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────7話*彼の導く選択
8・部下の知られざる一面
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****♡Side・課長(唯野)
『課長、僕は”塩田の全て”を肯定してあげたい。そう思っているんですよ。真っすぐで優しくて我が道をひた歩く彼を。だから課長の出した指令がどんなにおかしなことだと分かっていても、塩田がしたいと言うなら僕は賛成した』
もっとも……と彼は続ける。
『副社長がネコだったから塩田がやると言ったし、僕も賛成できたという一面はある』
唯野は部下である”電車紀夫”の紡ぐ言葉をただ黙って聞いていた。彼は誰なんだと思いながら。
確かに彼は今まで一緒に働いてきた仲間であり部下だ。
よく知った彼が目の前にいるにも関わらず、彼が向き合っているのは”仲間”であった自分ではない。
『でもね、塩田の努力が何も報われていないと言うなら話は別です。僕は世界を敵に回したとしても、彼を守りたいし肯定し続ける。それがどんなに間違ったことでも』
彼がどれだけ塩田を大切にしているのかわかる。
『あの時、逃げる選択だってあったし、その覚悟も僕にはあった』
始終穏やかに微笑む彼の手がくしゃりととナプキンを握り潰し、そちらが本当の感情なのだと気づく唯野。
『あなたは”自分を選ばなかった”からこんな目に合うんだと塩田に分からせたいんですか?』
”彼は全てを理解している”その上で、あえてそう聞くのだと思った。
唯野がそんなことを微塵も思っていないことを分かった上で。
『ホントに最低ですよね。塩田のこと好きだったくせに、酷いことしかしない』
唯野は何も言えずに俯いた。
彼は唯野に的確にダメージを与える方法を知っている。それはこの先、失敗は許さないという警告にも感じた。
道を踏み外したのは自分。彼もまた、塩田に対して酷いことをした自覚がある。だからこそ彼を心から大切にしているのだ。
そんなことは見ていればわかる。
怖くて誰よりも優しいやつなんだと思った。
愛する人のためなら鬼にもなれるのだから。
『それでも塩田はあなたのこと、嫌ったりしない』
”笑っちゃいますよね”と彼。
だがこれは前置きに過ぎない。彼の本当の怒りは今回の失態にあるのだ。
黒岩を放置したことに。
『総括のこと誰よりもわかっているのは課長ですよね』
『ああ』
そこで唯野は初めて短く言葉を発した。
『そして副社長が何を恐れているのかも』
『おそらく』
今回の会合先でしつこく黒岩に追い回された皇は、追い詰められて逃げ込んだ先で社長に遭遇した。一番避けたかった事態が起きたのだ。
彼は社長に捉えられ、従う他なかった。
だが皇の懸念はそこにあるわけじゃない。それを唯野に知られたくなかったのである。
『あなたが総括を止めていれば、最悪の事態は防げた。でも、副社長が社長に従ってしまうのは、終わりを知っているからなんですよ』
塩田や電車と一緒にいられるのは一時であり、永遠ではない。
いつかは終わるのであれば、塩田への気持ちを諦めなければならない。そう思っているから、”そう”なった時のために慣れようとしている。いずれは社長のモノになる覚悟をしているのだ。
『あなたの策では副社長は救えないどころか、余計に追い詰められてしまう』
”それは選択肢がないから”と彼は続ける。
『僕にはそれを変えることが出来る。その覚悟もあります』
──どうして俺は電車に嫌われることを恐れるのだろう?
