上 下
14 / 52
━1章【HAPPY ENDには程遠い】━

6.5 名前

しおりを挟む
 ****♡side・鶴城

「鶴城くんって、下の名前慎って言うんだー」
「え? ああ」
 鶴城が生徒会室で帰り支度をしていたら、来年風紀委員長になるらしい【白石風花しらいしふうか】が挨拶に来たのだが。何故か馴れ馴れしい。
「慎って呼んでもいい?」
 それは彼女からの突然の打診。
「は?」
 鶴城はただ漠然と嫌な予感がした。
 理由はよく分からないが、彼女の馴れ馴れしさに好意ではなく悪意を感じるのだ。白石は同級生。風紀委員と生徒会役員は合同で校内の見回りをする為、よく顔を合わせる。だから見知った仲ではあるのだが。

「いや、ダメだよ」
 彼女の兄である”白石先輩”については良く知っていた。
 K学園には中、高、大学部の生徒会と学生会で作られた裏掲示板というものがある。ログインするためには学生学生が必要な治安は良いSNS。そこには学生の投票で決まる、学内押し活の定番とも言える『学内イケメンランキングやモテランキング』というものが存在し、白石先輩こと【白石奏斗しらいしかなと】はそのランキングの常連。名前だけなら知っているというK学生も多くいた。
 彼はいろんな噂を流されているようで、見た目は軽い感じがするがとても真面目な人だった。確か他校に彼女がいたという噂を聞いたことがある。とても清い交際をしていたのだとか。鶴城とは大違いである。
 ただ、受験間近に喧嘩別れをし、その後荒れていたことも知っていた。かといって不良になるというわけでもなく、それまで彼女一筋だったのが色んな人と遊び歩くようになった程度のこと。
 『クールなイケメンでもともとモテてはいたが、以前にもましてモテるようになった』という話も人づてに聞いた。

「どうして? 来年は協力して学園の生徒を守っていくんだし仲良くしたほうがお互いの為だと思うの」

 ──長い演説だな。
  言っていることは普通だが、刺々しさを感じる。

「だから、慎。いいでしょ?」
「やめろって」
 こんなところ誰かに見られたら面倒だなと思っていたのだが。
「じゃあ、くんつけるから。慎……」
 生徒会室のドアが開き、鶴城は白石の狙いが何なのかに気づく。
「慎くん」
 ”わざとだ”と鶴城は思った。
 ドアを開けた美崎と目が合う。白石は彼に誤解をさせようとしている。

「鶴城、帰るぞ」
 聞こえたのか聞こえなかったのか、美崎はそのことについて何も言わない。
「ああ……」

 鶴城はカバンを掴むと席を立とうとするが、
『美崎先輩、顔色一つ変えないのね』
 と、白石にそっと囁かれ思わず彼女の方を見る。
 鶴城は血の気が引いてゆくのを感じた。
『ねえ、諦めたら?』
 白石はそう続けたのである。
「誰がっ」
「またね、慎くん」
 彼女の蔑んだ瞳。悪寒。

「やめろ」
 何故か鶴城は青ざめた。カバンを持つ手が心なしか震えている。
 彼女は敵だ、頭の中で警報がなる。気をつけろと。
 鶴城は知らなかったのだ、白石がバレンタインに美崎に告白していたことを。あの時どれほど自分が美崎を傷つけたのか、そのせいで白石に恨まれていることを。

 ──白石が怖い。
  何を考えてる?
  何をしようとしている?

「鶴城? どうしたんだ」
 近づいて来た美崎は不思議そうに鶴城を見上げる。
「美崎、早く帰ろう」
 鶴城は彼の手を掴むと引きずるように生徒会室を後にした。
 一刻も早く彼女の元から離れなければ、そう思いながら。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

とろとろ【R18短編集】

ちまこ。
BL
ねっとり、じっくりと。 とろとろにされてます。 喘ぎ声は可愛いめ。 乳首責め多めの作品集です。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

ドS×ドM

桜月
BL
玩具をつかってドSがドMちゃんを攻めます。 バイブ・エネマグラ・ローター・アナルパール・尿道責め・放置プレイ・射精管理・拘束・目隠し・中出し・スパンキング・おもらし・失禁・コスプレ・S字結腸・フェラ・イマラチオなどです。 2人は両思いです。  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

首輪 〜性奴隷 律の調教〜

M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。 R18です。 ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。 孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。 幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。 それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。 新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。

無理やりお仕置きされちゃうsubの話(短編集)

みたらし団子
BL
Dom/subユニバース ★が多くなるほどえろ重視の作品になっていきます。 ぼちぼち更新

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

部室強制監獄

裕光
BL
 夜8時に毎日更新します!  高校2年生サッカー部所属の祐介。  先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。  ある日の夜。  剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう  気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた  現れたのは蓮ともう1人。  1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。  そして大野は裕介に向かって言った。  大野「お前も肉便器に改造してやる」  大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…  

処理中です...