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━1章【HAPPY ENDには程遠い】━
8-2 決断
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****♡side・美崎
予告通りの帰り道。行き先は珈琲店。
「何がいい?」
珈琲店に入り、どれが良いかと鶴城に聞かれても美崎にはわからなかった。
「えっと」
「酸味系か苦味系かな? 甘いものが好きな人は酸味系が合うらしいけど」
「んー。苦味系がいいな」
「わかった」
鶴城は豆のショーケースの前で身を屈め、ミニカードに書かれた説明を読んでいる。
美崎はというと、豆のことはわからないので表通りに面したショーウインドウからも見える、マグカップが並んでいる棚を眺めていた。
──『ペアカップが欲しいな』
なんて言ったら変な顔をするだろうか?
「優也、何か買うのか?」
豆を買い終わった鶴城が、美崎の肩越しにその手元を覗き込む。ふわりと鼻先を掠める、鶴城の爽やかなコロンの香りにドキリとした。
「ペアのマグカップでも買う?」
鶴城の言葉に美崎は思わずそちらを向く。意外な言葉をかけられたからだ。
「俺、これがいいな」
シンプルだがお洒落なデザインのマグカップを指差す鶴城。美崎は黙ってそれを見つめていた。
──どうしてこんなにドキドキするんだろう?
「なあ、優也」
「ん?」
返事を忘れ考え事をしていた美崎は我に返る。
「一緒に暮らそう」
「え?」
「どっちみち、互いの家行ったり来たりしてるんだしさ」
──鶴城と一緒に?
確かに今だって半同棲みたいなものだけれど。
「優也が大学行ったら、今みたいに一緒に居られなくだろうし」
「そうだな」
「考えてみてくれないか?」
──自分はどうしたいのだろう。
美崎は、ペアのマグカップを掴みレジに向かう鶴城の背中を見つめていた。
そして、額に手をやる。
──実感が沸かないんだよ。
**・**
美崎は家に着いてもただ静かに考え事をしていた。
「なあ、優也」
「うん?」
──どうして鶴城はいつも先回り出来るんだろう?
どうして俺のことわかるんだろう?
「今年に入って何回、大崎先輩に会った?」
「一回」
彼が何故そんな質問をするのか、意味が分からず聞かれたままに答えを返すと「そうだろう?」と言って、鶴城は隣に腰かけた。テーブルの上には買ったばかりのペアのマグカップ。
『鶴城が何を言わんとしているのかわからない』と言えば、『ホントに?』と不思議そうな顔をされた。
「それが、俺と優也の近い将来だよ」
鶴城は美崎の肩に顔を埋めた。
「たった一つしか違わないのに、どうして一緒に居られないんだろ。俺は去年の片倉が居なかった一年より、来年優也が居なくなる一年のほうがずっとずっと辛い」
美崎には実感の湧かない近い将来を、鶴城は今から理解している。『鶴城と離れられるはずないのに』なんていうのは楽天的な考えなのだろうか。
まだ“お付き合い”の返事すらしていないのに、一緒に暮らしてもいいものだろうか?
美崎にはわからないことだらけでどうして良いのかわからなくなるが、一つだけわかっていることがあった。
それは、鶴城が“心から美崎を大切にしてくれている”ことだ。
「わかった。一緒に暮らそう?」
そして、自分もまた鶴城が大切だったのである。
予告通りの帰り道。行き先は珈琲店。
「何がいい?」
珈琲店に入り、どれが良いかと鶴城に聞かれても美崎にはわからなかった。
「えっと」
「酸味系か苦味系かな? 甘いものが好きな人は酸味系が合うらしいけど」
「んー。苦味系がいいな」
「わかった」
鶴城は豆のショーケースの前で身を屈め、ミニカードに書かれた説明を読んでいる。
美崎はというと、豆のことはわからないので表通りに面したショーウインドウからも見える、マグカップが並んでいる棚を眺めていた。
──『ペアカップが欲しいな』
なんて言ったら変な顔をするだろうか?
「優也、何か買うのか?」
豆を買い終わった鶴城が、美崎の肩越しにその手元を覗き込む。ふわりと鼻先を掠める、鶴城の爽やかなコロンの香りにドキリとした。
「ペアのマグカップでも買う?」
鶴城の言葉に美崎は思わずそちらを向く。意外な言葉をかけられたからだ。
「俺、これがいいな」
シンプルだがお洒落なデザインのマグカップを指差す鶴城。美崎は黙ってそれを見つめていた。
──どうしてこんなにドキドキするんだろう?
「なあ、優也」
「ん?」
返事を忘れ考え事をしていた美崎は我に返る。
「一緒に暮らそう」
「え?」
「どっちみち、互いの家行ったり来たりしてるんだしさ」
──鶴城と一緒に?
確かに今だって半同棲みたいなものだけれど。
「優也が大学行ったら、今みたいに一緒に居られなくだろうし」
「そうだな」
「考えてみてくれないか?」
──自分はどうしたいのだろう。
美崎は、ペアのマグカップを掴みレジに向かう鶴城の背中を見つめていた。
そして、額に手をやる。
──実感が沸かないんだよ。
**・**
美崎は家に着いてもただ静かに考え事をしていた。
「なあ、優也」
「うん?」
──どうして鶴城はいつも先回り出来るんだろう?
どうして俺のことわかるんだろう?
「今年に入って何回、大崎先輩に会った?」
「一回」
彼が何故そんな質問をするのか、意味が分からず聞かれたままに答えを返すと「そうだろう?」と言って、鶴城は隣に腰かけた。テーブルの上には買ったばかりのペアのマグカップ。
『鶴城が何を言わんとしているのかわからない』と言えば、『ホントに?』と不思議そうな顔をされた。
「それが、俺と優也の近い将来だよ」
鶴城は美崎の肩に顔を埋めた。
「たった一つしか違わないのに、どうして一緒に居られないんだろ。俺は去年の片倉が居なかった一年より、来年優也が居なくなる一年のほうがずっとずっと辛い」
美崎には実感の湧かない近い将来を、鶴城は今から理解している。『鶴城と離れられるはずないのに』なんていうのは楽天的な考えなのだろうか。
まだ“お付き合い”の返事すらしていないのに、一緒に暮らしてもいいものだろうか?
美崎にはわからないことだらけでどうして良いのかわからなくなるが、一つだけわかっていることがあった。
それは、鶴城が“心から美崎を大切にしてくれている”ことだ。
「わかった。一緒に暮らそう?」
そして、自分もまた鶴城が大切だったのである。
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