上 下
196 / 218
────8話*この手を離さないで

8・板井と専務宅

しおりを挟む
****♡Side・板井(同僚)

「専務からお話を伺うことはできませんか?」

『信頼はされていたと思うよ』
 皇の言葉に違和感を持った板井はある仮説を立てていた。
 板井の頼みに一瞬不快な表情を見せた彼。それは板井の仮説を裏付ける要素の一つとなる。

 皇の専務への人となりの説明も非常に簡素ではあったが、彼は元上司。一年という期間で、外回りが多くあまり接することがなかったとしても他人事のような感想はあんまりだろうと思う。
 皇は、あの倫理道徳観の崩壊した黒岩にすら、そんな冷たい接し方はしないのに。つまり、彼は専務のことをよく思っていないのだろう。

 一瞬不快な表情をした皇ではあったが、何故か得意げな顔をして言ったのだ。『立場は俺の方が上だから、容易い御用だよ』と。
 よく思ってないどころか、嫌悪すら感じ取れるその態度に、やはりという気持ちと驚きが湧いた。

 そして現在板井は単身、専務宅へ向かっている状況。
『俺は一緒にはいかないが、待っているとのことだ』
 皇がそんなに嫌悪を示す理由は恐らくこれからわかるのだろうと思う。彼が皇の事件に関わっている可能性も視野に入れなければならないが。
 唯野の話では、皇は最近まであの事件に社長が関わっていたことすら知らなかったと言う。

──修二さんの口からも専務の話は出ていない。
 ならば事件には関わっていないのだろう。
 あるいは……。


『さすがだね。概ね、君の推理通りで合ってるよ』
 パンパンパンと手を叩く彼は、まるで洋画でよく見かける悪役のようだった。

 板井が指定のマンションへ向かうと彼はロータリーで待ってくれていた。
 自身が勤める株原の経営陣の一人が一介の社員を待ち受けている。恐縮もしたが、まるでラスボスとの対峙のようにも感じてしまう。 
 だが彼は文字通り、歓迎してくれた。唯野よりも十近く上とのことなので五十手前というところだろうか。

 スラリと背が高く、年を感じさせない体つきをしている。明るめの髪。黒の鎖骨が見えるVネックのシャツに襟付きの上着を羽織っているが、胸元近くまで開けられたチャックにネックレスという洒落た格好をしていた。
 元営業部と言うだけあって、物腰は柔らかく笑顔も素敵だ。端正な顔立ちをしているところを見ると、やはり株原の営業部はイケメン揃いということなのだろうか。

「歓迎するよ。僕も一度、君とは話してみたいと思っていたんだ」
 板井が挨拶をすると、彼は言ってにこやかに微笑んだ。まったく嫌な感じのしない人だが、皇のあの表情が気になった。
 いつも笑顔の人はなんだか胡散臭く感じてしまうものだが、心が見えなさ過ぎて不審ということなのだろうか?
 なんだか分からないまま彼の家に招かれて、リビングに足を踏み入れると実に簡素であった。高級感はあるものの必要最低限のモノを置いていない、がらんとした部屋。生活感がないと言った方が適切だろうか。

「つまらない部屋だろう? 趣味も何もなくてね」
 ソファーに座るように促され恐縮しつつも腰かけると、彼が珈琲を入れてくれた。
「板井君がここまで来たということは、君の探偵ごっこもいよいよ佳境かな?」
 自嘲気味に笑みを浮かべていた彼が、さも可笑しそうに笑う。初めはバカにされているのかと思ったが、どうやらそうではないようだ。
「君が知りたいことはなんでも答えようとは思っているが、その前に一つ。君は全てを知ってどうするつもりなんだい?」
 向かい側に腰かけた彼は、コーヒーカップをローテーブルの上に置くとゆっくりと足を組み替えて。その優雅な振る舞いには、皇を思わせるものがあった。

「正しく理解し、正しい答えを導き出します」
 板井は真っ直ぐに彼を見つめる。
「そうか。何処から話すべきだろうね。まずは君の推理を聞こうか。その上でどこから話すか決めよう」
 間違った認識をしていれば正すと言っているのだ。板井に異論はなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

ドSな義兄ちゃんは、ドMな僕を調教する

天災
BL
 ドSな義兄ちゃんは僕を調教する。

食事届いたけど配達員のほうを食べました

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか? そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。

受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店

ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

消防士の義兄との秘密

熊次郎
BL
翔は5歳年上の義兄の大輔と急接近する。憧れの気持ちが欲望に塗れていく。たくらみが膨れ上がる。

処理中です...