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────7話*彼の導く選択
18・小さな変化
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****♡Side・副社長(皇)
苦情係に入ると電車と板井が心配そうな目をこちらに向けていた。塩田はそれに気づくと皇から手を放し自分の席へ。
素っ気ないなとは思ったが、二人が話しかけたそうにしていたからだろう。
「大丈夫ですか?」
板井の気遣いは筋金入りだ。
「塩田がいてくれたから」
と笑顔を向けると何か言いたそうにしていた電車は彼に視線を移した。
大丈夫というように軽く手をかざすと皇もいつも使用している席へ腰かける。あとは唯野がなんとかしてくれるのだろうと思いながら。
それから昼前まで唯野が不在のまま、いつも通り業務は続けられた。とはいえ、唯野が不在なのは日常茶飯事。
変わったことといえば、
『そう言えば、ここ数日社長から呼び出しされないんだよな』
と唯野が言っていたことだろう。
それに関しては、
『良くないことが起きなければいいがな』
と塩田が意見していたことも気になるところだ。
社長呉崎から唯野へのパワハラがなくなることは良いことなのだが、それが何を意味するのかわからない。今までは皇が苦情係を手伝っていること、唯野と親密なことに対して呉崎が一方的にあたっていたわけだが。
それは皇が呉崎の魔の手から守られていることを意味していたのだ。
先ほどの黒岩の”話”とやらがそのことに関係しないとも限らない。
だとしても、それは唯野が聞いてくれることだろう。
それよりも先ほど塩田が自分を守ろうとしてくれたことが嬉しくて顔がにやけそうである。そうこうしているうちに昼のチャイムが鳴った。
「唯野さんはどうするんです?」
二人で話す時は営業部時代の雰囲気のままの皇たちを、不思議そうに眺める板井のことは気になったが、特に何も言わず唯野に笑顔を向けた皇。
「あ、昼? 板井と外に食べに行こうかなと思う」
「自分たち、生パスタの店に行こうと思うのですがご一緒にどうです?」
先ほど電車から板井もパスタは好きだという話を聞いたからである。
席は共にする必要はないが、同じ店に行くのは悪くないと思う。
朝、家を出る前、
『もしかしたら板井たちも誘うかも』
と皇が電車に告げると、
『じゃあ、俺車出すよ』
と言っていたのだ。
電車の自家用車は十人乗りのワゴン車。ミニバンという呼ばれ方もするが、要は電車の自家用車は皇の車と違ってたくさん人が乗れるということだ。
元は、下に兄弟が多く出かけるときに便利ということで購入したらしいが、塩田と同棲することになり買い替えるか迷ってたとのこと。皇が、そのままなら旅行も楽だろうという話をしたため買い替えを踏みとどまった。
「電車が車出してくれるから、移動に関してはお気になさらず」
と付け加えると”便乗しようかな”と彼。
車の中で皇は予約先に連絡を入れる。知り合いの店であることもあり、多少の融通は利く。ただ、昼時ということもあって席は別になりそうだった。
人生とは変化の繰り返し。
それは大きな変化かも知れないし、微細な変化かも知れない。
変わっていないように見えて、日々少しずつ変わっているものだ。
「デート?」
「そう」
塩田が席を立ったのを見届けて皇は電車に話を振る。
「塩田が、電車の許可を取ればと言っていたから」
「なるほど。いいんじゃない?」
電車も塩田もインドア派を通り越し、引きこもり状態だったという。皇が一緒に暮らし始めるまでは。
「俺もたまには実家に顔出さないと、弟妹達に忘れられちゃいそうだし」
それは二人が出かけやすくするための彼なりの気遣いなのだろうと思った。
「で、何処に行きたいの?」
と彼。
「素朴で良いんだ。こう、世間一般のデートというものを経験してみたい」
「ふうん」
と電車は意味ありげに笑う。
皇には以前、婚約者がいた。そこには恋愛感情はなく、ビジネスパートナーのような関係。恋愛なんて自分には無縁だと思っていたあの頃。
