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リーマン物語1

【三話・奇妙なストーカーとおパンツ論争】

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「お届けものでーす!」
 陽気な声と共に、宅配が届く。課長は五個目のまるごとバ○ナを加えていた。
「塩田宛みたいよ」
「ん?」
 宅配のお兄さんは板井の小指につまづいた。
「ぬあっ!」
「いてッ」
「あぶなっ!」
 すかさず電車が荷物を取り上げ、宅配のお兄さんはカウンターに突撃した。
 その拍子に伝票がヒラヒラと舞う。それを塩田は、キャッチ。すかさず印鑑を押した。

「毎度!」
「痛ッ!」
 何事も無かったように伝票を受けとると振り返って再び板井の小指につまずき、ズササササと隣の部署に胴体でスライディングしながら出ていった。
 いつもの事なので誰もツッコまない。
「荷物なに?」
「バナナの苗木みたいだけど。手紙ついてるよ」
 手紙を渡そうとカウンターに近づこうとしたら、電車は板井の小指を踏んだ。
「痛っ!」
 板井は悶絶している。

「何だって? あ、写真入ってるよ」
 電車が封筒の中を覗き込むと三枚の写真が出てきた。
 そこで六個目のまるごとバナ○を加えた課長が興味を示し、カウンターに近づく途中で板井の小指を踏んだ。
「ちょっ! 課長っ」
「悪い。つか、いつまで這いつくばってるんだ」
 呆れるくらいまるごと○ナナを食べている課長が、呆れ顔で。

「”いつも、あなたのバナナを見ています♡”なんだ、こりゃ」
 塩田はピンクの便箋に書かれた文面を読み上げる。
「んー? 写真の裏側に何か書いてあるよ。明後日のバナナ?」
 一枚目には”明後日のバナナ”と書いてあり×がされており
「一昨日のバナナって書き直してある」
 小さな文字で“間違った”と添えてあった。

****

「で、昨日のバナナと今日のバナナ」
 電車が読み上げるのを塩田は眉を寄せ覗き込んだ。
「今日のバナナのところに“そろそろ食べ頃です。今夜頂きに参ります♡”って書いてある」
「は?」
「塩田、なんでカーテン閉めないんだ?」
と、課長。
「いや、こんなとこ開けっ放しでも問題ないでしょう」

「塩田は黒い派なの?」
 写真の表を見た電車が問う。
「食べ頃だろ」
「俺、硬い方が好きだな」
と、横から課長が。七個目のまるご○バナナを加えつつ。
「俺も硬い方が好きだなー」
と、電車。
「お前ら邪道だぞ! 皮が黒くなったら食べ頃だ」
 写真には塩田の家のキッチンらしき部屋のテーブルの上のバナナがドアップで撮されている。

「バナナもいいけど、映り込んでいるパンツが気になるんだけど」
と、電車。
「なんで首相の顔がバックプリントされてんの?」
「そんなの政治に不満があるから細やかな反抗に決まっているだろ! 座る度にケツで踏みつけているんだ」
 フンヌ! と塩田が腰に手を当てる。
「前はどうなってるの? まさか口から……」
「そんなド変態じゃないぞ!」

****

「そういえば、子供用のパンツに五人戦隊が前にプリントされているやつあるじゃない?」
と、電車。
 塩田と板井、課長がパンツをもやもやーんと思い浮かべてみた。
「あれってつまり、ブルーさんとレッドさんの間から心霊写真的な感じで“こんにちは!”って感じなわけ?」
「ぶっ」
 想像して課長がコーヒーを吹いた。

「まてまて、プリントは正面じゃないだろ。脇の方じゃないのか?」
と塩田。
「嫌だ、そんなパンツ」
と板井。

「時々、彼女さんとかが可愛いからといって“キ○ィ”とかのパンツを彼氏にあげるってどうなの?」
「うーん」
と塩田は唸るがバックプリントは安倍○三である。
 お前が唸るのか⁈とツッコみたい。
「大好きなキャラを彼氏の股間に貼り付けてるってシュールじゃない? 冷静に考えると」
と電車。
 課長は柿○種を貪っている。
「いや、葉っぱ○じゃあるまいし、その発想は……」
と塩田。
(お前のバックプリントはいいのか!)

「課長、なにさりげなく○の種食ってるんすか!」
「甘いもの食べてたら別のバナナ型が食べたくなってさー」
 確かに柿の○はバナナ型だが、それ以前にどんだけ食うんだ!
「課長のとこの嫁さんはどうなんです? ラブラブらしいですが」
 どんなパンツ買ってくるのか聞いたつもりだったが
「うちの嫁さん、バナナ買ってきてくれねーんだよ」
と、ぼやいている。

 会社であれだけバナナ食って、家でも食う気か?

 塩田は家のキッチンにある食べ頃黒皮バナナに想いを馳せつつ。

「あ、そうだ。お前ら今日呑みにいかね?」
と、課長。
 黒バナナは遠退いた。
「そんだけ食ってまだ呑み食いする気っすか!」
と、板井。
(もっともである)

****

「ところで、この苗木どーすんだ?」
と課長。今度はキュウリを齧っている。つくづくよく食う人だ。長いものを。
「ほんとにバナナなのー? これ」
と、電車。
「知るか!」
「プルーンじゃね?」
 課長は適当なことを言い始めた。
「採れたプルーンをこう、バナナのサイドに添えて……」
「バランスおかしいでしょ!」
 課長と電車はやんや言っているが、塩田は苗木を会社一回のエントランスにある花壇にこっそり混ぜて置けばいいなと思っていた。

「ところで、塩田のバナナストーカーって心当たりは?」
といつまでも床と一体化している板井が問う。
「多分、うちのマンションの管理人のおばさんだな。いつも俺のバナナ狙って……おい! どこみてんだ」
 課長をはじめとした三人は塩田の股間に注目する。
「バナナ」
 パコーン☆
 塩田は、まるめた雑誌で三人の頭をひっぱたいた。
 課長は三本目のキュウリを齧っている。

「あの人いつも俺のバナナを向かい側のビルから双眼鏡でみてるんだよ」
「バナナハンター!」
 電車は喜んでいる。その時黒電話が鳴った。

 また、苦情かよ!

 塩田はため息をつきながら電話に出る。
「ちょっと! オタクにバナナ買いに言ったら売り切れてたんですけど! どうなってるの?」
「ちっ」

 誰だよ、バナナ買い占めたやつ。

「お客様、代わりに茄子をオススメします」
「長けりゃいいってもんじゃないでしょ!」
「太さも手頃でございますよ」
「……」

 塩田たちのバナナ談義は続く。
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