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────7話*彼の導く選択
16・本音と屋上
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****♡Side・塩田
「どうしたんだよ。塩田、何か悩んでるのか?」
休憩時間。いつも通り塩田は板井と屋上にいた。
フェンスに寄りかかりこちらを見下ろす彼。塩田はベンチに座りカフェオレのストローに口をつけていた。
どんな基準で板井がそう思ったのかはわからないが相変わらず鋭いなと思いながら彼をチラリと見上げる。
「悩んでいるのとは少し違うかな」
と塩田。
「そもそもなんで俺が悩んでいると思ったんだよ」
「それは……あ、副社長」
「ん?」
板井の視線の先に目を向けると皇がこちらに向かって歩いてくるところだった。
「何か用なんかな」
「どうだろ」
昼の話なら朝メッセージを送ったはずだし、苦情係で話しても問題はないと思う。となると板井に何か用なのだろうか。
そんなことを思っていると、
「休憩中に悪い。少し、塩田と二人で話したいんだが」
と彼。
今更改まってなんだと言うのだろうか。
「んー」
「じゃあ、席外しますね」
板井は空気を読むと二人から離れていく。塩田は軽く片手をあげそれを見送った。
「どうかした?」
板井が屋上の入り口にたどり着くのを待って塩田は皇に視線を移す。
「えっと、隣いいかな」
隣に座っていいかと問う彼に、塩田は軽く頷く。
許可なんて取らなくてもと思いながら。
「悪い、わざわざ邪魔してまで今すぐ話さなきゃならないのか? って言われたら微妙というか」
「何、どうしたんだよ」
飲み終えたカフェオレのカップを傍らに置くと、両手をベンチに付き彼の顔を覗き込んで。
「いや、その……電車から返事を聞いてさ」
「昼飯の? 俺、パスタがいい」
「いや、それじゃなくて」
昼には生パスタの食べられる店に連れて行ってくれると言っていた。
「もちろん、昼はそれでいい。うん」
「そっか、楽しみ」
小さく微笑む塩田をじっと見つめる彼。
「ん?」
「なあ、塩田。ほんとにいいのか?」
「再確認しなきゃならないこと?」
予約が大変だから変更はきかないとかそういうことで確認をしているのだろうと思った塩田は眉を寄せる。楽しみにしているのは嘘じゃない。
「いや……だから、昼のことではなく。その……」
何をそんなに言いにくそうにしているのか塩田にはわからなかった。
一つ伸びをすると、
「何の話か言ってくれないと答えられない」
と彼を促す。
「お前、結構意地悪だな。察しが悪すぎるというか」
泣きそうな顔をしている彼に”何のことだ?”と問うと、曲げた人差し指の第二関節でスッとその頬を撫でる。
皇は切なげな表情を浮かべると、
「三人でいる提案、電車からされたんだろ?」
と口にした。
「ん」
「承諾したって聞いたが」
「承諾……、まあそうなるのかな」
どうして彼は”賛成”という言葉を選ばないのか、塩田は不思議に思う。
「なんでそんな顔するんだよ、嫌だったのか?」
「嫌なわけないだろ」
不安そうにこちらを見つめる瞳。全然嬉しそうには見えなかった。
──紀夫は確か、『そっか。それを聞いたら副社長も喜ぶね』と言っていたはずだが?
