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━2章【不器用な二人】━

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 mission in 白石■file1
 ━━━━━━━━━━━━━━side・白石

『ちょっ! まてッ……慎ッ』
『もう、充分待った』
『ご飯まだだしッ……んんッ』

 ──きいいいいいいい!
  また! また生徒会室に連れ込んで!
  あのクソ猿、許すまじ!
  今日こそ成敗してくれるわ!
  討ち入りじゃあああああああああああ!
  かくごおおおおおおッ

「おい、何やってんだよ、聴診器なんか生徒会室のドアに充てて」
「うるさいわね! 討ち入りのチャンスを狙ってんのよ!」
 K学園付属高等部、白石 風香。愛しの美崎 優也先輩を追いかけ十数年。
 今年で高校二年にあいなり申した。
「金属バットなんか持って、生徒会室に入る気か?」
「そうよ!風紀の大切な仕事なんだから!」
 不肖白石、風紀副委員長!愛しの美崎先輩の貞操を守る為参上つかまつったしだいあいなり申す!
「いいから、飯いくぞ」
 同じ風紀委員の男子に腕を掴まれる。

「ちょっと! 風紀の仕事してるっていってるじゃないのお!」
「おまえの仕事は……」
「美崎先輩を守ることよおおおおおおお」
 ずるずる引きずられながらも、白石は諦めない。
「職権乱用はやめなさい」
「いやあああああああっ! なんの為に風紀委員になったかわからないじゃないのおおおおおお」
「学園守る為だろ?」
「私の志はもっと高いわよおおおおおおおお」
「範囲狭いけどな」
「ちょ! 離しなさいよ」
「離したらまた、生徒会室いくだろ?」
「当然じゃないのおおおおおおおおお」

「はいはい、飯食おうな」
「いやああああああ! 美崎せんんんぱああああい!」
「生徒会室は防音だ」
 世知辛い世の中である。白石は学食へと連行されたのであった。

   **・**

 ──ああああああ!
  もう。邪魔されたぁ!
  これじゃ、貞操が守りきれているのかわからないじゃない!
  不肖白石いいいいいいいいいい!
  不覚でござるううううう!
  もう、これは直接聞くしかないわ。

  今、会いに行きます!
  美崎せぇんぱああああああああい!
  不肖白石、今参ります!

 「白石! 風紀委員が廊下を走るな」
 「任務なんですうううううううう!」
 風をきり、全力疾走。
 教師に怒られようがお構いなし。目指すは美崎先輩、一択!
 白石まっしぐら、ネコもまっしぐら。
 いたあああああああああああああああ!
 愛しの……ああ、麗しき美崎先輩!
 ここからは徒歩よ。
 風紀委員が走っているなんて、先輩にバレたら悲しむわ。
(教師はいいのか、白石よ)

「み、美崎先輩!」
 ぎこちなく右手と右足を同時に出しなんとか徒歩で美崎のところまでたどり着く白石。
「うん?」
 がわいいいいいいいいいいいいい!
 天使、マジ天使!
(人間だよ、白石)
 さあ、聞くのよ! セックスしましたか?! って
(なんという直球!)

「美崎先輩、あのっ…セ…」
「?」
「セ、セ、セ○ムしてますか?」
「え?セコ○?」
 OH NOOOOOOOOOOOOOOOOOOOッ!
 おーまいが!
 そんなこと聞いてどうする! 不肖白石よおおおお!
 白石は頭を抱え、床に突っ伏した。

   **・**

 ──はあ……

 白石は肩を落とし風紀委員室に引き返す。

 ──出直すのよ! 不肖白石!
  落ち込んでいる場合じゃないわ。
  そうよ! 活力! 活りょおおおおおおおくうううう!
  みなぎってきいいいいいいいたあああああああ!

「白石! 廊下は走るな!」
「燃えてるんですうううううううう!」
「消火しろ!」
「燃え尽きるまで無理ですうううううううううう!」
 白石は叫びながら、全力で走り続けた。

「お帰り、白石」
 風紀委員室に戻ると二十名ほどのメンバーが集まっていた。実際にはもっといるのだが、出払っているらしい。
「また廊下走ったんだって? 苦情が来たぞ」
 風紀委員は笑っている。
「九条が? 不肖白石、美崎先輩にしか興味ないの」
 と、その時ピロン♪と白石のスマホの通知音がなった。慌ててスマホを取り出す白石。

「いやああああああああ!」
「うっさいぞ、白石」
「美崎先輩がSNSに写メアップしてるうううううううう!」
 近くにいた風紀委員が反応する。
「ぐぞがわいいいいいいいい!」
 膝をつきスマホを掲げる白石を風紀委員たちがぎょっとして見ているがお構いなしだ。
「ちょっと! あんたたち! 早く”いいね”を押しなさいよ!」
 急にシャキッと立ち上がるとみんなに指示をする。
「なんの為に風紀委員になったと思っているのよ!」
(少なくとも、いいねを押す為ではない)

「あああああん! マジ天使!」
(人間である)
「はあ!?」
 白石は何かに気づき突然不機嫌な声をあげた。
「先輩が明日から、あのクソ猿と旅行!?」
「ん?」
「OH!NOOOOOOOOOOOOOOOOッ!」
 白石は頭を抱え膝をつくと悶絶した。
「お前はアメリカ人か!」
 と、ツッコミを入れられながら。

 ****

 ──今日、私はツイテナイ。
  先輩はクソ猿と旅行だし。
  尾行はダメだと怒られるし。
  先輩は見回りに参加しないし。
  セックスしたか聞こうとしたら……

「せ、せ、洗濯機はドラム式ですか?」

 ──と、聞いてしまったし。
  OH,NOOOOOOOOOOOOOッ!
  そんなこと聞いてどうする!
  不肖白石よおおおおおおおおっ!

