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────9話*幸せのカタチ、探して
4 優しいひととき
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****♡Side・総括(黒岩)
「勝ちに行きましょうよ、黒岩さん。言われっぱなしなんて、あなたらしくないですよ」
「酔ってんのか? 板井」
唯野がシャワーに行っている間、特にこれと言って話すこともないので先日黒岩が専務に言われたことを板井に話せばこの有様《ありさま》だ。
「俺は正気です」
「まあ、そんなに熱くなるなって」
黒岩は肩を竦めるとシラスに箸を伸ばす。
「むしろ黒岩らしいじゃないか。こいつはいつだってそう。何を言われても言い返さない。言われっぱなし野郎だよ」
”何の話かは知らないが”と付け加え、いつの間にか傍に立っていた唯野が口を挟む。
「まあ、否定はしない」
言い返したところでスカッとするのは一時。何の問題解決にもならない。黒岩はそういう考え方の持ち主だ。
「お前さあ……」
「まあまあ、とりあえずご飯にしましょうよ」
黒岩に文句を言おうとした唯野を遮り、宥めにかかる板井。本来なら黒岩が自分で説明をして唯野に理解してもらうべきなのだろう。そうは思うものの、黒岩にはそれが出来なかった。
どうせ何を言ったところで怒らせるのだ。怒る理由もわかってはいるが。
──唯野は、俺が悪く言われるのが嫌なんだろう。
可愛い奴だなと黒岩が唯野を眺めていると目が合う。
「なんだよ」
「いや、別に?」
微笑んで見せるが唯野は不機嫌だ。
「飯の最中に喧嘩は止めてくださいね。子供じゃないんですから」
板井に注意され、肩を竦める黒岩。
「俺は喧嘩なんかしてないぞ。なあ、唯野」
「黒岩次第だな」
二人のやり取りにため息を零す板井であった。
「あまり板井に気を遣わせるのは、いいことじゃないぞ」
食事のあと、黒岩は自分に宛がわれた部屋で。
「わかってる」
ベッドに座っていた黒岩は近くに立っていた唯野の腕を撫で、そっと機嫌を窺う。彼にとって板井は甘えられる相手であることは間違いない。そして板井もそれを良しとしている。だが、二人の仲裁役までさせるのは何か違うと思うのだ。
「黒岩は……」
「ん?」
「一見、強引で自分の想い通りにしようとするやつに見えるけど、いつでも他人の顔色を窺ってる。そして何を言われても否定しない」
「それが嫌なの」
優しく問いかければ唯野がこちらに視線を移す。
「否定しようが肯定しようが何の意味もないだろ? 相手がどう思おうとも、自分は自分なんだしさ」
「黒岩は誤解されていてもいいのか?」
唯野の問いにゆっくりと息を吐くと、黒岩は掴んでいた腕を引き寄せる。すると彼は渋々という風に隣に腰かけ、じっとこちらを見つめた。
「俺は唯野が分かってくれていたら、それでいいよ」
黒岩の言葉に案の定、不満そうな表情を浮かべる彼。気に入らないというのは理解する。しかし自分はこういう考え方なのだ。
「こういう俺じゃダメ?」
愛しい彼の頬に手を伸ばしその瞳を覗き込めば、彼は唇を噛みしめ目に涙を浮かべている。どうしてそんな風に他人のことで悔しいと思えるのだろうか。
「ダメではないけれど……納得できない」
「唯野。これが俺なんだよ」
だから自分たちは結ばれることがなかった。そんな風に結論付けてしまえば楽なのに。それがどんなに事実であっても、認めたくない自分もいる。
彼の望む自分であったなら、きっとこんなに遠回りする必要はなかった。
瞬きをする彼の瞳から涙が転げ落ちる。綺麗だなと思った。
そっと口づけてベッドに押し倒せば、その腕が黒岩の首に回される。
「板井のところに行かなくていいのか?」
「いい。板井には黒岩とちゃんと話せと言われている」
「そっか」
あれだけ求め合ったのに、目の前にいれば求めずにはいられない。唯野がまんざらでもないならなおのこと。
「ご機嫌取ってくれるんだろ?」