一体どういう説明の仕方をしたんだよ。
「やっぱり止めたとか、言わない?」
いつもの彼らしからぬ弱気な態度。
「俺が今まで自分の言葉を撤回したことがあったか?」
「知る限りでは、ない」
「どうして信用しないんだよ」
「怖いから」
彼の言葉に塩田はため息をつくと片腕を伸ばし、皇の腕を掴む。
「えっと……塩田?」
「俺は、自分の言動には責任を持つ。社会人として、人間としてそうするべきだと思うから」
言ってその腕をぐいっと引き寄せると彼の唇に口づける。
皇はかつて自分を襲った相手。
あれはただの意地だったと思う。その後まさか自分に彼が恋をするとは思わなかった。
もし自分が恋を知らなかったなら、こんな結末にはならなかったと思う。
恋は人を突き動かす。エネルギーを生み出すものだと思うが、同時に相手に嫌われるかも知れないとネガティブな思想にも囚われるものだ。
「弱気な皇は可愛いと思うよ」
彼から離れると塩田は肩を竦めて。
自分にとってもこれは想定外なのだ。
「どうしたんだよ。塩田、何か悩んでるのか?」
休憩時間。いつも通り塩田は板井と屋上にいた。
フェンスに寄りかかりこちらを見下ろす彼。塩田はベンチに座りカフェオレのストローに口をつけていた。
どんな基準で板井がそう思ったのかはわからないが相変わらず鋭いなと思いながら彼をチラリと見上げる。
「悩んでいるのとは少し違うかな」
と塩田。
「そもそもなんで俺が悩んでいると思ったんだよ」
「それは……あ、副社長」
「ん?」
板井の視線の先に目を向けると皇がこちらに向かって歩いてくるところだった。
「何か用なんかな」
「どうだろ」
昼の話なら朝メッセージを送ったはずだし、苦情係で話しても問題はないと思う。となると板井に何か用なのだろうか。
そんなことを思っていると、
「休憩中に悪い。少し、塩田と二人で話したいんだが」
と彼。
今更改まってなんだと言うのだろうか。
「んー」
「じゃあ、席外しますね」
板井は空気を読むと二人から離れていく。塩田は軽く片手をあげそれを見送った。
「どうかした?」
板井が屋上の入り口にたどり着くのを待って塩田は皇に視線を移す。
「えっと、隣いいかな」
隣に座っていいかと問う彼に、塩田は軽く頷く。
許可なんて取らなくてもと思いながら。
「悪い、わざわざ邪魔してまで今すぐ話さなきゃならないのか? って言われたら微妙というか」
「何、どうしたんだよ」
飲み終えたカフェオレのカップを傍らに置くと、両手をベンチに付き彼の顔を覗き込んで。
「いや、その……電車から返事を聞いてさ」
「昼飯の? 俺、パスタがいい」
「いや、それじゃなくて」
昼には生パスタの食べられる店に連れて行ってくれると言っていた。
「もちろん、昼はそれでいい。うん」
「そっか、楽しみ」
小さく微笑む塩田をじっと見つめる彼。
「ん?」
「なあ、塩田。ほんとにいいのか?」
「再確認しなきゃならないこと?」
予約が大変だから変更はきかないとかそういうことで確認をしているのだろうと思った塩田は眉を寄せる。楽しみにしているのは嘘じゃない。
「いや……だから、昼のことではなく。その……」
何をそんなに言いにくそうにしているのか塩田にはわからなかった。
一つ伸びをすると、
「何の話か言ってくれないと答えられない」
と彼を促す。
「お前、結構意地悪だな。察しが悪すぎるというか」
泣きそうな顔をしている彼に”何のことだ?”と問うと、曲げた人差し指の第二関節でスッとその頬を撫でる。
皇は切なげな表情を浮かべると、
「三人でいる提案、電車からされたんだろ?」
と口にした。
「ん」
「承諾したって聞いたが」
「承諾……、まあそうなるのかな」
どうして彼は”賛成”という言葉を選ばないのか、塩田は不思議に思う。
「なんでそんな顔するんだよ、嫌だったのか?」
「嫌なわけないだろ」
不安そうにこちらを見つめる瞳。全然嬉しそうには見えなかった。
──紀夫は確か、『そっか。それを聞いたら副社長も喜ぶね』と言っていたはずだが?
一体どういう説明の仕方をしたんだよ。
「やっぱり止めたとか、言わない?」
いつもの彼らしからぬ弱気な態度。
「俺が今まで自分の言葉を撤回したことがあったか?」
「知る限りでは、ない」
「どうして信用しないんだよ」
「怖いから」
彼の言葉に塩田はため息をつくと片腕を伸ばし、皇の腕を掴む。
「えっと……塩田?」
「俺は、自分の言動には責任を持つ。社会人として、人間としてそうするべきだと思うから」
言ってその腕をぐいっと引き寄せると彼の唇に口づける。
皇はかつて自分を襲った相手。
あれはただの意地だったと思う。その後まさか自分に彼が恋をするとは思わなかった。
もし自分が恋を知らなかったなら、こんな結末にはならなかったと思う。
恋は人を突き動かす。エネルギーを生み出すものだと思うが、同時に相手に嫌われるかも知れないとネガティブな思想にも囚われるものだ。
「弱気な皇は可愛いと思うよ」
彼から離れると塩田は肩を竦めて。
自分にとってもこれは想定外なのだ。
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