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リーマン物語1

【八話・黒き皮はどなの?】

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「よーお」
また誰かが来た。しかもオペラを歌いながら。
「よう、総括」
それに課長が反応をした。
「総括?」
電車が復唱し、板井が頭を下げた。塩田は回転椅子の上でふんぞり反っている。さすが、塩田。
「なんの歌です?」
と、問う板井に電車が
「知ってる!黒き皮はドナノ?でしょ」
「惜しい!美しき青きドナウだ」
総括はそういって、キラーンと白い歯を光らせた。

全然惜しくない。

「で、何の用です?超エリート様が苦情係に」
塩田は腕組みをして総括を眺めている。塩田に気づいた総括が態度をかえ、ツカツカとカウンターに近づくと何かの用紙を広げた。
「塩田!結婚しよう」
「は?」
「俺は運命を感じた!今すぐ」
イケメン超エリートに突然求婚され、課長たちがざわめく。

「いや、感じてませんので」
「じゃあ、感じよう!今すぐ」
手を握り込まれ、どう返すか考えていたら視線を感じた。課長、電車、板井がカウンターに張りつき塩田の股間に注目している。

「まてまて!仕事中にそんなところ感じないから!」
塩田は珍しく慌てたのだった。

****

「早く運命感じようや」
「無理なんで」
総括と塩田のやりとりをよそに、電車が新しいファックスを取り上げた。社長より各部への伝達事項だ。
「ん?何か項目増えてる」
と、電車。
「どれどれ」
と課長が覗き込む。

【塩田をゲットした者には一年間自由に有給を消化する許可を与える】

「ちょ!」
どうやら総括は溜まりに溜まった有給を消化したいらしい。なんと涙ぐましい。
「もう、結婚してやれよ塩田」
「なんでだよ」
「総括、切実じゃん!」
バナナ…もとい、電車は敵に塩を贈ろうとした。
(塩だけにね!)

「嫌だよ、そもそも重婚じゃないかよ。捕まるから」
塩田は眉を寄せる。三人は総括に注目した。
「は?重婚?」
と。
「何故、知ってるんだ…塩田」
「いや、去年結婚式に呼ばれたので」
そこで苦情係は炎上する。
「なんで塩田だけ呼ぶんだよ!同期じゃないかよ」
と、課長。
「え、ズルくない?」
と、電車。
「贔屓だ!」
と、板井。

「え、お前ら来たかったの?」
総括は驚いている。
「結婚は人生のバナナって言うじゃないですか!バナナー」
電車は悶絶している。
「それをいうなら墓場だろ」
とまるごとバ○ナを咥えながら課長がツッこんだのだった。
(バナナをじゃないよ!)

****

「!」
「!!」
「あいつが来る」
ふわっとよい匂いが鼻先をかすめ、課長、バナナ…もとい、電車、板井が苦情係の入り口に注目し総括が眉を潜めた。
「俺は居ないと…」
塩田があからさまに嫌な顔をし、カウンターに隠れようとしたところに“ヤツ”は襲来する。
「やあ、マイハニー塩田と愉快なバナナたちよ」
ブランドスーツを身にまとったキラキラ男がカッコつけて入り口でポーズを決め、スマートに中に入って行こうとしてテンプレート発生。板井の小指につまづきヤツはカウンターに突進した。

「誰がハニーだ」
「俺様」
くいくいっと自分を親指でさす、この男は副社長である。つまり時期社長だが飛んでもない野望を抱いたクレイジーな男である。
「挙式、いつにする?」
カウンターにひょいっと乗り上げ、足を組んだ。
「そんな予定はない」
「冷たいねえ、マイハニー」
ヤレヤレと肩をすくめオーバーアクションをする副社長。総括がそこに乱入する。

「待て、塩田は俺のだ。俺の有給消化がかかっている、引いてもらおうか」
「ふん。俺の野望を叶える方が有用だろう?ん?」
”なあ、塩田”と副社長は身体をひねり塩田に目を向けた。
「ドS美麗俺様副社長×イケメン塩対応男。これを売り出し腐女子の心を掴み儲けまくる!わが社は安泰」
「まるでAVの帯だな。断る」
塩田は腕を組みふいっと横を向く。
「おまえなあ、世の中金だぞ?豪遊させてやる。今すぐ俺様と結婚しろ」
「断る!」

(言っておくが、この物語はBLではない。ただの私利私欲にまみれた塩田争奪物語である)

****

「そういや、副社長って婚約してましたよね?」
何故突然、電車が口を挟んだのかと思ったら彼は商品部の方をみていた。
「婚約者の一人や二人なんだって言うんだ。金のためなら何人だって…」
副社長がトチ狂ったことをいい始めたところに乱入者襲来!

「ダーリン!何してますの。わたくしとの約束をすっぽ…」
そこでテンプレートが発生、美女は板井の小指につまづき、副社長の胸の中に突進した。
「イタタ…」
板井は足を押さえる。
「ごめん遊ばせ」
美女はポーズを決めた。
「肋骨折れるかと思ったよ、ハニー」
二人の世界だけ花が咲き乱れている。

「あら、塩田じゃありませんの。ちょっとダーリン!抜け駆けは許しませんわよ」
美女は塩田に食いついた。副社長ダーリンを押し退けて。
「どうも」
塩田はマイ椅子にて足を組み、ふんぞりかえっている。
「塩田、挙式はいつにしまして?」
「は?」
「わたくしとあなたの挙式ですわ」
「婚約した覚えはないが」
塩田が肩を竦めると、副社長が横から口を挟む。
てっきり止めるかと思いきや
「俺様かハニーかどちらか選べ」
「わたくしと【ドS美女×快楽落ちイケメン塩対応男】これで売り出しましょう!塩田」

まてまて、AVみたいなタイトルだぞ。

「あなたを蹂躙しプライドをズタズタにして差し上げましてよ。あー…想像するだけで興奮しますわ」
ただの変態である。
「断る」
「何よ!誰ならいいのよ」
と、その時…。管理人がおもむろに立ち上がり
「お昼だわ。キムチ鍋食べに行ってくる」
とみなに告げた。
「俺も行く」
「え?え?ちょ、塩田?!」

****

「ちょ!塩田?!」
塩田は管理人と共に苦情係を出ていこうとする。
「俺もいくー!」
別名塩田の金魚のフン、バナナ…もとい…電車がスキップしながら着いていく。
「じゃ、俺も」
と板井。苦情係の連中はいなくなった。

「おい、いいのか?課長」
と、総括。
「俺もいくから、大丈夫」
“じゃ!”と言って片手をあげると課長も苦情係をあとにした。

****

「やっぱり、キムチ鍋はニラが決め手だよなー」
「お前、バナナしか食わないだろ」
電車に塩田が突っ込んだ。
(バナナじゃないよ!)

「課長、なんでまるごと○ナナ持って歩いてるんですか?」
と、板井。
「何時なんどきも、食べれるようにだ」
まるで防災道具のようにいうが、賞味期限は短い。
「そんなしょっちゅう食べなくても」
「まるごとバ○ナを食べている時が人生で一番幸せなんだ!」
「家庭、上手くいってないんですか?」
板井の質問に課長は遠い目をした。

「板井いいいい!」
「はいいいいい!」
板井は突然、課長に両肩を捕まれる。まるご○バナナがバシバシとぶつかった。
「娘が最近変な小説を書いているんだ」
「はあ…」
「“あいつのスケスケおパンティ争奪戦”って言うんだけど…バックプリントが首相とかだったらどうしよう…」
(突然の”花ちゃん”とコラボですw)
「え?心配するとこソコ?!」
「他にどこ心配するんだよ」


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