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────7話*彼の導く選択
7・鍵を握る者
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****♡Side・課長(唯野)
「修二さん、どうしたんです?」
唯野がスマホの画面を見つめたまま立ち尽くしていると、マグカップを二つ手に持ちリビングに入ってきた板井が不思議そうに声をかけてきた。
「あ、いや……」
”なんでもないよ”とひきつった笑みを浮かべ、板井の方を振り返った唯野。
「ちょっと、仕事の話で」
どうみても動揺している唯野に板井はそれ以上何も言わなかった。
こんな時、察しが良く余計なことを言わない彼の気遣いは嬉しい。
「ちょっと外す」
一つ深呼吸をして、リビングを出た唯野。
『課長は俺のことが憎いですか?』
いつもタメ口の電車からの丁寧な質問が唯野は何故かとても恐ろしかった。天然で素直で我が苦情係のムードメーカーである”電車紀夫”は現在、塩田の恋人。
文字の向こう側で彼がどんな表情をし、何を考えているのかわからなかった。せめてこれが電話だったなら、と思う。
『何故、憎む必要があるんだ。電車は俺の可愛い部下だよ』
背中に嫌な汗が伝う。嘘はないはずだ。
無口だが真っ直ぐな塩田。同じくお喋りな方ではないが、唯野を一心に慕ってくれている板井。
正直、二人は裏表が一切なく分かりやすいと思う。
特に塩田は誰に対しても常に同じ。忖度などしない。だから彼の言う言葉は本心なのだとすぐにわかる。
──電車は俺の周りにいる人間の中で唯一、本音のわからない人物。
塩田が懐いているのだから悪い奴ではないことは明らかだが、彼のためなら何をしでかしてもおかしくはないという一面を持つ。
そのことに気づいてからは、ある意味一番敵に回したくない相手だと思っていた。そんな電車から意図のわからない質問をされたのだ。恐ろしく感じても無理はないだろう。
『課長はその可愛い部下の恋人を苦しめるようなことを平気でするんですよね』
彼は恐らく屈託のない笑みを浮かべているのだろうと感じ、想像したら背筋が凍った。
『何か怒っているのか?』
『いいえ。怒ってはいません。起こってはいますが』
『起こって?』
何かが起きたということは理解したが、それが何なのかこの時点では想像ができなかったのである。とは言え、彼が自分に何かをさせようとしているということは察しが付く。
その後事情を聴き、唯野は固まったのだ。
リビングを出た唯野は慌てて続きを返信する。
”通話できないか?”と。
しかし、彼からの返事はNO。互いに家で話すにはどうにも良くない状況のようだ。
「参ったな」
ため息を一つつくと、外で話をしようと返信する。
電車の方はそれでいいというが、こちらは板井になんと話したものか。
仕事の話とは言え、相手を暈せば変に疑われてしまうだろう。
「板井、ちょっと外に出てくる」
「今からですか?」
「ちょっと仕事のことで電車に会って来る。すぐ戻るから」
「そうですか」
”電車”と聞いて案の定、板井は不思議そうな顔をした。
同じ部署の相手と仕事の話をするのに電話ではなく、二人だけで逢うというのだからそれは無理もないだろう。
「あいつ、何かミスでもしたんですか?」
「いや。ミスったのはむしろ俺のほうだ」
「え?」
「ん?」
無意識に答えてしまったらしく、板井に聞き返され唯野は苦笑いをする。
電車は自分の車で来るといっていた。隣の駅だ、すぐだろう。
上着を羽織ると板井に心配するなと告げ、マンションを出た。
今日の会合に黒岩が出席することは知っていたし、それを電車たちに話したのは自分。何故、何も起こらないと思っていたのだろう。
神流川がいたから?
それとも、黒岩がそんなところで行動に出ないと思っていたから?
