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────7話*彼の導く選択
6・いつか終わる夢
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****♡Side・電車(同僚・恋人)
『こんなことをしていても、誰も救われない。皇が見ているのは地獄だ』
切なげに眉を寄せ潤んだ瞳でこちらを見つめる塩田は、恐らく絶望の淵にいるのだろう。
それでも電車には彼を肯定してあげることしかできなかった。
”そんなことは、分かり切っていたでしょう?”
そう言って責めることもできる。
しかし責めたところで何も変わらない現実がここにあるだけ。
塩田が絶望したのは、純粋に皇を救ってあげたいと願ったからだろう。
それなのに。皇に触れているうちに、自分の存在こそが彼を追い詰めていることに気づいてしまった。
皇は終わらない夢の中にいたいのだ。
塩田の腕の中に。
だが、それが叶わないことを知っている。
だからいずれは社長のモノになる覚悟をしているのだ。
──それでは何のために塩田が課長の命令に従ったのかわからなくなる。
『このままじゃ、誰も幸せにはなれない』
『そうだね。課長の言うことを聞いているだけじゃなにも解決しないのかも』
塩田が常識に囚われている限りは誰も幸せになれない。
課長の命に関しての内容を聞いた時、反対することもできた。電車になら。
課長からの指令は二つ。
なるべく皇が社長から誘いを受けなくていい状況を作ること。
彼を社長から解放するために、塩田に彼を抱けと。
簡単に内容を整理するとこういうことだ。
一個目に関しては電車にも容易いと思えた。自分たちにできる範囲は決まっている。彼が自由である時間、自分たちの傍に居させればいいだけ。
それは自分たちの暮らすマンションに匿うという形で実現したはずだった。
社長と行動を共にしなければならない場合、それは社長秘書神流川の管轄となる。神流川がこっち側だと知った時、課長唯野はそれを計算に入れていたはず。計算外のことが起きてしまったのは総括黒岩が皇に惚れてしまったことにある。
──今回のことも、総括が余計なことをしなければ防げたはず。
塩田のせいでも副社長のせいでもない。
総括を止められる人物がいるとしたら、それは課長か社長だろう。
しかし今回のことを皇は唯野には知られたくないと思っているはずだ。
だったら違う角度から彼を救う必要がある。これ以上、何かを諦めさせてはいけない。
同僚の板井は凄いなと思った。
自分たちの上司である唯野には抱えているものが多い。詳しくは知らないが、彼の過去は壮絶だということを板井からチラリと聞いた。
それを含めて彼を愛する、守りたいというのだから。
自分にもできるだろうか? 塩田が望む全てを叶えてあげることが。
──塩田が課長の指令に従うと言った時から覚悟くらいはあるけれどね。
自分たちには常識を覆す何かが必要なのだ。
それが何かをすでに自分は知っている。そしてそれは自分次第であることも。
『俺が皇とつき合えば、あいつを救えることくらいは想像できる。でも、俺は紀夫と別れたくない』
『うん』
愛しい恋人を苦しめているものはきっと常識的な選択なのだろう。
『紀夫は何があっても、俺の傍に居てくれる?』
『当たり前でしょう?』
ぎゅっと彼を抱きしめ、安心させるように優しい声音で。
塩田はきっと一人で今まで戦ってきたのだ。
なんでも話してくれて良かったのにと思っても今更遅い。
言いたくないことがたくさんあって、電車には気づかれたくないこと、知られたくないことがたくさんあったのだ。それは彼が電車と離れたくなかったから。
だが、もうそんなこと言っていられなくなったのだろう。
これからは二人で進んでいけると良いと思う。
手を取り合って。
電車はスマホの画面を見つめる。きっと勘の良い唯野には理由がわかってしまうのかも知れない。しかし彼を動かすのには言葉がいる。
彼だって黒岩を放っておくことが良いことだとは思っていないだろう。
それでも確かな言葉で後押しを必要としている。
それは慎重だからこそ。
「塩田。俺も戦うから」
電車は呟くように言葉を零すと唯野と交渉を始めたのだった。
『こんなことをしていても、誰も救われない。皇が見ているのは地獄だ』
切なげに眉を寄せ潤んだ瞳でこちらを見つめる塩田は、恐らく絶望の淵にいるのだろう。
それでも電車には彼を肯定してあげることしかできなかった。
”そんなことは、分かり切っていたでしょう?”
