188 / 218
────8話*この手を離さないで
0・宣戦布告
しおりを挟む
****♡Side・総括(黒岩)
『黒岩が皇から手を引かないのであれば、苦情係は今後一切他の部署を手伝わない』
苦情係こと悪質クレーマー対策課。その部署は副社長である皇の直属にあった。これが何を意味するのかくらい自分にもわかっている。
我が社、株原は自社で開発から販売で行っている為、部署も多岐にわたる。それは全て総括部を通り上へ行く。苦情係が好きに他部署を手伝えるのは、副社長直属の課であるから。今まで苦情係の彼らには散々助けられてきたのだ。
その援護を受けられないということは総括部で何とかしなければならないということを表す。
「まじかよ……」
ただ手伝わないのであれば大した問題はない。その分、法を犯さない範囲で残業すればいいだけ。しかし我が社はそんな甘いものではないのだ。
『残業になるのは無能だからじゃないの? 黒岩君』
ちゃんとした配分をしていれば、仕事は定時内に終わる。それが社長の考え方。
『適材適所って言葉を知っているよねえ? 何のためにすべての部署を君の下に置いていると思っているの。人事部と連携して働きやすく効率の良い環境づくりをするのも君の仕事でしょう?』
聴くまでもなく、社長にどんな嫌味を言われるのか想像できてしまうのだ。
怖いのはそれだけではない。
残業が多くなれば査定に響く。しかも、部署の連帯責任として。
『僕は君の働きぶりを見て総括部の部長に据えたんだよ。なんとかできるでしょう? 君なら』
社長呉崎とはそういう人だ。鼻からできそうにない人物を重要なポストにつけたりはしない。
この会社で他人に仕事を押し付けるような人物が出ないのは、部署で何かあった場合には連帯責任になるからである。そもそも、やる気のない人間は面接時に弾かれるはずだ。この会社が一番重要視するのはやる気。
やる気のない者などどんなに能力があっても何の役にも立たない。人に言われなければ動けないような主体性のない者も然り。
人は自分で考えて動くからこそ成長するのである。
とは言え、それなりの黒字を目指すなら人件費の削減は必要不可欠。どこもぎりぎりで回しているのが現状なのだ。赤字で会社が潰れてしまっては元も子もない。
そこに現れた救世主が苦情係の精鋭メンバーなのである。
たった四人の部署な上に、課長唯野以外は新入社員。現在二年目ではあるが、彼らは優秀だった。
この先彼らからの支援を受けられないということは、すべての部署を敵に回すことと同等の意味を持つ。給料に直接反映されるのだ。みんな黙ってはいないだろう。
自分はただ皇に話したいことがあるだけなのだ。それを押し通すことが今後、全ての部署の運命を変えてしまうことになる。
『お前だって、わからないわけじゃないんだろ?』
黒岩が近づくことで皇は社長から酷いことをされるのだ。
『気づいてないわけじゃないんだろ』
唯野の言葉を聞きながら、頷くしかなかった。自分の迂闊な行動が皇を追い詰める。
『いくらお前だって、好いた相手が酷い目に合うのは望まないよな?』
誘導尋問だ。だが、彼は間違ってはいない。
とは言え、急に唯野が行動に出たことには違和感を持つ。彼を動かしたのは果たして誰なのか?
社長ならば簡単に唯野を動かすことはできるだろう。しかし唯野がすんなり社長の指示に従うとは考え辛い。
ならば皇本人に頼られてだろうか?
その線は薄いと思われる。それをするなら最初の段階でそうしていたはずだから。
唯野に意見できる者など限られている。その上で今回の事態を知っている必要があるだろう。一番近しいのは部下の板井だが、果たして彼がそんなことを唯野に進言するだろうか?
