上 下
40 / 52
━2章【不器用な二人】━

3.5『土産』

しおりを挟む
 ****♡side・鶴城

 それは突然やってくる。

「よう鶴城、美崎」
 木曜の夕時であった。学校帰りの二人は駅前のスーパー目指し校門をでたところで声をかけられる。生徒会に所属の鶴城、風紀委員に所属の美崎は一般生徒よりも校門を出るのが遅い。学園の見回りという仕事があるためである。校門で待っていたのは二人にとっての先輩で……。
 高級車に寄りかかり、モデル体系で黒のスーツに身を包んだイケメン。彼はまるで葬儀屋の様のカッコをしているが、有名な大崎グループの次期副社長、【大崎圭一】である。彼は現在大学一年であり社長秘書を兼ねていた。車の中から漏れ聴こえる洋楽。中で恋人が圭一の用が済むのを待っているようだ。

「こんばんは」
 先に彼へ近づいたのは、美崎の方である。
「これ、土産」
 圭一に土産の袋を渡され美崎はそれを覗き込んでいた。鶴城は彼の背後から。中身はどうやら黒猫のお洒落なペアのどんぶりセットらしい。美崎の好みをよく知っている圭一に少し嫉妬しそうになり、焦る。

「鶴城にはこれやるよ」
 それは有難いが土産とは言い難いもので。
「料理で美崎をその気にさせようとしてるんだって?」
「!」
 反応したのは美崎のほうだった。

 ──何で言うかな。
  俺の計画が台無しじゃないかよ!
  まさか、この間の仕返しか?

 ため息をつきながら袋の中身を見つめ、圭一に視線を移す。
「腕、磨けよ」
「好評ですよ? なあ、優也」
 美崎は困った顔をして二人を見比べていたが、鶴城の隣に来てそっと腕に手をかけた。
「まさかあのこと恨んでるわけじゃありませんよね?」
 ホテルでのイチャイチャ写メを送った時のことを問うと、
「さあな」
 と圭一は曖昧な返事をして車のほうをチラリと振り返る。
 それは早く恋人とイチャイチャしに家に帰りたいということだろうか?

「どこ行って来たんです?」
「これやるよ」
 答えではなくパンフレットを渡された。相変わらず口数の少ない人だなとぼんやり思っていると、
「これから親父のとこに行かなければならないから、行くわ」
 と小さく笑った。
 圭一が笑顔を見せることがあまりにも珍しいことだったので二人は顔を見合わせる。
「詳しいことは、また今度な」
 またなんてあるのか? なんて思いながら車に乗り込む圭一を見送ったのだが……。

   **・**

「クヌギ旅館だってよ」
 パンフレットを捲りながら、美崎にそう話を振る。先ほどの話に触れられないようにと願いながら。
「あれ? これ」
 パンフレットの間に挟まれている封筒に気づき、彼がそれを摘み上げ中身を出そうと封筒を開ける指先を見つめていた。
「俺たち宛てか?」
「そうらしい」
 鶴城ご一行様と書いてある和紙の後ろにあったのは……。
「え、これ見て!」

 分かりやすいほどはしゃぐ美崎に鶴城は微笑む。その手には二泊三日の宿泊券。高級旅館にご招待というわけだ。ずいぶん粋なことをするなと思っていた。
「朝昼、お食事つきだって」

 ──可愛い!
  こんなに素直にはしゃぐところ初めて見た。
  大崎先輩には見せていたのかと思うと妬けるが。

「へえ、部屋に露天風呂ついてるじゃん」
「え!」
「さすがに一緒に入るよな?」
 いつも断られるが、駄目もとで聞いてみる。断られたからといってどうということはないが。
「いいけど……」
「駄目なら……。は? 今なんて?」
 駄目ならいいよと言おうとして聞き返した。今、OKって言わなかったか? 聞き間違いだよな? と思いながら。
「いいって言った」
「ほ、ほんとに?」

 ──やば、楽しみになってきた
  今週か? 善は急げって言うしな
  金曜の夜からでいいかな?
  それより、まず買い物して帰らなきゃな

 いつの間にか二人はいつものスーパーの前まで来ていた。
「今週末行こうか?」
 そう美崎に告げれば満面の笑みを浮かべる。よっぽど嬉しいらしい。

 ──クソ可愛い!

 ****

 翌朝のこと。
「早起きだな」
 鶴城が起きるとすでに美崎はニコニコしながら旅行の準備をしていた。
「必要なものだけにしとけよ」
「え?」
 猫のぬいぐるみまで詰めようとしていた美崎の手元からそれを取り上げるとソファーに置く。美崎はきょとんとこちらを見上げていた。
「家出でもするつもりか?」
「あ、いや」
 くくくと肩で笑うと、彼は頬を染める。嬉しすぎててんぱっているのだろうかと思いながら鶴城は頬杖をつき、準備を続けている彼を眺めていた。

 ──最初で最後というわけでもあるまいし。
  それにしても可愛い。

「なあ、旅行ならこの先いくらでも連れてってやるからさ」
「!」
「まあ、こんな高級旅館は無理かもしれないけれど」
 テーブルの上に置かれたチケットを眺めながら。
「ほんとに?」
「ん、バイトするしさ」
 ニコッと微笑むと美崎はじっとこちらを見つめる。彼があまりにも可愛らしくて、抱き寄せて口付けた。
「んッ」
「旅行いっぱい連れてくよ」
「ちょっ! やめっ」
 キスでうっとりしていた彼をソファーの上に抱き上げると覆いかぶさる。

「慎ッ……」
「しようよ、優也」
「駄目だって! 旅行の準備ッ」
 鶴城は彼を押さえつけ首筋に顔をうずめるとちゅうッと吸い上げた。
「んんッ」
「好きだよ」
「ああッ……ん……ッ」
 シャツをたくし上げ肌に手を滑らせてゆく。
「ほら、その気になってきた」
「もっ! やめろってこの猿!」
「優也が魅力的なのがいけないんだよ」
「意味不明だって!……やあんッ」
 親指の腹が彼の胸の飾りに触れると甘い声をあげた。その声に導かれるように鶴城は彼に夢中になっていったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

営業活動

むちむちボディ
BL
取引先の社長と秘密の関係になる話です。

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

アダルトショップでオナホになった俺

ミヒロ
BL
初めて同士の長年の交際をしていた彼氏と喧嘩別れした弘樹。 覚えてしまった快楽に負け、彼女へのプレゼントというていで、と自分を慰める為にアダルトショップに行ったものの。 バイブやローションの品定めしていた弘樹自身が客や後には店員にオナホになる話し。 ※表紙イラスト as-AIart- 様(素敵なイラストありがとうございます!)

ぽっちゃりOLが幼馴染みにマッサージと称してエロいことをされる話

よしゆき
恋愛
純粋にマッサージをしてくれていると思っているぽっちゃりOLが、下心しかない幼馴染みにマッサージをしてもらう話。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

ガチムチ島のエロヤバい宴

ミクリ21 (新)
BL
エロヤバい宴に大学生が紛れ込んでしまう話。

初体験

nano ひにゃ
BL
23才性体験ゼロの好一朗が、友人のすすめで年上で優しい男と付き合い始める。

処理中です...