大事な部下の一人だから嫌われたくないのか。
それとも。
その答えは彼がくれた。
『それはあなたが、愛されるのが当たり前の環境で育ったからですよ。人は無意識に自分の役割を演じてしまうモノらしいです。演じるという言い方は語弊があるかも知れない』
人はパートナーや友人などの間でも兄弟間の役割という位置に収まるらしい。例えば長子は”長子”として育てられるため、面倒見が良いという一面を持つ。それは性質なので、友人間や会社などでも自然と面倒見が良くなってしまう。
その為、世話焼きで頼りがいがあるという印象を受けることになるだろう。
逆に末っ子は甘え上手。甘え上手で愛されて育ったため、社会に出てもうまく世を渡って行けるだろう。
『課長、僕は”塩田の全て”を肯定してあげたい。そう思っているんですよ。真っすぐで優しくて我が道をひた歩く彼を。だから課長の出した指令がどんなにおかしなことだと分かっていても、塩田がしたいと言うなら僕は賛成した』
もっとも……と彼は続ける。
『副社長がネコだったから塩田がやると言ったし、僕も賛成できたという一面はある』
唯野は部下である”電車紀夫”の紡ぐ言葉をただ黙って聞いていた。彼は誰なんだと思いながら。
確かに彼は今まで一緒に働いてきた仲間であり部下だ。
よく知った彼が目の前にいるにも関わらず、彼が向き合っているのは”仲間”であった自分ではない。
『でもね、塩田の努力が何も報われていないと言うなら話は別です。僕は世界を敵に回したとしても、彼を守りたいし肯定し続ける。それがどんなに間違ったことでも』
彼がどれだけ塩田を大切にしているのかわかる。
『あの時、逃げる選択だってあったし、その覚悟も僕にはあった』
始終穏やかに微笑む彼の手がくしゃりととナプキンを握り潰し、そちらが本当の感情なのだと気づく唯野。
『あなたは”自分を選ばなかった”からこんな目に合うんだと塩田に分からせたいんですか?』
”彼は全てを理解している”その上で、あえてそう聞くのだと思った。
唯野がそんなことを微塵も思っていないことを分かった上で。
『ホントに最低ですよね。塩田のこと好きだったくせに、酷いことしかしない』
唯野は何も言えずに俯いた。
彼は唯野に的確にダメージを与える方法を知っている。それはこの先、失敗は許さないという警告にも感じた。
道を踏み外したのは自分。彼もまた、塩田に対して酷いことをした自覚がある。だからこそ彼を心から大切にしているのだ。
そんなことは見ていればわかる。
怖くて誰よりも優しいやつなんだと思った。
愛する人のためなら鬼にもなれるのだから。
『それでも塩田はあなたのこと、嫌ったりしない』
”笑っちゃいますよね”と彼。
だがこれは前置きに過ぎない。彼の本当の怒りは今回の失態にあるのだ。
黒岩を放置したことに。
『総括のこと誰よりもわかっているのは課長ですよね』
『ああ』
そこで唯野は初めて短く言葉を発した。
『そして副社長が何を恐れているのかも』
『おそらく』
今回の会合先でしつこく黒岩に追い回された皇は、追い詰められて逃げ込んだ先で社長に遭遇した。一番避けたかった事態が起きたのだ。
彼は社長に捉えられ、従う他なかった。
だが皇の懸念はそこにあるわけじゃない。それを唯野に知られたくなかったのである。
『あなたが総括を止めていれば、最悪の事態は防げた。でも、副社長が社長に従ってしまうのは、終わりを知っているからなんですよ』
塩田や電車と一緒にいられるのは一時であり、永遠ではない。
いつかは終わるのであれば、塩田への気持ちを諦めなければならない。そう思っているから、”そう”なった時のために慣れようとしている。いずれは社長のモノになる覚悟をしているのだ。
『あなたの策では副社長は救えないどころか、余計に追い詰められてしまう』
”それは選択肢がないから”と彼は続ける。
『僕にはそれを変えることが出来る。その覚悟もあります』
──どうして俺は電車に嫌われることを恐れるのだろう?
大事な部下の一人だから嫌われたくないのか。
それとも。
その答えは彼がくれた。
『それはあなたが、愛されるのが当たり前の環境で育ったからですよ。人は無意識に自分の役割を演じてしまうモノらしいです。演じるという言い方は語弊があるかも知れない』
人はパートナーや友人などの間でも兄弟間の役割という位置に収まるらしい。例えば長子は”長子”として育てられるため、面倒見が良いという一面を持つ。それは性質なので、友人間や会社などでも自然と面倒見が良くなってしまう。
その為、世話焼きで頼りがいがあるという印象を受けることになるだろう。
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