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────7話*彼の導く選択
17・守ることは追い詰められること
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****♡Side・副社長(皇)
それから少し話をしたのち、
「じゃ、じゃあ先に行くから」
と席を立った皇。
「え? おい、ちょ……」
戸惑う塩田を置いて足早に屋上を後にした。
とてもじゃないが心臓が持たない。
塩田とキスをするのは初めてではない。
初めてではないのだが。
屋上の扉を後ろ手で閉め、しゃがみ込むと口元を抑える。
『もう、うだうだ考えるのやめて俺のモノになればいいじゃん』
塩田はそう言ってあきれ顔でこちらを見ていたのだ。
『えっと……』
『まだ何か?』
『デートとかに……誘っても?』
皇の問いに不思議そうな顔をする彼。
『それは二人だけで出かけたいってこと?』
『そ、そう』
『俺は構わないが、紀夫が良いと言えばいいんじゃね?』
──どうしよう。嬉しい。
皇がしゃがみ込み静かに悶絶していると、背後のドアが開き誰かが皇に躓いた。
「おい、マジで何してんのお前」
塩田である。
「待てって言っても待たない上に、ここで俺をはめようとしてるのか?」
「いや、ちょっと考え事を」
「意味わからん。邪魔だし、行くぞ」
彼に腕を掴まれ引っ張り起こされた皇はそのままエレベーターまで連れていかれる。
「しゃがむなとは言わんが、場所は考えろよ。ケガしてからじゃ遅いんだぞ」
エレベーターの扉が開くと腕を放され、中に促された。
「わかってる」
「ほんとかよ」
塩田は腕組みをし、皇を呆れ顔で眺めている。
そんな彼を見ながら心配されて嬉しいと思ってしまうのだから自分はどうかしているのだろう。
恋は人を狂わせるものだ。
「昼、楽しみだな」
場を和ませようとしてそう切り出せば、塩田は小さく笑みを浮かべた。
「そんなに好きなのか? パスタ」
「牛ひき肉の入った……ボロネーゼって言うんだっけ。店で食べて以来あれが好きだ」
和食派でさっぱりしたものや寿司を好む塩田にしては珍しいなと思う。
しかしボロネーゼが美味しいというのは分かる。
「肉より魚派なのに珍しいな」
「別に肉が嫌いなわじゃない。調理法だな」
と彼。
エレベーターはあっという間に目的の階へ着く。
連れ立って箱の外へ出ると商品部へ向かう。
「今日のところはレビューも良いし、楽しみなんだ」
そんなに喜んでくれるならまた誘おうと思った。
苦情係は商品部の奥に設置されている為、どうしても商品部を避けて通ることはできない。
「あ、皇」
この時ばかりは、どうしてこんな不便な立地なのだと思った。
「黒岩さん……」
商品部を抜けようとしてそこに来ていた黒岩に出くわした皇は身体をこわばらせる。その手首を掴む塩田。
「ちょっと話したいことがあるんだが」
と黒岩。
「ダメだ」
すかさず返事をしたのは塩田。
「あんたが関わるたび、皇が酷い目に合うのわからないのか?」
「塩田……っ」
ここは商品部。
周りの目もあると彼を止めようとするが、黒岩は気まずそうに黙る。
「黒岩」
そこへ苦情係の課長である唯野が顔を出す。
「ちょうど良かった。話がある」
と唯野。
皇には先日の電車との会話が頭を過った。
『それと、総括のことは課長がなんとかするから大丈夫』
『え?』
『できないなんて言わせないし』
ここで黒岩に話しかけられたということは”なんとか”する前なのだろう。
これから何が起きるのだろうか。
黒岩がチラリとこちらを見るのが分かったが、皇は塩田の陰に隠れてやり過ごす。
「行こう」
何かを察した塩田に腕を引かれて苦情係に足を踏み入れる。
「あんなの無視しろよ」
「そういうわけにもいかないだろ。パワハラになっちゃうし」
塩田の言葉にそう返答をすると、
「じゃあ、セクハラはいいのかよ」
と彼。
”お前、アホだろ”と彼に言われ、皇は苦笑いを浮かべた。
塩田は正しいと思う。ルールに縛られてばかりじゃ身は守れない。自分がこんなだから周りに迷惑をかけるのだと反省したばかりでこれなのだ。
