上 下
215 / 218
────9話*幸せのカタチ、探して

4 優しいひととき

しおりを挟む
****♡Side・総括(黒岩)

「勝ちに行きましょうよ、黒岩さん。言われっぱなしなんて、あなたらしくないですよ」
「酔ってんのか? 板井」
 唯野がシャワーに行っている間、特にこれと言って話すこともないので先日黒岩が専務に言われたことを板井に話せばこの有様《ありさま》だ。
「俺は正気です」
「まあ、そんなに熱くなるなって」
 黒岩は肩を竦めるとシラスに箸を伸ばす。
「むしろ黒岩らしいじゃないか。こいつはいつだってそう。何を言われても言い返さない。言われっぱなし野郎だよ」
 ”何の話かは知らないが”と付け加え、いつの間にか傍に立っていた唯野が口を挟む。
「まあ、否定はしない」
 言い返したところでスカッとするのは一時。何の問題解決にもならない。黒岩はそういう考え方の持ち主だ。
「お前さあ……」
「まあまあ、とりあえずご飯にしましょうよ」
 黒岩に文句を言おうとした唯野を遮り、宥めにかかる板井。本来なら黒岩が自分で説明をして唯野に理解してもらうべきなのだろう。そうは思うものの、黒岩にはそれが出来なかった。
 どうせ何を言ったところで怒らせるのだ。怒る理由もわかってはいるが。

──唯野は、俺が悪く言われるのが嫌なんだろう。

 可愛い奴だなと黒岩が唯野を眺めていると目が合う。
「なんだよ」
「いや、別に?」
 微笑んで見せるが唯野は不機嫌だ。
「飯の最中に喧嘩は止めてくださいね。子供じゃないんですから」
 板井に注意され、肩を竦める黒岩。
「俺は喧嘩なんかしてないぞ。なあ、唯野」
「黒岩次第だな」
 二人のやり取りにため息を零す板井であった。

「あまり板井に気を遣わせるのは、いいことじゃないぞ」
 食事のあと、黒岩は自分に宛がわれた部屋で。
「わかってる」
 ベッドに座っていた黒岩は近くに立っていた唯野の腕を撫で、そっと機嫌を窺う。彼にとって板井は甘えられる相手であることは間違いない。そして板井もそれを良しとしている。だが、二人の仲裁役までさせるのは何か違うと思うのだ。
「黒岩は……」
「ん?」
「一見、強引で自分の想い通りにしようとするやつに見えるけど、いつでも他人の顔色を窺ってる。そして何を言われても否定しない」
「それが嫌なの」
 優しく問いかければ唯野がこちらに視線を移す。
「否定しようが肯定しようが何の意味もないだろ? 相手がどう思おうとも、自分は自分なんだしさ」
「黒岩は誤解されていてもいいのか?」
 唯野の問いにゆっくりと息を吐くと、黒岩は掴んでいた腕を引き寄せる。すると彼は渋々という風に隣に腰かけ、じっとこちらを見つめた。

「俺は唯野が分かってくれていたら、それでいいよ」
 黒岩の言葉に案の定、不満そうな表情を浮かべる彼。気に入らないというのは理解する。しかし自分はこういう考え方なのだ。
「こういう俺じゃダメ?」
 愛しい彼の頬に手を伸ばしその瞳を覗き込めば、彼は唇を噛みしめ目に涙を浮かべている。どうしてそんな風に他人のことで悔しいと思えるのだろうか。
「ダメではないけれど……納得できない」
「唯野。これが俺なんだよ」
 だから自分たちは結ばれることがなかった。そんな風に結論付けてしまえば楽なのに。それがどんなに事実であっても、認めたくない自分もいる。
 彼の望む自分であったなら、きっとこんなに遠回りする必要はなかった。

 瞬きをする彼の瞳から涙が転げ落ちる。綺麗だなと思った。
 そっと口づけてベッドに押し倒せば、その腕が黒岩の首に回される。
「板井のところに行かなくていいのか?」
「いい。板井には黒岩とちゃんと話せと言われている」
「そっか」
 あれだけ求め合ったのに、目の前にいれば求めずにはいられない。唯野がまんざらでもないならなおのこと。
「ご機嫌取ってくれるんだろ?」
 これからすることをそんな風に表現する彼を可愛いなと感じた。
「望むままに」
 黒岩はそんな彼を満たせたらいいと願うのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店

ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。

【エロ好き集まれ】【R18】調教モノ・責めモノ・SMモノ 短編集

天災
BL
 BLのエロ好きの皆さま方のためのものです。 ※R18 ※エロあり ※調教あり ※責めあり ※SMあり

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

消防士の義兄との秘密

熊次郎
BL
翔は5歳年上の義兄の大輔と急接近する。憧れの気持ちが欲望に塗れていく。たくらみが膨れ上がる。

昭和から平成の性的イジメ

ポコたん
BL
バブル期に出てきたチーマーを舞台にしたイジメをテーマにした創作小説です。 内容は実際にあったとされる内容を小説にする為に色付けしています。私自身がチーマーだったり被害者だったわけではないので目撃者などに聞いた事を取り上げています。 実際に被害に遭われた方や目撃者の方がいましたら感想をお願いします。 全2話 チーマーとは 茶髪にしたりピアスをしたりしてゲームセンターやコンビニにグループ(チーム)でたむろしている不良少年。 [補説] 昭和末期から平成初期にかけて目立ち、通行人に因縁をつけて金銭を脅し取ることなどもあった。 東京渋谷センター街が発祥の地という。

性的イジメ

ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。 作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。 全二話 毎週日曜日正午にUPされます。

処理中です...