これからすることをそんな風に表現する彼を可愛いなと感じた。
「望むままに」
黒岩はそんな彼を満たせたらいいと願うのだった。
「勝ちに行きましょうよ、黒岩さん。言われっぱなしなんて、あなたらしくないですよ」
「酔ってんのか? 板井」
唯野がシャワーに行っている間、特にこれと言って話すこともないので先日黒岩が専務に言われたことを板井に話せばこの有様《ありさま》だ。
「俺は正気です」
「まあ、そんなに熱くなるなって」
黒岩は肩を竦めるとシラスに箸を伸ばす。
「むしろ黒岩らしいじゃないか。こいつはいつだってそう。何を言われても言い返さない。言われっぱなし野郎だよ」
”何の話かは知らないが”と付け加え、いつの間にか傍に立っていた唯野が口を挟む。
「まあ、否定はしない」
言い返したところでスカッとするのは一時。何の問題解決にもならない。黒岩はそういう考え方の持ち主だ。
「お前さあ……」
「まあまあ、とりあえずご飯にしましょうよ」
黒岩に文句を言おうとした唯野を遮り、宥めにかかる板井。本来なら黒岩が自分で説明をして唯野に理解してもらうべきなのだろう。そうは思うものの、黒岩にはそれが出来なかった。
どうせ何を言ったところで怒らせるのだ。怒る理由もわかってはいるが。
──唯野は、俺が悪く言われるのが嫌なんだろう。
可愛い奴だなと黒岩が唯野を眺めていると目が合う。
「なんだよ」
「いや、別に?」
微笑んで見せるが唯野は不機嫌だ。
「飯の最中に喧嘩は止めてくださいね。子供じゃないんですから」
板井に注意され、肩を竦める黒岩。
「俺は喧嘩なんかしてないぞ。なあ、唯野」
「黒岩次第だな」
二人のやり取りにため息を零す板井であった。
「あまり板井に気を遣わせるのは、いいことじゃないぞ」
食事のあと、黒岩は自分に宛がわれた部屋で。
「わかってる」
ベッドに座っていた黒岩は近くに立っていた唯野の腕を撫で、そっと機嫌を窺う。彼にとって板井は甘えられる相手であることは間違いない。そして板井もそれを良しとしている。だが、二人の仲裁役までさせるのは何か違うと思うのだ。
「黒岩は……」
「ん?」
「一見、強引で自分の想い通りにしようとするやつに見えるけど、いつでも他人の顔色を窺ってる。そして何を言われても否定しない」
「それが嫌なの」
優しく問いかければ唯野がこちらに視線を移す。
「否定しようが肯定しようが何の意味もないだろ? 相手がどう思おうとも、自分は自分なんだしさ」
「黒岩は誤解されていてもいいのか?」
唯野の問いにゆっくりと息を吐くと、黒岩は掴んでいた腕を引き寄せる。すると彼は渋々という風に隣に腰かけ、じっとこちらを見つめた。
「俺は唯野が分かってくれていたら、それでいいよ」
黒岩の言葉に案の定、不満そうな表情を浮かべる彼。気に入らないというのは理解する。しかし自分はこういう考え方なのだ。
「こういう俺じゃダメ?」
愛しい彼の頬に手を伸ばしその瞳を覗き込めば、彼は唇を噛みしめ目に涙を浮かべている。どうしてそんな風に他人のことで悔しいと思えるのだろうか。
「ダメではないけれど……納得できない」
「唯野。これが俺なんだよ」
だから自分たちは結ばれることがなかった。そんな風に結論付けてしまえば楽なのに。それがどんなに事実であっても、認めたくない自分もいる。
彼の望む自分であったなら、きっとこんなに遠回りする必要はなかった。
瞬きをする彼の瞳から涙が転げ落ちる。綺麗だなと思った。
そっと口づけてベッドに押し倒せば、その腕が黒岩の首に回される。
「板井のところに行かなくていいのか?」
「いい。板井には黒岩とちゃんと話せと言われている」
「そっか」
あれだけ求め合ったのに、目の前にいれば求めずにはいられない。唯野がまんざらでもないならなおのこと。
「ご機嫌取ってくれるんだろ?」
これからすることをそんな風に表現する彼を可愛いなと感じた。
「望むままに」
黒岩はそんな彼を満たせたらいいと願うのだった。
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