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━1章【HAPPY ENDには程遠い】━
9-1 あの日のこと
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****♡side・美崎
「ま……こと」
美崎が躊躇いがちに鶴城の名を呼べば、彼は興奮絶頂と言わんばかりの瞳で見つめてくる。
──鶴城は好きだというけれど、俺のこと手軽にヤれる奴だって思ってるのかな。
初めてを無理矢理奪った時だって軽い謝罪しかしてこなかったし。
なんか嫌だ。俺は……こんなにも鶴城のこと好きなのにッ。
「優也? なんで、泣いて……」
「泣いてなんてない」
悔し涙が溢れ、美崎は腕で顔を覆う。
「?!」
そのまま襲ってくると思った鶴城に腕を引かれ、美崎は彼の胸に抱き締められる。
「ごめん」
「なんで、謝る?」
「俺のせいで泣いてるんだろ? 俺、また何かした?」
美崎は言いたくなかった。
しかし自分の気持ちを告げなければ、今までとなにも変わらないとも思う。
「鶴城は俺のこと、軽い奴だと思ってる? こんな、ナリだし」
長めの金髪。学校では制服を着崩している。
でもそれはカッコつけているわけでもなんでもない。風紀委員長としてできる、生徒たちが自由な校風に馴染むためであり、風紀を乱すのが目的なわけでもなかった。
それに反して鶴城は見た目からして真面目な奴だった。黒髪短髪、体育会系っぽいガタイ。
「そんなこと、思ったことない」
「じゃあ、なんで……平気なんだよ!」
「何のことだよ」
もっと、真摯に向き合って欲しかった。
「どうして簡単にこんなことするんだよ。初めての時だって……。ああいうのはちゃんと気持ちを伝えあって、つき合って……手順を踏んで……」
押さえきれない涙が頬を伝う。
軽いと思っていなくたって、大事にされなかった事実が辛いのだ。
「俺のことヤれる道具としか思ってないくせに」
「そんなこと、一度だって……」
言葉を途中で切った鶴城は、美崎から離れると、床に手をついた。
「本当に済まなかった。優也が好きで好きで堪らないんだよ」
美崎は土下座をする鶴城に驚いて目を見開く。
「自分を抑えられないんだよ」
その言葉からは、一応抑えようとはしていると感じられる。
だがそれで納得できるはずもない。
「優也、実はさ」
土下座をしていた鶴城は真面目な顔をしてベッドの上の美崎を見上げた。
「白石から“バレンタイン”の日のこと聞いたんだ」
**・**
「鶴城に美崎先輩はもったいないわよ! 何も知らないくせにっ」
美崎のことを親しげに“優也”と呼ぶ鶴城に、白石はとうとう堪忍袋の緒が切れたようだ。
そして彼女の口から告げられたあの日の真実。
美崎はあの日のことを思い出す。
『俺、鶴城に告白しようと思うんだ』
バレンタインの日。白石に好きだと告白され、チョコを受け取らなかった美崎は胸のうちを彼女に告げた。
『フラれるかもしれないけど』
そう付け加えて。
本気の白石だったから、美崎もちゃんと自分のことを話したのだ。
すると彼女は応援すると言ってくれた。
しかし、そんな美崎を待っていたのは絶望だった。
「あんたは、ヘラヘラ誰からでもチョコを受け取ってさ。美崎先輩がどんな想いでいたかも知らないで、今さら美崎先輩に近づかないでよ!」
鶴城はそう言われたらしい。
美崎は大勢の中の1人になりたくなかった。
義理だなんて思われたくなかった。
『じゃあ、これはもう要らないな』
美崎は自分の想いごと、チョコをゴミ箱に棄てたのだ。
叶わない想いなのだと思いながら。
一部始終を見ていた白石に、
『鶴城ってモテるんだな』
と自嘲気味に漏らすと、彼女は美崎より泣きそうな顔をしていた。
なのに……。
あの日から鶴城は美崎に夢中になっていったのである。
元々、互いの家を行き来するくらいは仲が良かったが、鶴城の目は友人のそれではなくっていた。
