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────7話*彼の導く選択
22・踏み出す勇気
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****♡Side・電車(同僚・恋人)
「決心はついたの?」
「決心?」
電車の問いに不思議そうに聞き返す塩田。
「いや、覚悟かな。踏ん切りがつかなかったんでしょ?」
自分の勘や読みがあっているとは限らないが、今日一日彼を見ていて感じたことだ。
「踏ん切りって言うか……あんまりデートとかしたことないし」
「ごめんね」
「なんで謝るんだよ」
ベッドに腰かけていた電車は彼の腰に腕を回し、傍に引き寄せる。
一日遊園地で遊んで、夕方にはこのホテルにたどり着いた。このデートでの彼の目的は『電車と恋人らしいことをする』だということに気づいたのはどのあたりだったか。
ずっと頑張っていると思う、塩田は。
──OKはしたものの、副社長とのデートに不安を感じているのは一目瞭然。
副社長からしたらそんな意味合いはなく、単に好きな人とデートをしてみたいという域を超えないのに。
とは言え、致し方ないだろう。恋人とさえそんなにデートをしたことがあるわけではないのだから。
「もっといっぱいデートすれば良かったね」
先ほど一緒に風呂に入った。彼からはボディソープのいい匂いがしている。
「俺は別に紀夫と居られればなんでも……」
どこかへ出かけるというよりは、塩田のマンションでのんびりしていることが多かった。確かにインドア派の二人にとってはそれがとても心地良い時間でもある。
けれども、デートとは互いの価値観の相違や好みなどを知る大切な機会なのだ。その機会を怠惰で逃してきた。それが現実。
もっとも行きたくないという相手を無理やり連れ出すのは間違いだと思う。
「なんか、落ち着かないな」
着慣れないバスローブ一枚の彼はベッドに乗り上げ電車の膝に跨った。
「どうせ、すぐ脱ぐことになるよ」
皇と遊園地に行くことはないだろうが、ホテルに向かう可能性は大。そんな彼のために遊園地の近くのホテルを予約していた。一泊する気はないが、それなりのことをして展望レストランで食事をして帰る予定である。
すっかり暗くなった窓の向こうには夜景が広がっていた。
電車は傍らのリモコンに手を伸ばすと明りを調節する。夜景になど興味がなく、ムードには無関心な彼だがここへ来た意味を考えるとそうするべきだと思った。
──恋人とすらまともにデートしたことがないのに、デートしようと言われたら確かに不安になるとは思う。
友人すらいなかった彼に、気軽に遊びに行こうと言ったところでどうしていいのか分からないだろうとも思うのだ。好きな人とデートしたい。その気持ちは彼にとって本心ではあるだろうが、これが予行演習になればいいと電車は思っている。
──バカかな、俺は。
愛しい人が選んだ道だ。そのサポートをしてあげたいと思っている。本来、二人だけであればこんなことする必要がなく、純粋にデートを楽しむことが出来たに違いない。
反対することだってできた。彼は自分に判断を委ねたのだから。
唯野の策を突っぱねて一緒に逃げることもできた。元々皇は『塩田に酷いことをした人間』でもある。
──それに関しては乗った俺も同罪だから。
「しないのか?」
塩田に問われて顔を上げれば、彼は瞳を揺らしこちらを見ていた。
ぶっきらぼうだけれど、純粋で真っ直ぐな彼。愛しい彼の心を手に入れて幸せなはずなのに、影を落とした出来事。
何もしらないまま、それらと戦う彼に守られてきた。だから今度は自分が彼を守ろうと思っていたのだ。彼が守りたいと願うものをひっくるめて。
「しようか」
愛しい彼の背に腕を回しぎゅっと抱きしめると、
「愛してるよ」
と囁いてその肩口に唇を寄せる。
「何も変わらないんだよ。大丈夫」
この先のことを考えて言い聞かせるように言葉にすると、彼は不思議そうな顔をした。
──副社長とデートをしても、俺たちの関係は何も変わらない。
