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────9話*幸せのカタチ、探して
7 彼らの行き先
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****♡Side・塩田
「悪い。少し板井と話してから戻るから」
昼からの帰り、社の玄関に着いた塩田たち。塩田は皇と電車にそう告げるとエレベーターには乗らずに二人を先に行かせた。
「話」
ドアが閉まるとほぼ同時に板井の口からこぼれ落ちる言葉。
「何か俺に言いたいことがあるんだろ」
エレベーターが二階へ着いたことを確認し、ボタンに手を伸ばす塩田。
「いや、別に文句なんかないぞ」
再び戻って来たエレベーターに乗り込むと板井は塩田の言葉を否定した。
「塩田の判断は正しい」
「何故そう言い切れる。考えることを放棄するのはやめろ」
「放棄なんかしてないさ」
板井は小さく笑う。塩田は呆れ顔でため息をついた。
板井たち三人のバランスは、板井によって保たれているとは思う。しかしそれは塩田から見ても危ういバランスだ。一見、積極的で強引そうに見える黒岩は、昼の約束すら取り付けずに自分の部署へ戻ろうとする。それはきっと板井に対しての遠慮なのだろう。
『はい、黒岩……おう、塩田か。どした?』
皇のスマホから黒岩に電話をかけた時のことを思い出す。
彼は気落ちしていた唯野とは違い、明るい声で電話口に出た。確かに無関係の皇に対して感情を露にするのは違うとは思う。もちろん通話の相手が塩田と分かっても変わらないことに不満はない。
『あんたさ、そういうトコだぞ』
『ん?』
それでも塩田は何故かイラっとしてしまった。彼が社長の呉崎や専務に恨まれているという話は、チラッと聞いている。詳しいことは分からないし、踏み込むべきでないことだと思ってはいるが。
黒岩は何を考えているのか分からない人物だ。それは塩田にとってもそうだし、皇にとってもそうである。きっと唯野にとってもそうなのだろう。
『そんなだから、社長に恨まれるんだ』
『へ?』
『分からないならいい。板井は俺たちと飯に行く。あんたは課長を誘え』
塩田は”以上”と言って返事も聞かずに通話を終了した。折り返してこないということは、分かったということなのだろう。
「心配かけて悪かったよ」
エレベーターの箱から先に出た塩田の背中に板井の言葉。
「心配?」
これは心配なのだろうか。彼らの事情は塩田にはわからない。
「心配してくれているんじゃないのか?」
「そうかもしれないな」
自分にとって彼は親友のような存在。だから心配してもおかしくはないと思う。
「何かあったら俺たちを頼れよ」
塩田は立ち止まらずに。板井はクスっと笑うと”ああ”と返す。
今回板井には頼るという選択がなかったから、彼は自分たちに頼らなかった。ただそれだけのことなのだ。
「おかえり」
「ん?」
苦情係に向かった塩田は自分の席まで行くと電車にそのように声尾をかけられ、彼に視線を向ける。彼らとは、ほんの少し時間差が出来ただけだ。
「うん、ただいま」
それでも彼の笑顔を見ると、その言葉は間違っていないように感じる。
「上手くいったのか?」
隣に腰かける塩田に対し、今度は反対隣りの皇が問う。
「それは俺に問われてもわからないな」
塩田はPCのスリーブ状態を解除しながら。
「そっか……ん?」
着信でもあったのだろうか。胸ポケットからスマホを取り出す皇。塩田が彼から視線をPCモニターに移したタイミングで彼が一言。
「唯野さんたち、少し遅れるそうだ」
「了解」
話が長引いているのか、それとも仲良くやっているのか。塩田には判断しかねたが、それは悪くないことのように思える。
板井の方に視線を向ければ通話中であった。きっと相手は唯野だろう。
一見平穏に見えるこの日常が平穏でないことくらい塩田にもわかっているつもりではあったが、彼らが何処へ向かおうとしているにか分からない自分にはそれ以上の判断はできなかったのである。