「俺は、あの日からずっと優也が特別なんだ」
美崎はなんと返せばいいのか分からず、ただじっと鶴城を見つめるほかなかった。
「ま……こと」
美崎が躊躇いがちに鶴城の名を呼べば、彼は興奮絶頂と言わんばかりの瞳で見つめてくる。
──鶴城は好きだというけれど、俺のこと手軽にヤれる奴だって思ってるのかな。
初めてを無理矢理奪った時だって軽い謝罪しかしてこなかったし。
なんか嫌だ。俺は……こんなにも鶴城のこと好きなのにッ。
「優也? なんで、泣いて……」
「泣いてなんてない」
悔し涙が溢れ、美崎は腕で顔を覆う。
「?!」
そのまま襲ってくると思った鶴城に腕を引かれ、美崎は彼の胸に抱き締められる。
「ごめん」
「なんで、謝る?」
「俺のせいで泣いてるんだろ? 俺、また何かした?」
美崎は言いたくなかった。
しかし自分の気持ちを告げなければ、今までとなにも変わらないとも思う。
「鶴城は俺のこと、軽い奴だと思ってる? こんな、ナリだし」
長めの金髪。学校では制服を着崩している。
でもそれはカッコつけているわけでもなんでもない。風紀委員長としてできる、生徒たちが自由な校風に馴染むためであり、風紀を乱すのが目的なわけでもなかった。
それに反して鶴城は見た目からして真面目な奴だった。黒髪短髪、体育会系っぽいガタイ。
「そんなこと、思ったことない」
「じゃあ、なんで……平気なんだよ!」
「何のことだよ」
もっと、真摯に向き合って欲しかった。
「どうして簡単にこんなことするんだよ。初めての時だって……。ああいうのはちゃんと気持ちを伝えあって、つき合って……手順を踏んで……」
押さえきれない涙が頬を伝う。
軽いと思っていなくたって、大事にされなかった事実が辛いのだ。
「俺のことヤれる道具としか思ってないくせに」
「そんなこと、一度だって……」
言葉を途中で切った鶴城は、美崎から離れると、床に手をついた。
「本当に済まなかった。優也が好きで好きで堪らないんだよ」
美崎は土下座をする鶴城に驚いて目を見開く。
「自分を抑えられないんだよ」
その言葉からは、一応抑えようとはしていると感じられる。
だがそれで納得できるはずもない。
「優也、実はさ」
土下座をしていた鶴城は真面目な顔をしてベッドの上の美崎を見上げた。
「白石から“バレンタイン”の日のこと聞いたんだ」
**・**
「鶴城に美崎先輩はもったいないわよ! 何も知らないくせにっ」
美崎のことを親しげに“優也”と呼ぶ鶴城に、白石はとうとう堪忍袋の緒が切れたようだ。
そして彼女の口から告げられたあの日の真実。
美崎はあの日のことを思い出す。
『俺、鶴城に告白しようと思うんだ』
バレンタインの日。白石に好きだと告白され、チョコを受け取らなかった美崎は胸のうちを彼女に告げた。
『フラれるかもしれないけど』
そう付け加えて。
本気の白石だったから、美崎もちゃんと自分のことを話したのだ。
すると彼女は応援すると言ってくれた。
しかし、そんな美崎を待っていたのは絶望だった。
「あんたは、ヘラヘラ誰からでもチョコを受け取ってさ。美崎先輩がどんな想いでいたかも知らないで、今さら美崎先輩に近づかないでよ!」
鶴城はそう言われたらしい。
美崎は大勢の中の1人になりたくなかった。
義理だなんて思われたくなかった。
『じゃあ、これはもう要らないな』
美崎は自分の想いごと、チョコをゴミ箱に棄てたのだ。
叶わない想いなのだと思いながら。
一部始終を見ていた白石に、
『鶴城ってモテるんだな』
と自嘲気味に漏らすと、彼女は美崎より泣きそうな顔をしていた。
なのに……。
あの日から鶴城は美崎に夢中になっていったのである。
元々、互いの家を行き来するくらいは仲が良かったが、鶴城の目は友人のそれではなくっていた。
「俺は、あの日からずっと優也が特別なんだ」
美崎はなんと返せばいいのか分からず、ただじっと鶴城を見つめるほかなかった。
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