皇はこんなことに憧れるなんて思ってもいなかった。
苦情係に入ると電車と板井が心配そうな目をこちらに向けていた。塩田はそれに気づくと皇から手を放し自分の席へ。
素っ気ないなとは思ったが、二人が話しかけたそうにしていたからだろう。
「大丈夫ですか?」
板井の気遣いは筋金入りだ。
「塩田がいてくれたから」
と笑顔を向けると何か言いたそうにしていた電車は彼に視線を移した。
大丈夫というように軽く手をかざすと皇もいつも使用している席へ腰かける。あとは唯野がなんとかしてくれるのだろうと思いながら。
それから昼前まで唯野が不在のまま、いつも通り業務は続けられた。とはいえ、唯野が不在なのは日常茶飯事。
変わったことといえば、
『そう言えば、ここ数日社長から呼び出しされないんだよな』
と唯野が言っていたことだろう。
それに関しては、
『良くないことが起きなければいいがな』
と塩田が意見していたことも気になるところだ。
社長呉崎から唯野へのパワハラがなくなることは良いことなのだが、それが何を意味するのかわからない。今までは皇が苦情係を手伝っていること、唯野と親密なことに対して呉崎が一方的にあたっていたわけだが。
それは皇が呉崎の魔の手から守られていることを意味していたのだ。
先ほどの黒岩の”話”とやらがそのことに関係しないとも限らない。
だとしても、それは唯野が聞いてくれることだろう。
それよりも先ほど塩田が自分を守ろうとしてくれたことが嬉しくて顔がにやけそうである。そうこうしているうちに昼のチャイムが鳴った。
「唯野さんはどうするんです?」
二人で話す時は営業部時代の雰囲気のままの皇たちを、不思議そうに眺める板井のことは気になったが、特に何も言わず唯野に笑顔を向けた皇。
「あ、昼? 板井と外に食べに行こうかなと思う」
「自分たち、生パスタの店に行こうと思うのですがご一緒にどうです?」
先ほど電車から板井もパスタは好きだという話を聞いたからである。
席は共にする必要はないが、同じ店に行くのは悪くないと思う。
朝、家を出る前、
『もしかしたら板井たちも誘うかも』
と皇が電車に告げると、
『じゃあ、俺車出すよ』
と言っていたのだ。
電車の自家用車は十人乗りのワゴン車。ミニバンという呼ばれ方もするが、要は電車の自家用車は皇の車と違ってたくさん人が乗れるということだ。
元は、下に兄弟が多く出かけるときに便利ということで購入したらしいが、塩田と同棲することになり買い替えるか迷ってたとのこと。皇が、そのままなら旅行も楽だろうという話をしたため買い替えを踏みとどまった。
「電車が車出してくれるから、移動に関してはお気になさらず」
と付け加えると”便乗しようかな”と彼。
車の中で皇は予約先に連絡を入れる。知り合いの店であることもあり、多少の融通は利く。ただ、昼時ということもあって席は別になりそうだった。
人生とは変化の繰り返し。
それは大きな変化かも知れないし、微細な変化かも知れない。
変わっていないように見えて、日々少しずつ変わっているものだ。
「デート?」
「そう」
塩田が席を立ったのを見届けて皇は電車に話を振る。
「塩田が、電車の許可を取ればと言っていたから」
「なるほど。いいんじゃない?」
電車も塩田もインドア派を通り越し、引きこもり状態だったという。皇が一緒に暮らし始めるまでは。
「俺もたまには実家に顔出さないと、弟妹達に忘れられちゃいそうだし」
それは二人が出かけやすくするための彼なりの気遣いなのだろうと思った。
「で、何処に行きたいの?」
と彼。
「素朴で良いんだ。こう、世間一般のデートというものを経験してみたい」
「ふうん」
と電車は意味ありげに笑う。
皇には以前、婚約者がいた。そこには恋愛感情はなく、ビジネスパートナーのような関係。恋愛なんて自分には無縁だと思っていたあの頃。
皇はこんなことに憧れるなんて思ってもいなかった。
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