 自分の馬鹿さ加減に悶絶した。
(毎度のことである)
 もう、ビュ○ネしないとやってらんない。

 ピロン♪
 自宅の小テーブルで鏡とにらめっこしていたら傍らのスマホの着信音が鳴った。待ちうけはもちろん美崎の盗撮だ。
「!!」
 それは美崎の投稿の新着通知である。
「くあ!浴衣!そしてネコの人形焼き!」
 かわいいいいいいいいい!
 と、悶絶しながらいいねを押すと風紀委員専用グループチャットに「はやくいいねを押しなさい!」と発言。
 着々といいね数が上がってゆくのを見て白石は満足した。

「んんんん?! ちょ! クソ猿が美崎先輩といちゃついてる写真までのってるじゃないのよ!」
 許すまじ! クソ猿!
 成敗してくれる!

 しかし、今頃二人は遠い星の下。

「OH、NOOOOOOOOOOOOOOOOOッ!」
 白石は頭を抱えると床に突っ伏した。
「風香! うるさいわよ!」
 そして、母に怒られるのであった。

 ****

「ん?」

 愛しの美崎先輩のフォロワー数が増えた?

 白石はじいいいいいっと穴があくほど画面を眺めていたのだが数字がいつの間にか増えていることに気付きフォロワーのところをクイックしてみる。
 アイコンが、鶴城と美崎のツーショットであった。ひっくり返りそうなほど驚いた白石はテーブルに額を打ち付けた。もう、どっちに向かっているのか謎である。

 ──つううううううううるうううううぎいいいいいいいいい!
  OH、NOOOOOOOOOOOOOOOOOッ!

 がんがんテーブルに額を打ちつけなんとか怒りと悔しさを表現するが、テーブルが可哀想である。

 ──お、おのれ! クソ猿め!
  我が聖地に足を踏み入れるとは!
  なんたる、不届き者!
(SNSに聖地もクソない。何をいっているんだ、白石よ)

「ぐぎぎぎ! クソ猿」

 ──どうやって成敗してやろうか!
  そうだ、電話だ。電話で邪魔をしてやろう!
  思い立ったが吉日!

 白石は早速電話をかけてみることにしたのだが。
「おかけになった番号は……」
「!!!!!!!!」
 電源が切られていたのだった。


「OH、NOOOOOOOOOOOOOOOOOッ!」

 相手のほうが一枚上手であった為、白石は悶絶したが。
「風香! うるわいわよ! いいかげんにしなさい」
 再び母に怒られるのだった。

   **・**

 ベッドで項垂れること一時間。

 ──今頃あのクソ猿が先輩の貞操を狙っているのかと思うと!
  思うとおおおおおおおおおおおお!

 白石は手に持っていたコーラの缶を握りつぶした。ぶしゅっという音と共に炭酸が腕を滴り落ちるが気にしない。布団はこんな時のために防水加工である。
 一般にはこんな時はめったに来ないが。

 ──ふ、不肖白石!
  先輩のセコ○になる時ではないのか?!
  いまこそ、いまこそ!
「敵は本能寺にありいいいいいいいいい!」
(残念ながら、二人の行き先はクヌギ旅館である)
「本能寺って何処だっけ?」

 そ、そうよこんな時はグー○ル大先生よ!
(まて、何処に行く気だ、白石よ)
 白石が迷走しているとピロン♪とお知らせ音。SNSに投稿があったらしい。
「み、美崎先輩! ぶ、無事でしたかっ!」
 スマホを掲げ、安否を喜ぶが……。
「魚の頭??」
 何か操作を間違ったのか、あげられた写メは魚の顔のドアップだった。
「まさか、危険を知らせる合図なんじゃ?! で、でででで電話!」
 白石は、慌てて電話をかけるが
「おかけになった電話番号は……」

 ──OH、NOOOOOOOOOOOOOOOOOッ!
  なんというデジャブ!
(単に忘れているだけである)
  ん?

 ピロン♪と再びお知らせが。
 画面に目をやると
『失敗しちゃった』
 とい可愛いコメントに、舟盛りと一緒に映る仲良さそうな二人の姿。

 く、クソ猿! なにドサクサにまぎれて先輩の聖地に一緒に出演してるんだ!
 ゆるせーーーーーーーーん!
 殴り込みじゃああああああああああああああああ!
「ジイザー-ーーーーーーーーーーーーーーーーース!!!!!!」
 叫びながらバットを持って階段を駆け下りると
「風香! 何時だと思ってるの!おじいちゃんなら、老人会に出かけたでしょ!」
「……」
 ジーザスとじいさんを聞き間違えた母に怒られるのだった。
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