「結局、社会ってのはまともな奴ほど損するようにできている」
「野放しにするからだろ」
皇の言葉に塩田の痛い一言。皇は、彼には敵わないなと思うのだった。
それから少し話をしたのち、
「じゃ、じゃあ先に行くから」
と席を立った皇。
「え? おい、ちょ……」
戸惑う塩田を置いて足早に屋上を後にした。
とてもじゃないが心臓が持たない。
塩田とキスをするのは初めてではない。
初めてではないのだが。
屋上の扉を後ろ手で閉め、しゃがみ込むと口元を抑える。
『もう、うだうだ考えるのやめて俺のモノになればいいじゃん』
塩田はそう言ってあきれ顔でこちらを見ていたのだ。
『えっと……』
『まだ何か?』
『デートとかに……誘っても?』
皇の問いに不思議そうな顔をする彼。
『それは二人だけで出かけたいってこと?』
『そ、そう』
『俺は構わないが、紀夫が良いと言えばいいんじゃね?』
──どうしよう。嬉しい。
皇がしゃがみ込み静かに悶絶していると、背後のドアが開き誰かが皇に躓いた。
「おい、マジで何してんのお前」
塩田である。
「待てって言っても待たない上に、ここで俺をはめようとしてるのか?」
「いや、ちょっと考え事を」
「意味わからん。邪魔だし、行くぞ」
彼に腕を掴まれ引っ張り起こされた皇はそのままエレベーターまで連れていかれる。
「しゃがむなとは言わんが、場所は考えろよ。ケガしてからじゃ遅いんだぞ」
エレベーターの扉が開くと腕を放され、中に促された。
「わかってる」
「ほんとかよ」
塩田は腕組みをし、皇を呆れ顔で眺めている。
そんな彼を見ながら心配されて嬉しいと思ってしまうのだから自分はどうかしているのだろう。
恋は人を狂わせるものだ。
「昼、楽しみだな」
場を和ませようとしてそう切り出せば、塩田は小さく笑みを浮かべた。
「そんなに好きなのか? パスタ」
「牛ひき肉の入った……ボロネーゼって言うんだっけ。店で食べて以来あれが好きだ」
和食派でさっぱりしたものや寿司を好む塩田にしては珍しいなと思う。
しかしボロネーゼが美味しいというのは分かる。
「肉より魚派なのに珍しいな」
「別に肉が嫌いなわじゃない。調理法だな」
と彼。
エレベーターはあっという間に目的の階へ着く。
連れ立って箱の外へ出ると商品部へ向かう。
「今日のところはレビューも良いし、楽しみなんだ」
そんなに喜んでくれるならまた誘おうと思った。
苦情係は商品部の奥に設置されている為、どうしても商品部を避けて通ることはできない。
「あ、皇」
この時ばかりは、どうしてこんな不便な立地なのだと思った。
「黒岩さん……」
商品部を抜けようとしてそこに来ていた黒岩に出くわした皇は身体をこわばらせる。その手首を掴む塩田。
「ちょっと話したいことがあるんだが」
と黒岩。
「ダメだ」
すかさず返事をしたのは塩田。
「あんたが関わるたび、皇が酷い目に合うのわからないのか?」
「塩田……っ」
ここは商品部。
周りの目もあると彼を止めようとするが、黒岩は気まずそうに黙る。
「黒岩」
そこへ苦情係の課長である唯野が顔を出す。
「ちょうど良かった。話がある」
と唯野。
皇には先日の電車との会話が頭を過った。
『それと、総括のことは課長がなんとかするから大丈夫』
『え?』
『できないなんて言わせないし』
ここで黒岩に話しかけられたということは”なんとか”する前なのだろう。
これから何が起きるのだろうか。
黒岩がチラリとこちらを見るのが分かったが、皇は塩田の陰に隠れてやり過ごす。
「行こう」
何かを察した塩田に腕を引かれて苦情係に足を踏み入れる。
「あんなの無視しろよ」
「そういうわけにもいかないだろ。パワハラになっちゃうし」
塩田の言葉にそう返答をすると、
「じゃあ、セクハラはいいのかよ」
と彼。
”お前、アホだろ”と彼に言われ、皇は苦笑いを浮かべた。
塩田は正しいと思う。ルールに縛られてばかりじゃ身は守れない。自分がこんなだから周りに迷惑をかけるのだと反省したばかりでこれなのだ。
「結局、社会ってのはまともな奴ほど損するようにできている」
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