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────8話*この手を離さないで
6・板井の推理
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****♡Side・副社長(皇)
「今から話すことは、あくまでも憶測の域を出ません」
板井は自身が慕う【唯野 修二】を救いたいと願い、様々なことを調べた。その主な情報源は株原の社内一の情報通とも言われる秘書室長。彼女は唯野の同期であり、彼の妻とも懇意にしていた。
その調査の中で板井は唯野が最も【板井に知られたくなかった】ことを暴いてしまう。
──知られたくないことを知ってもなお、気持ちが変わらないから二人は恋人になれたのだろうと思う。
皇からの板井の人物像と言えば『真面目、誠実、優秀』の三拍子の揃った信頼できる男。そして余計なことを言わないところも好感が持てる部分。
本来なら唯野の過去なんて調べたりはしなかったのだろうが、彼が何故社長からパワハラを受けているのか、その原因を探りたかったのではないかと感じた。
「監視が置かれたのは、何かきっかけがあったからなんだと思います」
「つまり、以前からではない?」
「ええ。俺が監視の目を感じたのは少なくとも秘書室長とコンタクトを取るようになってからです」
どちらにしても実行役は商品部にいる誰かだろうと思われる。
「結論から言えば、専務から指示されたのは商品部の部長だと思います」
「あの人が?」
商品部の部長はでっぷりとしたバーコード禿。愛嬌があり、部下をよく焼肉に連れていくことで有名。明るく人当たりが良いため、部下たちから非常に慕われていた。
「もちろん、監視と言っても通常イメージするような張り込みのような形ではなく、部下たちにそれとなく報告させていたのだと思います。日常会話の一環として」
”昨日、○○さんを○○で見た”などと言う話は、噂好きなら無意識にしてしまうものだ。
「何故そう思ったんだ?」
恐らくそれは板井の勘ではない。と言うよりも、何か理由があってそう感じたに違いないと思った。
「コンビニでたまたま商品部の子に出くわしたんですよ」
株原では残業は一日最大二時間までと定められている。もちろん法廷時間を超えて残業を行うことはできない。この残業に関して我が社では十五分単位と定めていて、無駄に社内に残るようなことを容認してはいなかった。
『基本は定時。週休二日制を守る。それによって効率があがる』
これが株原の方針なため、残業が増えれば無能とみなされ、査定にも響く。しかも”部下に仕事を押し付ける、後輩に仕事を押し付ける”ことの無いように、連帯責任とされていた。
これにより、我が社では無駄な説教をするような上司が自ずと減る。チームワークを大切にする体制が自然と整って行った。
部署によっては時間をずらした出勤なども活用されている。それでも会社の閉まる時間は決まっているため、その時間を超えて社内に残ることはできない。
その中でも商品部や商品管理課などは仕事量が多く、残業になることも多い。その為、同じ駅を使っていたとしても、通退勤時間が重なるとは限らないのだ。なのでたまたま近くのコンビニで商品部の社員と会ったからといって、板井が不信感を抱いたことにどう繋がるのか首を傾げるしかない。
「いえ、”そういう方法”だったからわからなかったのかと思ったのですよ」
誰かに見られている感じがする。
その相手を特定する時、もちろん直接的に自分の後をつけてくる人に気づくこともあるだろう。しかし何人かが『たまたま見かけた』程度の報告をしていたとしたら?