黒岩にはどれもしっくり来なかった。
「塩田なら直接言ってくるだろうしな」
今まで自分のしたいようにしか言動してこなかった黒岩も、今回ばかりは二の足を踏む事態となってしまった。
『黒岩が皇から手を引かないのであれば、苦情係は今後一切他の部署を手伝わない』
苦情係こと悪質クレーマー対策課。その部署は副社長である皇の直属にあった。これが何を意味するのかくらい自分にもわかっている。
我が社、株原は自社で開発から販売で行っている為、部署も多岐にわたる。それは全て総括部を通り上へ行く。苦情係が好きに他部署を手伝えるのは、副社長直属の課であるから。今まで苦情係の彼らには散々助けられてきたのだ。
その援護を受けられないということは総括部で何とかしなければならないということを表す。
「まじかよ……」
ただ手伝わないのであれば大した問題はない。その分、法を犯さない範囲で残業すればいいだけ。しかし我が社はそんな甘いものではないのだ。
『残業になるのは無能だからじゃないの? 黒岩君』
ちゃんとした配分をしていれば、仕事は定時内に終わる。それが社長の考え方。
『適材適所って言葉を知っているよねえ? 何のためにすべての部署を君の下に置いていると思っているの。人事部と連携して働きやすく効率の良い環境づくりをするのも君の仕事でしょう?』
聴くまでもなく、社長にどんな嫌味を言われるのか想像できてしまうのだ。
怖いのはそれだけではない。
残業が多くなれば査定に響く。しかも、部署の連帯責任として。
『僕は君の働きぶりを見て総括部の部長に据えたんだよ。なんとかできるでしょう? 君なら』
社長呉崎とはそういう人だ。鼻からできそうにない人物を重要なポストにつけたりはしない。
この会社で他人に仕事を押し付けるような人物が出ないのは、部署で何かあった場合には連帯責任になるからである。そもそも、やる気のない人間は面接時に弾かれるはずだ。この会社が一番重要視するのはやる気。
やる気のない者などどんなに能力があっても何の役にも立たない。人に言われなければ動けないような主体性のない者も然り。
人は自分で考えて動くからこそ成長するのである。
とは言え、それなりの黒字を目指すなら人件費の削減は必要不可欠。どこもぎりぎりで回しているのが現状なのだ。赤字で会社が潰れてしまっては元も子もない。
そこに現れた救世主が苦情係の精鋭メンバーなのである。
たった四人の部署な上に、課長唯野以外は新入社員。現在二年目ではあるが、彼らは優秀だった。
この先彼らからの支援を受けられないということは、すべての部署を敵に回すことと同等の意味を持つ。給料に直接反映されるのだ。みんな黙ってはいないだろう。
自分はただ皇に話したいことがあるだけなのだ。それを押し通すことが今後、全ての部署の運命を変えてしまうことになる。
『お前だって、わからないわけじゃないんだろ?』
黒岩が近づくことで皇は社長から酷いことをされるのだ。
『気づいてないわけじゃないんだろ』
唯野の言葉を聞きながら、頷くしかなかった。自分の迂闊な行動が皇を追い詰める。
『いくらお前だって、好いた相手が酷い目に合うのは望まないよな?』
誘導尋問だ。だが、彼は間違ってはいない。
とは言え、急に唯野が行動に出たことには違和感を持つ。彼を動かしたのは果たして誰なのか?
社長ならば簡単に唯野を動かすことはできるだろう。しかし唯野がすんなり社長の指示に従うとは考え辛い。
ならば皇本人に頼られてだろうか?
その線は薄いと思われる。それをするなら最初の段階でそうしていたはずだから。
唯野に意見できる者など限られている。その上で今回の事態を知っている必要があるだろう。一番近しいのは部下の板井だが、果たして彼がそんなことを唯野に進言するだろうか?
黒岩にはどれもしっくり来なかった。
「塩田なら直接言ってくるだろうしな」
今まで自分のしたいようにしか言動してこなかった黒岩も、今回ばかりは二の足を踏む事態となってしまった。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
年上の恋人は優しい上司
木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。
仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。
基本は受け視点(一人称)です。
一日一花BL企画 参加作品も含まれています。
表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!!
完結済みにいたしました。
6月13日、同人誌を発売しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる