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────8話*この手を離さないで
11・専務の立場
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****♡Side・板井(同僚)
「社長が唯野君を特別視しだしたのは、事件の後だった」
周りからは分からない様に配慮はしていたようだが、よく食事に連れ出したという。確かにそうなってしまっては、専務の出る幕はなかっただろうと思った。だが、一つ気になる点がある。
唯野の事件の時、専務の配属は【営業部長】から変わりはなかった。
しかし皇の事件の時は営業部一課長が左遷されたとのことだが、唯野の時はどうだったのだろうか?
「ああ、営業部一課長のことなら君もよく知ってるんじゃないかい?」
専務の言葉で今回の事件に関係している人物の配属に関して反芻する。
皇は営業部一課から副社長へ。唯野は色んな部署を回されたのち、苦情係の課長に。黒岩は営業部から総括部へ。専務は営業部長から。
「え、まさか当時の営業部一課長だった人って……」
皇がその件について何も言っていなかったのは、知らなかったからだとも言える。彼は確かに副社長ではあるが、十七年前の人事に興味がなければあえて調べたりはしないだろう。
「それは栄転なんですか? それとも左遷?」
「どうだろうね。確かに役職という意味では昇進してはいるが、本人の希望している部署ではないというなら左遷なのかもしれないね」
とは言え、その人事については不可思議としか言えない点もある。
専務と黒岩は明らかに唯野から離されたのに、何故彼は傍にいるのか。
「板井君が疑問に思うのも無理はない。でもね、彼は社長にとても気に入られているんだよ。社長にとって株原で働く君たちは何よりも大切な……そう、宝のようなものだから」
部下たちにとても慕われている、当時の営業部一課長こと【現在の商品部の部長】は社長のお気に入りだったようだ。
「だから専務たちは社長側に付いたのですか?」
板井の質問に彼は小さく首を横に振った。
「僕は君たちの敵ではない。確かに報告役はやらされていたし、彼は僕の手伝いをしていた」
そもそも呉崎社長が黒岩をどう動かしたかったのか、分かっていない。現状を見るあたり、社長の策は完全に失敗だと感じている。
「だが僕がそれを引き受けたのは唯野君を守るため。商品部の部長が僕に従うのは君たちをとても大切に想うからだよ」
『敵の味方をする』その意図について考える。
考えられるのは、報告するか否かを任意で決められることだろう。もし完全に社長側の人間が報告係になったら、こちらにとって不味いことも伝えられてしまう。
「呉崎社長は何故、敵を味方にしようとするのです?」
それは素朴な疑問。
秘書の神流川は皇に想いを寄せているのだと唯野から聞いたことがある。専務は唯野に。それはつまり、恋のライバルを傍に置いているのと変わらない。
「味方になっているとはさすがに思ってはいないだろうよ」
専務はくくっと笑って。
「近くで監視していた方が安心だからだろう。黒岩君に関しては想定外だったようだけどね」
黒岩は板井にとっても何を考えているのかわからない男である。部下には慕われているし大変おモテになるようだが、あの倫理道徳観の崩壊した男のどこがそんなに良いのか理解に苦しむ。
「専務は……その。皇副社長とは仲がよろしくないのでしょうか?」
これも気になっていたことの一つだ。どうみても皇は専務のことをよく思っているようには見えない。板井の言い回しに、『気を遣わせてすまないね』と笑う彼。
「僕は社長から無能のレッテルを貼られた人間だからね。皇副社長は初めから僕を信用していない」
専務がそのレッテルを貼られたのは十七年前だろう。となれば、当時新入社員だった皇が知っているとは思えない。ならば営業部の誰かから聞かされたと推定できるが、唯野の事件を知る者は多かったのだろうか。
板井はまた一つ疑問に感じるのだった。
「社長が唯野君を特別視しだしたのは、事件の後だった」
周りからは分からない様に配慮はしていたようだが、よく食事に連れ出したという。確かにそうなってしまっては、専務の出る幕はなかっただろうと思った。だが、一つ気になる点がある。
唯野の事件の時、専務の配属は【営業部長】から変わりはなかった。
しかし皇の事件の時は営業部一課長が左遷されたとのことだが、唯野の時はどうだったのだろうか?
「ああ、営業部一課長のことなら君もよく知ってるんじゃないかい?」
専務の言葉で今回の事件に関係している人物の配属に関して反芻する。
皇は営業部一課から副社長へ。唯野は色んな部署を回されたのち、苦情係の課長に。黒岩は営業部から総括部へ。専務は営業部長から。
「え、まさか当時の営業部一課長だった人って……」
皇がその件について何も言っていなかったのは、知らなかったからだとも言える。彼は確かに副社長ではあるが、十七年前の人事に興味がなければあえて調べたりはしないだろう。
「それは栄転なんですか? それとも左遷?」
「どうだろうね。確かに役職という意味では昇進してはいるが、本人の希望している部署ではないというなら左遷なのかもしれないね」
とは言え、その人事については不可思議としか言えない点もある。
専務と黒岩は明らかに唯野から離されたのに、何故彼は傍にいるのか。
「板井君が疑問に思うのも無理はない。でもね、彼は社長にとても気に入られているんだよ。社長にとって株原で働く君たちは何よりも大切な……そう、宝のようなものだから」
部下たちにとても慕われている、当時の営業部一課長こと【現在の商品部の部長】は社長のお気に入りだったようだ。
「だから専務たちは社長側に付いたのですか?」
板井の質問に彼は小さく首を横に振った。
「僕は君たちの敵ではない。確かに報告役はやらされていたし、彼は僕の手伝いをしていた」
そもそも呉崎社長が黒岩をどう動かしたかったのか、分かっていない。現状を見るあたり、社長の策は完全に失敗だと感じている。
「だが僕がそれを引き受けたのは唯野君を守るため。商品部の部長が僕に従うのは君たちをとても大切に想うからだよ」
『敵の味方をする』その意図について考える。
考えられるのは、報告するか否かを任意で決められることだろう。もし完全に社長側の人間が報告係になったら、こちらにとって不味いことも伝えられてしまう。
「呉崎社長は何故、敵を味方にしようとするのです?」
それは素朴な疑問。
秘書の神流川は皇に想いを寄せているのだと唯野から聞いたことがある。専務は唯野に。それはつまり、恋のライバルを傍に置いているのと変わらない。
「味方になっているとはさすがに思ってはいないだろうよ」
専務はくくっと笑って。
「近くで監視していた方が安心だからだろう。黒岩君に関しては想定外だったようだけどね」
黒岩は板井にとっても何を考えているのかわからない男である。部下には慕われているし大変おモテになるようだが、あの倫理道徳観の崩壊した男のどこがそんなに良いのか理解に苦しむ。
「専務は……その。皇副社長とは仲がよろしくないのでしょうか?」
これも気になっていたことの一つだ。どうみても皇は専務のことをよく思っているようには見えない。板井の言い回しに、『気を遣わせてすまないね』と笑う彼。
「僕は社長から無能のレッテルを貼られた人間だからね。皇副社長は初めから僕を信用していない」
専務がそのレッテルを貼られたのは十七年前だろう。となれば、当時新入社員だった皇が知っているとは思えない。ならば営業部の誰かから聞かされたと推定できるが、唯野の事件を知る者は多かったのだろうか。
板井はまた一つ疑問に感じるのだった。
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