そう言って責めることもできる。
しかし責めたところで何も変わらない現実がここにあるだけ。
塩田が絶望したのは、純粋に皇を救ってあげたいと願ったからだろう。
それなのに。皇に触れているうちに、自分の存在こそが彼を追い詰めていることに気づいてしまった。
皇は終わらない夢の中にいたいのだ。
塩田の腕の中に。
だが、それが叶わないことを知っている。
だからいずれは社長のモノになる覚悟をしているのだ。
──それでは何のために塩田が課長の命令に従ったのかわからなくなる。
『このままじゃ、誰も幸せにはなれない』
『そうだね。課長の言うことを聞いているだけじゃなにも解決しないのかも』
塩田が常識に囚われている限りは誰も幸せになれない。
課長の命に関しての内容を聞いた時、反対することもできた。電車になら。
課長からの指令は二つ。
なるべく皇が社長から誘いを受けなくていい状況を作ること。
彼を社長から解放するために、塩田に彼を抱けと。
簡単に内容を整理するとこういうことだ。
一個目に関しては電車にも容易いと思えた。自分たちにできる範囲は決まっている。彼が自由である時間、自分たちの傍に居させればいいだけ。
それは自分たちの暮らすマンションに匿うという形で実現したはずだった。
社長と行動を共にしなければならない場合、それは社長秘書神流川の管轄となる。神流川がこっち側だと知った時、課長唯野はそれを計算に入れていたはず。計算外のことが起きてしまったのは総括黒岩が皇に惚れてしまったことにある。
──今回のことも、総括が余計なことをしなければ防げたはず。
塩田のせいでも副社長のせいでもない。
総括を止められる人物がいるとしたら、それは課長か社長だろう。
しかし今回のことを皇は唯野には知られたくないと思っているはずだ。
だったら違う角度から彼を救う必要がある。これ以上、何かを諦めさせてはいけない。
同僚の板井は凄いなと思った。
自分たちの上司である唯野には抱えているものが多い。詳しくは知らないが、彼の過去は壮絶だということを板井からチラリと聞いた。
それを含めて彼を愛する、守りたいというのだから。
自分にもできるだろうか? 塩田が望む全てを叶えてあげることが。
──塩田が課長の指令に従うと言った時から覚悟くらいはあるけれどね。
自分たちには常識を覆す何かが必要なのだ。
それが何かをすでに自分は知っている。そしてそれは自分次第であることも。
『俺が皇とつき合えば、あいつを救えることくらいは想像できる。でも、俺は紀夫と別れたくない』
『うん』
愛しい恋人を苦しめているものはきっと常識的な選択なのだろう。
『紀夫は何があっても、俺の傍に居てくれる?』
『当たり前でしょう?』
ぎゅっと彼を抱きしめ、安心させるように優しい声音で。
塩田はきっと一人で今まで戦ってきたのだ。
なんでも話してくれて良かったのにと思っても今更遅い。
言いたくないことがたくさんあって、電車には気づかれたくないこと、知られたくないことがたくさんあったのだ。それは彼が電車と離れたくなかったから。
だが、もうそんなこと言っていられなくなったのだろう。
これからは二人で進んでいけると良いと思う。
手を取り合って。
電車はスマホの画面を見つめる。きっと勘の良い唯野には理由がわかってしまうのかも知れない。しかし彼を動かすのには言葉がいる。
彼だって黒岩を放っておくことが良いことだとは思っていないだろう。
それでも確かな言葉で後押しを必要としている。
それは慎重だからこそ。
「塩田。俺も戦うから」
電車は呟くように言葉を零すと唯野と交渉を始めたのだった。
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