ただ今までよりも互いを深く知るだけなんだよ。
電車は熱を分け合うように彼を強く抱きしめた。
「決心はついたの?」
「決心?」
電車の問いに不思議そうに聞き返す塩田。
「いや、覚悟かな。踏ん切りがつかなかったんでしょ?」
自分の勘や読みがあっているとは限らないが、今日一日彼を見ていて感じたことだ。
「踏ん切りって言うか……あんまりデートとかしたことないし」
「ごめんね」
「なんで謝るんだよ」
ベッドに腰かけていた電車は彼の腰に腕を回し、傍に引き寄せる。
一日遊園地で遊んで、夕方にはこのホテルにたどり着いた。このデートでの彼の目的は『電車と恋人らしいことをする』だということに気づいたのはどのあたりだったか。
ずっと頑張っていると思う、塩田は。
──OKはしたものの、副社長とのデートに不安を感じているのは一目瞭然。
副社長からしたらそんな意味合いはなく、単に好きな人とデートをしてみたいという域を超えないのに。
とは言え、致し方ないだろう。恋人とさえそんなにデートをしたことがあるわけではないのだから。
「もっといっぱいデートすれば良かったね」
先ほど一緒に風呂に入った。彼からはボディソープのいい匂いがしている。
「俺は別に紀夫と居られればなんでも……」
どこかへ出かけるというよりは、塩田のマンションでのんびりしていることが多かった。確かにインドア派の二人にとってはそれがとても心地良い時間でもある。
けれども、デートとは互いの価値観の相違や好みなどを知る大切な機会なのだ。その機会を怠惰で逃してきた。それが現実。
もっとも行きたくないという相手を無理やり連れ出すのは間違いだと思う。
「なんか、落ち着かないな」
着慣れないバスローブ一枚の彼はベッドに乗り上げ電車の膝に跨った。
「どうせ、すぐ脱ぐことになるよ」
皇と遊園地に行くことはないだろうが、ホテルに向かう可能性は大。そんな彼のために遊園地の近くのホテルを予約していた。一泊する気はないが、それなりのことをして展望レストランで食事をして帰る予定である。
すっかり暗くなった窓の向こうには夜景が広がっていた。
電車は傍らのリモコンに手を伸ばすと明りを調節する。夜景になど興味がなく、ムードには無関心な彼だがここへ来た意味を考えるとそうするべきだと思った。
──恋人とすらまともにデートしたことがないのに、デートしようと言われたら確かに不安になるとは思う。
友人すらいなかった彼に、気軽に遊びに行こうと言ったところでどうしていいのか分からないだろうとも思うのだ。好きな人とデートしたい。その気持ちは彼にとって本心ではあるだろうが、これが予行演習になればいいと電車は思っている。
──バカかな、俺は。
愛しい人が選んだ道だ。そのサポートをしてあげたいと思っている。本来、二人だけであればこんなことする必要がなく、純粋にデートを楽しむことが出来たに違いない。
反対することだってできた。彼は自分に判断を委ねたのだから。
唯野の策を突っぱねて一緒に逃げることもできた。元々皇は『塩田に酷いことをした人間』でもある。
──それに関しては乗った俺も同罪だから。
「しないのか?」
塩田に問われて顔を上げれば、彼は瞳を揺らしこちらを見ていた。
ぶっきらぼうだけれど、純粋で真っ直ぐな彼。愛しい彼の心を手に入れて幸せなはずなのに、影を落とした出来事。
何もしらないまま、それらと戦う彼に守られてきた。だから今度は自分が彼を守ろうと思っていたのだ。彼が守りたいと願うものをひっくるめて。
「しようか」
愛しい彼の背に腕を回しぎゅっと抱きしめると、
「愛してるよ」
と囁いてその肩口に唇を寄せる。
「何も変わらないんだよ。大丈夫」
この先のことを考えて言い聞かせるように言葉にすると、彼は不思議そうな顔をした。
──副社長とデートをしても、俺たちの関係は何も変わらない。
ただ今までよりも互いを深く知るだけなんだよ。
電車は熱を分け合うように彼を強く抱きしめた。
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