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────7話*彼の導く選択
10・絶望の先にある分岐点
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****♡Side・電車(同僚・恋人)
「電車、どこ行ってたんだ?」
「ん、ちょっとね」
電車が、マンションへ戻りキッチンカウンターで一人ビールグラスを傾けていると皇に声をかけられた。
「副社長も呑む?」
「そうだな、頂こうかな」
電車は彼のためにビールグラスを一つ戸棚から出すとそちらに押しやり、ビールを注ぐ。
「そういや電車は昨夜もいなかったが」
昨日は皇が会合で遅かった日。
「俺、多忙なの」
「詮索するなと言うなら控えるが、そんなあからさまな誤魔化し方あるか?」
「察しが良いのは良いことだけれど、話したら意味なくない?」
互いに指摘をし、気まずくなって一旦黙る。
「塩田は?」
こんな時は話を変えるに限ると思った電車は、明りのついていないリビングにチラリと目をやって皇に尋ねた。
「板井と電話。なんでもイベントの攻略がどうのって」
「へえ。板井は自宅?」
さっき唯野と会ったのは彼のマンションの近くの深夜まで開いている喫茶店。徒歩数分と言っていたから家に着いていてもおかしくはない。
「板井は外で長話をするようなアホではないと認識しているが?」
と皇。
皇にとって外で電話にて長話をするというのは”アホ”に分類されるらしい。
「板井がアホかどうかについては俺にはわからないけど……そっか自宅か」
”それなら安心だね”と電車が続けると、
「何がだ?」
と彼はナッツの皿に指を伸ばしながら。
「ほら、夜は何かと物騒だし。板井のような長身でがっちりした体系の男でも襲われないとは限らないじゃない?」
「それは否定はしないが、たくさんいる人の中であえてそんな奴を襲うとするやつは……なんというか向こう見ずだな」
苦笑いをする皇に、
「それってつまり、アホってこと?」
と尋ねれば”まあ、そういうことになるな”と返答された。
彼は”お前、ホント面白いな”と肩で笑っている。
電車は片腕で頬杖をつくとニコニコしながら彼を観察していた。
自分とは一個、二個くらいしか違わない彼は黙っていれば確かにモテそうだ。ピンクのVネックのシャツに、灰色っぽく見えるちりめんしじらのハーフパンツという恰好をしている。金の髪が暖色系の間接照明の下でキラキラしていた。美形ではあるが童顔なため、普段着でいるといつもにもまして若く見える。
──社長が皇副社長を好む理由は容姿ありきではないらしいけど……どう考えても変態だよな。
呉崎社長と皇との歳の差を考え、電車はそんなことを思った。
愛に歳の差なんてとは言うものの。
「ねえ、副社長」
「ん?」
「もうさ、社長の言いなりになるのやめたら?」
「え?」
いつもとは違う真面目なトーンの電車。
皇は驚いた顔で電車を見つめた。
「ずっと俺たちと居ればいいじゃん」
「えっと……は?」
電車の言葉に彼は混乱しているようだ。
「まあ、これは俺の憶測で100%合っているとは思うけど。副社長は、いずれはこの生活が終わると思っているからその時のために社長の言いなりになっているんじゃないの?」
「それは……」
彼は言い淀む。
「俺だって、例えば副社長が心から望んで社長とそうなっていると言うなら止めないし、祝福するよ? 社長は離婚して今独身なわけだし」
”でも、そうじゃないよね”と続ければ彼は曖昧に頷く。
「俺たちと居られなくなるからそういう選択をしなければならないなら、俺たちと居ればいいんじゃないの?」
「そんなの無理だろ。いつまでもこのままでいられるわけがない」
皇は苦しそうにそう言った。
「なんで決めつけるの」
と電車。
「いや、常識的に考えたらそうだろ?」
顔を上げた彼は電車の表情の意味に気づいて黙る。
「なんでそうやって塩田も副社長も常識に当てはめて、勝手に絶望しているのか俺にはわからないよ」
電車の言葉に目を泳がせる皇。