視線は感じるものの、相手はストーキングをしているわけではないから気づきづらい。
「もっと明確に【監視】の内容を述べるなら……」
商品部の部長は専務から『苦情係を監視しろ』と言われたわけではないだろうと板井は言う。
「そして監視対象は自分と黒岩さん、そして皇さんです」
恐らく動向について調べられていたのは板井。
単に位置の確認をされていただけなのは黒岩と皇。
「塩田と電車が監視対象外なのは、ラッキーだったというべきか。社長が侮っていただけなのか、分かりませんが」
板井の話を聞いていた皇は、なんだか眩暈がしたのだった。
「今から話すことは、あくまでも憶測の域を出ません」
板井は自身が慕う【唯野 修二】を救いたいと願い、様々なことを調べた。その主な情報源は株原の社内一の情報通とも言われる秘書室長。彼女は唯野の同期であり、彼の妻とも懇意にしていた。
その調査の中で板井は唯野が最も【板井に知られたくなかった】ことを暴いてしまう。
──知られたくないことを知ってもなお、気持ちが変わらないから二人は恋人になれたのだろうと思う。
皇からの板井の人物像と言えば『真面目、誠実、優秀』の三拍子の揃った信頼できる男。そして余計なことを言わないところも好感が持てる部分。
本来なら唯野の過去なんて調べたりはしなかったのだろうが、彼が何故社長からパワハラを受けているのか、その原因を探りたかったのではないかと感じた。
「監視が置かれたのは、何かきっかけがあったからなんだと思います」
「つまり、以前からではない?」
「ええ。俺が監視の目を感じたのは少なくとも秘書室長とコンタクトを取るようになってからです」
どちらにしても実行役は商品部にいる誰かだろうと思われる。
「結論から言えば、専務から指示されたのは商品部の部長だと思います」
「あの人が?」
商品部の部長はでっぷりとしたバーコード禿。愛嬌があり、部下をよく焼肉に連れていくことで有名。明るく人当たりが良いため、部下たちから非常に慕われていた。
「もちろん、監視と言っても通常イメージするような張り込みのような形ではなく、部下たちにそれとなく報告させていたのだと思います。日常会話の一環として」
”昨日、○○さんを○○で見た”などと言う話は、噂好きなら無意識にしてしまうものだ。
「何故そう思ったんだ?」
恐らくそれは板井の勘ではない。と言うよりも、何か理由があってそう感じたに違いないと思った。
「コンビニでたまたま商品部の子に出くわしたんですよ」
株原では残業は一日最大二時間までと定められている。もちろん法廷時間を超えて残業を行うことはできない。この残業に関して我が社では十五分単位と定めていて、無駄に社内に残るようなことを容認してはいなかった。
『基本は定時。週休二日制を守る。それによって効率があがる』
これが株原の方針なため、残業が増えれば無能とみなされ、査定にも響く。しかも”部下に仕事を押し付ける、後輩に仕事を押し付ける”ことの無いように、連帯責任とされていた。
これにより、我が社では無駄な説教をするような上司が自ずと減る。チームワークを大切にする体制が自然と整って行った。
部署によっては時間をずらした出勤なども活用されている。それでも会社の閉まる時間は決まっているため、その時間を超えて社内に残ることはできない。
その中でも商品部や商品管理課などは仕事量が多く、残業になることも多い。その為、同じ駅を使っていたとしても、通退勤時間が重なるとは限らないのだ。なのでたまたま近くのコンビニで商品部の社員と会ったからといって、板井が不信感を抱いたことにどう繋がるのか首を傾げるしかない。
「いえ、”そういう方法”だったからわからなかったのかと思ったのですよ」
誰かに見られている感じがする。
その相手を特定する時、もちろん直接的に自分の後をつけてくる人に気づくこともあるだろう。しかし何人かが『たまたま見かけた』程度の報告をしていたとしたら?
視線は感じるものの、相手はストーキングをしているわけではないから気づきづらい。
「もっと明確に【監視】の内容を述べるなら……」
商品部の部長は専務から『苦情係を監視しろ』と言われたわけではないだろうと板井は言う。
「そして監視対象は自分と黒岩さん、そして皇さんです」
恐らく動向について調べられていたのは板井。
単に位置の確認をされていただけなのは黒岩と皇。
「塩田と電車が監視対象外なのは、ラッキーだったというべきか。社長が侮っていただけなのか、分かりませんが」
板井の話を聞いていた皇は、なんだか眩暈がしたのだった。
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