何を言っても言い訳にしかならないだろう。
『俺は塩田の意思を尊重したい。だから課長の策に関して合意しました。でも、塩田のしていることが逆効果にしかならないなら、あなたの策は失敗でしかない』
電車はそう言った。
『それを回避するために、俺は俺にできることをします。その代わり、あなたにもして欲しいことがある』
それが彼が唯野にメッセージを送ってきた理由だったのである。
「修二さん、どうしたんです?」
唯野がスマホの画面を見つめたまま立ち尽くしていると、マグカップを二つ手に持ちリビングに入ってきた板井が不思議そうに声をかけてきた。
「あ、いや……」
”なんでもないよ”とひきつった笑みを浮かべ、板井の方を振り返った唯野。
「ちょっと、仕事の話で」
どうみても動揺している唯野に板井はそれ以上何も言わなかった。
こんな時、察しが良く余計なことを言わない彼の気遣いは嬉しい。
「ちょっと外す」
一つ深呼吸をして、リビングを出た唯野。
『課長は俺のことが憎いですか?』
いつもタメ口の電車からの丁寧な質問が唯野は何故かとても恐ろしかった。天然で素直で我が苦情係のムードメーカーである”電車紀夫”は現在、塩田の恋人。
文字の向こう側で彼がどんな表情をし、何を考えているのかわからなかった。せめてこれが電話だったなら、と思う。
『何故、憎む必要があるんだ。電車は俺の可愛い部下だよ』
背中に嫌な汗が伝う。嘘はないはずだ。
無口だが真っ直ぐな塩田。同じくお喋りな方ではないが、唯野を一心に慕ってくれている板井。
正直、二人は裏表が一切なく分かりやすいと思う。
特に塩田は誰に対しても常に同じ。忖度などしない。だから彼の言う言葉は本心なのだとすぐにわかる。
──電車は俺の周りにいる人間の中で唯一、本音のわからない人物。
塩田が懐いているのだから悪い奴ではないことは明らかだが、彼のためなら何をしでかしてもおかしくはないという一面を持つ。
そのことに気づいてからは、ある意味一番敵に回したくない相手だと思っていた。そんな電車から意図のわからない質問をされたのだ。恐ろしく感じても無理はないだろう。
『課長はその可愛い部下の恋人を苦しめるようなことを平気でするんですよね』
彼は恐らく屈託のない笑みを浮かべているのだろうと感じ、想像したら背筋が凍った。
『何か怒っているのか?』
『いいえ。怒ってはいません。起こってはいますが』
『起こって?』
何かが起きたということは理解したが、それが何なのかこの時点では想像ができなかったのである。とは言え、彼が自分に何かをさせようとしているということは察しが付く。
その後事情を聴き、唯野は固まったのだ。
リビングを出た唯野は慌てて続きを返信する。
”通話できないか?”と。
しかし、彼からの返事はNO。互いに家で話すにはどうにも良くない状況のようだ。
「参ったな」
ため息を一つつくと、外で話をしようと返信する。
電車の方はそれでいいというが、こちらは板井になんと話したものか。
仕事の話とは言え、相手を暈せば変に疑われてしまうだろう。
「板井、ちょっと外に出てくる」
「今からですか?」
「ちょっと仕事のことで電車に会って来る。すぐ戻るから」
「そうですか」
”電車”と聞いて案の定、板井は不思議そうな顔をした。
同じ部署の相手と仕事の話をするのに電話ではなく、二人だけで逢うというのだからそれは無理もないだろう。
「あいつ、何かミスでもしたんですか?」
「いや。ミスったのはむしろ俺のほうだ」
「え?」
「ん?」
無意識に答えてしまったらしく、板井に聞き返され唯野は苦笑いをする。
電車は自分の車で来るといっていた。隣の駅だ、すぐだろう。
上着を羽織ると板井に心配するなと告げ、マンションを出た。
今日の会合に黒岩が出席することは知っていたし、それを電車たちに話したのは自分。何故、何も起こらないと思っていたのだろう。
神流川がいたから?
それとも、黒岩がそんなところで行動に出ないと思っていたから?
何を言っても言い訳にしかならないだろう。
『俺は塩田の意思を尊重したい。だから課長の策に関して合意しました。でも、塩田のしていることが逆効果にしかならないなら、あなたの策は失敗でしかない』
電車はそう言った。
『それを回避するために、俺は俺にできることをします。その代わり、あなたにもして欲しいことがある』
それが彼が唯野にメッセージを送ってきた理由だったのである。
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