「いつ決めたの? なんで勝手に決めるの」
”自分たちの在り方は自分たちで決めるものでしょ?”と電車は皇に問うたのだった。
「電車、どこ行ってたんだ?」
「ん、ちょっとね」
電車が、マンションへ戻りキッチンカウンターで一人ビールグラスを傾けていると皇に声をかけられた。
「副社長も呑む?」
「そうだな、頂こうかな」
電車は彼のためにビールグラスを一つ戸棚から出すとそちらに押しやり、ビールを注ぐ。
「そういや電車は昨夜もいなかったが」
昨日は皇が会合で遅かった日。
「俺、多忙なの」
「詮索するなと言うなら控えるが、そんなあからさまな誤魔化し方あるか?」
「察しが良いのは良いことだけれど、話したら意味なくない?」
互いに指摘をし、気まずくなって一旦黙る。
「塩田は?」
こんな時は話を変えるに限ると思った電車は、明りのついていないリビングにチラリと目をやって皇に尋ねた。
「板井と電話。なんでもイベントの攻略がどうのって」
「へえ。板井は自宅?」
さっき唯野と会ったのは彼のマンションの近くの深夜まで開いている喫茶店。徒歩数分と言っていたから家に着いていてもおかしくはない。
「板井は外で長話をするようなアホではないと認識しているが?」
と皇。
皇にとって外で電話にて長話をするというのは”アホ”に分類されるらしい。
「板井がアホかどうかについては俺にはわからないけど……そっか自宅か」
”それなら安心だね”と電車が続けると、
「何がだ?」
と彼はナッツの皿に指を伸ばしながら。
「ほら、夜は何かと物騒だし。板井のような長身でがっちりした体系の男でも襲われないとは限らないじゃない?」
「それは否定はしないが、たくさんいる人の中であえてそんな奴を襲うとするやつは……なんというか向こう見ずだな」
苦笑いをする皇に、
「それってつまり、アホってこと?」
と尋ねれば”まあ、そういうことになるな”と返答された。
彼は”お前、ホント面白いな”と肩で笑っている。
電車は片腕で頬杖をつくとニコニコしながら彼を観察していた。
自分とは一個、二個くらいしか違わない彼は黙っていれば確かにモテそうだ。ピンクのVネックのシャツに、灰色っぽく見えるちりめんしじらのハーフパンツという恰好をしている。金の髪が暖色系の間接照明の下でキラキラしていた。美形ではあるが童顔なため、普段着でいるといつもにもまして若く見える。
──社長が皇副社長を好む理由は容姿ありきではないらしいけど……どう考えても変態だよな。
呉崎社長と皇との歳の差を考え、電車はそんなことを思った。
愛に歳の差なんてとは言うものの。
「ねえ、副社長」
「ん?」
「もうさ、社長の言いなりになるのやめたら?」
「え?」
いつもとは違う真面目なトーンの電車。
皇は驚いた顔で電車を見つめた。
「ずっと俺たちと居ればいいじゃん」
「えっと……は?」
電車の言葉に彼は混乱しているようだ。
「まあ、これは俺の憶測で100%合っているとは思うけど。副社長は、いずれはこの生活が終わると思っているからその時のために社長の言いなりになっているんじゃないの?」
「それは……」
彼は言い淀む。
「俺だって、例えば副社長が心から望んで社長とそうなっていると言うなら止めないし、祝福するよ? 社長は離婚して今独身なわけだし」
”でも、そうじゃないよね”と続ければ彼は曖昧に頷く。
「俺たちと居られなくなるからそういう選択をしなければならないなら、俺たちと居ればいいんじゃないの?」
「そんなの無理だろ。いつまでもこのままでいられるわけがない」
皇は苦しそうにそう言った。
「なんで決めつけるの」
と電車。
「いや、常識的に考えたらそうだろ?」
顔を上げた彼は電車の表情の意味に気づいて黙る。
「なんでそうやって塩田も副社長も常識に当てはめて、勝手に絶望しているのか俺にはわからないよ」
電車の言葉に目を泳がせる皇。
「いつ決めたの? なんで勝手に決めるの」
”自分たちの在り方は自分たちで決めるものでしょ?”と電車は皇に問うたのだった。
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