」
と珍しく微笑む。
 塩田の腕には高級腕時計。電車と課長が般若顔をした。

「なに、どういうこと!」
と、電車が板井にバナナを食らわす。
「痛ッ」
「お前らそういう関係だったのか……」
「なんです! そういう関係って」
 電車はバナナでバシバシと課長を叩く。
「痛ッ! 落ちつけ、バナナ……じゃなかった、電車」
「落ち着けるわけないでしょおおおおお! 何、横恋慕してんの! 板井」
 電車は板井の襟首を掴み前後にガシガシふった。
「そんなんじゃないし!塩田が誕生日だっていうから」
「なぁーにぃーーーー?!」
 電車が般若顔で塩田の方を見る。塩田は尊大な態度で鍋をつついていた。

「塩田、なんで俺に内緒にしてんの?」
「してない」
「なんで俺には自己申告しないの?」
 課長を突飛ばし、塩田の隣に座り腕を掴んだ。
「言う必要がない」
「なんで?! 板井には……」
 指を指そうとしたらちょうど立ち上がった所だった課長の股間に指が刺さる。
「なんか、ムニッて……」
 電車は恐る恐る振り返ると……
「堂々とセクハラか?」
と、課長。
「ぎゃあああああああああ!」
「やかましい」
 電車は塩田に雑誌でひっぱたかれた。
「俺、初めては塩田のバナナって決めてたのに!」
「やめろ、そんな志は」

****


「ああああああ。俺の手がっ俺の手があああああああ」
「お前はム○カっつの」
 塩田は電車の手から落ちそうになったバナナをキャッチするとそれでツッコミを入れる。
(決してバナナを突っ込んだわけではありません)

「塩田、俺の手穢れたの。ぷにってしたの!」
「で?」
「口直しならぬ、指直しさせて」
「は?」
 電車が塩田の前にしゃがみこむと足に縋りつく。
「なんだって?」
 聞き返さなければ良かったものを思わず聞き返してしまった。
「塩田のバナナを触らせて?」
「何キチガイみたいなこと言ってるんだ! 断る」
「ええええええ」

 えええええじゃないだろ。
 セクハラな上にド変態じゃないか。

「じゃあ俺は、この”むにっ”て感触を一生胸に抱いて生きていかなければならないの?」
「大げさな」
「死ぬまで課長の感触を」
 塩田の足を掴みガシガシと前後に振り悶絶する電車。
「その言い方はやめろ」
「俺、塩田の感触に塗り替えたい」
 謎の要望をされ、対処に困る。オーバーアクションをして手を拡げた電車にさらなる悲劇が襲う。トイレから返って来た板井の股間に電車の手が刺さった。
「ちょ! なんなの電車」
と、板井。
 股間を押さえている。
「ぎゃあああああああああ!」
 ムンクの叫びのようなポーズで雄叫びを上げる電車。
「電車、うるさい」
 それをバナナで引っ叩く塩田。

「塩田ああああああ」
「なんだ」
「今、こんにゃくみたいな感触したあ!」

 つまり弾力は板井の方が上ということか?
 そんな情報いらんのだが。

「塩田、緊急にお前のバナナが必要だ」
「断る!」
「ちょっとだけ。ちょっとだけだから、ね?」
 思わず流されそうになって、ハッとする。
「絶対に、い・や・だ!」
「なんでええええええ?同僚でしょ?」

 そういう問題じゃない。

 管理人だけがわれ関せずという顔で鍋をつついていた。ちなみに管理人の髪型はアフロである。

****

 塩田が電車でんまをあしらっていると
「塩田、人事部から」
といって、課長がかけていたスマホを指す。
 塩田に電話というわけではなく何か連絡があるらしい。
「ちょっと変わったヤツが研修でくるとの事だ」
「で?」
 やっと大人しくなった電車の頭をポンポンと犬のように撫でながら、課長に問う。
「気をつけろとのことだ」

 気をつける? 何にだ。

苦情係うちに来るということか?」
「いや。そういうわけではないらしい」
 なんだか分かったような分からない話だ。電車は相変わらず”俺の指が……”と悶絶している。
「うるさいから、バナナでも食ってろよ」
「あーんしてくれる?」
「断る」
 電車は”NOOOOOOOOOOOOッ!”と絶叫してテーブルに額を打ちつけた。
 困ったやつだなと思いながらも、塩田はスルーする。こんなことにいちいち付き合っていたら、身が持たない。

「テーブル壊れるから辞めろよ」
「じゃあ、慰めて」
 仕方ないので、突っ伏している電車の頭の上にバナナを乗せた。まるでお供え物のように。
「ちょっ……動けない」
「大人しくしてろよ」
 電車の相手をしていると、仕方なく電車の隣に座った板井が、羨ましげ気な顔をしてこちらをみていた。
「なんだ板井。お前も頭にバナナを乗せられたいのか?」
「そんなこと一言も言ってない」
 両手を前にやり断る仕草をしているにも関わらず、電車に突き飛ばされ、管理人の横に座ることを余儀なくされた課長が、にやりと笑みを浮かべる。嫌な予感しかしない。

「よし、俺が乗せてやろう。何個乗るかな?」
「ぎゃああああああ!」
 無理矢理、頭にバナナを乗せられ、わけのわからない状況になった。酔ってもいないのに酔っ払いのようなサラリーマンの日常は続く。
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