わかっていたところで、結果は変わらなかったかもしれないが。
「悪い。少し板井と話してから戻るから」
昼からの帰り、社の玄関に着いた塩田たち。塩田は皇と電車にそう告げるとエレベーターには乗らずに二人を先に行かせた。
「話」
ドアが閉まるとほぼ同時に板井の口からこぼれ落ちる言葉。
「何か俺に言いたいことがあるんだろ」
エレベーターが二階へ着いたことを確認し、ボタンに手を伸ばす塩田。
「いや、別に文句なんかないぞ」
再び戻って来たエレベーターに乗り込むと板井は塩田の言葉を否定した。
「塩田の判断は正しい」
「何故そう言い切れる。考えることを放棄するのはやめろ」
「放棄なんかしてないさ」
板井は小さく笑う。塩田は呆れ顔でため息をついた。
板井たち三人のバランスは、板井によって保たれているとは思う。しかしそれは塩田から見ても危ういバランスだ。一見、積極的で強引そうに見える黒岩は、昼の約束すら取り付けずに自分の部署へ戻ろうとする。それはきっと板井に対しての遠慮なのだろう。
『はい、黒岩……おう、塩田か。どした?』
皇のスマホから黒岩に電話をかけた時のことを思い出す。
彼は気落ちしていた唯野とは違い、明るい声で電話口に出た。確かに無関係の皇に対して感情を露にするのは違うとは思う。もちろん通話の相手が塩田と分かっても変わらないことに不満はない。
『あんたさ、そういうトコだぞ』
『ん?』
それでも塩田は何故かイラっとしてしまった。彼が社長の呉崎や専務に恨まれているという話は、チラッと聞いている。詳しいことは分からないし、踏み込むべきでないことだと思ってはいるが。
黒岩は何を考えているのか分からない人物だ。それは塩田にとってもそうだし、皇にとってもそうである。きっと唯野にとってもそうなのだろう。
『そんなだから、社長に恨まれるんだ』
『へ?』
『分からないならいい。板井は俺たちと飯に行く。あんたは課長を誘え』
塩田は”以上”と言って返事も聞かずに通話を終了した。折り返してこないということは、分かったということなのだろう。
「心配かけて悪かったよ」
エレベーターの箱から先に出た塩田の背中に板井の言葉。
「心配?」
これは心配なのだろうか。彼らの事情は塩田にはわからない。
「心配してくれているんじゃないのか?」
「そうかもしれないな」
自分にとって彼は親友のような存在。だから心配してもおかしくはないと思う。
「何かあったら俺たちを頼れよ」
塩田は立ち止まらずに。板井はクスっと笑うと”ああ”と返す。
今回板井には頼るという選択がなかったから、彼は自分たちに頼らなかった。ただそれだけのことなのだ。
「おかえり」
「ん?」
苦情係に向かった塩田は自分の席まで行くと電車にそのように声尾をかけられ、彼に視線を向ける。彼らとは、ほんの少し時間差が出来ただけだ。
「うん、ただいま」
それでも彼の笑顔を見ると、その言葉は間違っていないように感じる。
「上手くいったのか?」
隣に腰かける塩田に対し、今度は反対隣りの皇が問う。
「それは俺に問われてもわからないな」
塩田はPCのスリーブ状態を解除しながら。
「そっか……ん?」
着信でもあったのだろうか。胸ポケットからスマホを取り出す皇。塩田が彼から視線をPCモニターに移したタイミングで彼が一言。
「唯野さんたち、少し遅れるそうだ」
「了解」
話が長引いているのか、それとも仲良くやっているのか。塩田には判断しかねたが、それは悪くないことのように思える。
板井の方に視線を向ければ通話中であった。きっと相手は唯野だろう。
一見平穏に見えるこの日常が平穏でないことくらい塩田にもわかっているつもりではあったが、彼らが何処へ向かおうとしているにか分からない自分にはそれ以上の判断はできなかったのである。
わかっていたところで、結果は変わらなかったかもしれないが。
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