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━2章【不器用な二人】━

4.5-2『自業自得』【微R】

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 ****♡side・鶴城

「あああああ!」
 夕食時。美崎が一所懸命、映えるように舟盛りを撮ろうと奮闘しているのだが。
「なにやってんだよ」
 手元を覗き込めば
「間違ってズーム押しちゃって」
 舟盛りは、魚の顔のドアップになっている。
「なんか難しい」
「撮って貰おうや」
「?」
 不思議そうにしている彼。そこに料理を運んでくる担当の仲居さん。

「すみません、写真撮ってもらえませんか?」
 鶴城が彼女に頼むと快く引き受けてくれた。”どうせ、白石がみてるんだろう”そう思った鶴城は美崎に思いっきり近づく。
「えッ、慎?」
「どうせなら、ラブラブなの撮ってもらおうぜ」
 赤くなった彼だが、嫌ではないらしい。美崎は、鶴城がSNSをはじめた事で周りに虫が寄り付くと考えているからだ。そして、この写メで虫除けしてやると思ったようだ。
「ありがとうございます」
 数枚撮ってもらいお礼を述べると、彼女は微笑んで仕事に戻っていく。

「どうだ? アップできたのか?」
「ちょっ! 急に話しかけるから間違っちゃったじゃないかよ」
 美崎は手元が狂って魚の顔をアップしたらしい。鶴城は思わず吹いた。今頃、白石がぎょっとしているんじゃないか? と思うと笑いが止まらない。
「ん、できたよ」
 嬉しそうに鶴城を見上げる彼が可愛くて思わず口づける。
「んッ……慎!」
「ごめん、優也が可愛いから」
 そういって彼の髪を愛しそうに撫でれば胸に擦り寄ってくるので、思わず押し倒したくなった。
「飯、食お」
「えーっ、食べるけど」

 どうやらイチャイチャしたかったらしい美崎は不服そうにしながらも箸をとった。
 そんな様子が可愛くて、鶴城は彼の耳元でそっと、
「早く食べて、エッチしよ」
 と囁くと彼は全身真っ赤になる。
 鶴城はクククと笑う。いつまでも純情な彼が可愛いし、そんなところが愛しい。
「優也は可愛い」
 と言えば
「誰と比べてんの」
 とムッとするので
「白石」
 と笑いながら答えてやると、なんだか複雑な表情をしたのだった。

   **・**

「こっちみて」
 浴衣の乱れ方がなんとも言えず鶴城を興奮させていく。だが美崎は恥ずかしがって腕で顔を覆っていた。
「恥ずかしい」

 月の綺麗な夜。室内は電気がついているのでそれを堪能することはできなかった。ロマンチックに憧れる美崎に最高の演出をしてやろうと鶴城はおもむろに立ち上がると電気を消し障子を開け放った。差込む月明かり。外にあるの個室露天風呂は四つの柱で六角の簡易な木材で出来た屋根を支えてはいるものの囲まれているわけではない。
 温泉に葉などが落ちたり直射日光を避けるためにあるようなものである。その奥には周りからの目隠しとして木材で目隠しがあるのだが、その手前は綺麗に整えられた庭園がある。月明かりに照らされたそれらは幻想的で、特に温泉に移りこんだ月は美しかった。まるで月が落っこちてきたようで。

 幻想的な世界と愛しい恋人。
「優也、綺麗だよ。見て」
 再び彼の元へゆくとその身を抱き起こす。
「ほんとだ」
 足の間に座った彼の腿を引き寄せぴたりと密着すると、彼のシャンプーの香りが鼻先をくすぐった。
「優也、いい匂いがする」
「慎も同じでしょ」
 月明かりに照らされた彼は照れたような微笑を浮かべる。天使のようだと思った。

 そっと口づければ美崎は目を閉じる。あまりに可愛くて今すぐ犯したい衝動に駆られるが耐えた。ゆっくりと時間をかけ焦らしたい。”挿れて…”と涙ぐんで懇願する美崎の姿がどうしようも無く好きだったから。
「んッ」
 閉じた歯をなぞれば彼が口を躊躇いがちに開いた。何故こうも彼は自分を魅了して止まないのだろうか。何度抱いてもまるで処女のような反応をする彼が堪らなく愛しくて欲情する。堪え性のない自分に嫌気がするほど彼は魅力的で可愛い。
「優也、愛してるよ」
「んッ……好き……」
 ロマンチックな演出は彼のお気に召したようで、素直に感じてくれている。そのことがとても嬉しい。

 ──優也はいつか返事をくれるだろうか?
  ずっと傍に居てくれるという返事を。
  そして、証を受け入れてくれるだろうか?

 自分の人生には彼が必要不可欠だ。美崎のいない人生なんてもう考えられない。彼は自分とは正確は真逆だと思う。繊細で、美人で、誠実で真面目で。もっとも自分も一途だとは思うが。健気で彼は可愛い。恥ずかしがるのも、大切にして欲しいと願うのも自分に自信が無く、愛されていないと感じるから。自分は上手に愛せていないとは思う。でも、彼が好きだ、生涯を共にしたいと思うほどに。

   **・**

「んんッ……」
「好きだ、優也」
「んッ……好き……」

 いつもは恥ずかしがって見せてはくれないのに、月明かりという明るさは彼にとって安心できる明るさなようで。全裸にし、肌を撫で回しても嫌がらなかった。それどころか、肌がどんどん熱を持っていく。彼もまた欲情してくれているのだと思ったら嬉しかった。

 ──どうして俺、優也のことで頭いっぱいなんだろうな。
  ヤキモチもわがままも、強がりで我慢するところも。
  全部可愛い。
  でも、俺……もっと甘えて欲しいよ。
  そりゃ、頼りないかもしれないけど。

 今更、たった一つの年齢差が気になる。自分が年上だったら素直に甘えてくれたのか?なんで起こりもしないifを考えてしまう。圭一と一緒に居る時の穏やかな安心しきった顔がチラつく。

 ──いや、しかし……。
  大崎先輩は特殊だ。
  あんな風に常に余裕綽々でいられる人間なんてそうそういない。

「慎ッ……」
 美崎自身を愛撫していた鶴城に我慢できないというように潤んだ瞳を向ける彼が愛しい。望むままに彼の蕾に舌を這わせた。

 ──優也は後ろ好きだよな。
  大学にいってもし誰かに言い寄られたりしたら……。
  無理矢理酒で酔わされたりしたら……。

 不安で堪らない。なんだかんだで美崎はとても無防備だ。自分と初めて性交に及んだ時もそうだった。そうでなければ強引に繋がることなどできはしない。男の身体は女とは違う。無理矢理嫌がる彼を犯した。言葉巧みに力を抜かせて……。

 ──優也が欲しかった。
  自分のものにしたかった。
  あの時はチャンスだと思ったんだ。
  でも、あんな風に無理矢理繋がったからこそ、今信用がなくて苦労している。自業自得だ。

「うぅんッ……んんッ」
「舌だけじゃ足りない? ほぐしてやるよ」
「まことッ……好きだよッ」
「愛してる」
 ここに居るよというように優しく言葉をかける。ジェルを指先にたっぷりと落としてゆく。月明かりで煌くそれを優也はうっとりと見つめていた。
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