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────7話*彼の導く選択
1・心の成長と複雑な心境
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****♡Side・電車(同僚・恋人)
副社長こと皇の様子が変だと言い出したのは塩田だった。
電車は自家用車で目的地に向かいながら、先ほどのことを思い出す。
『なんか変じゃないか?』
塩田はスマホの画面を見つめ、ポツリと呟く。
『何が?』
その横で電車はカフェオレを飲みながらスマホアプリのゲーム画面を眺めていた。反射的に返事をしたが、彼は先ほどまで一緒にゲームをしていたはずだった。
基本は個人。チームやパーティを組んでイベントをクリアするスタイルのゲームである。自分たちは固定のパーティとして板井と三人で組んでいた。
てっきりそのゲームのことかと思っていたのだが、
『今頃、皇から遅くなるって連絡がきた』
と彼。
電車はスマホの画面から顔を上げるとチラリと時計を見上げた。
皇が他社との会合のために我が社を出たのは午後一だった。定時までには帰れないとは聞いていたが、いつもなら予定が決まった時点で一報がある。
現在の時刻は二十時過ぎ。定時は十七時だ。
昼から今まで連絡が出来なかったということは、何らかのトラブルがあったと考えてもおかしくはないだろう。
『確かに変だね』
『だろ?』
塩田は眉を寄せ、電車の方を見る。
以前は全く他人に対して興味を持たなかった彼がちょっとした違和感を気にするようになったことに複雑な心境になった。それは彼にとって良い変化なのだとは思う。
しかし他の人に心を奪われてしまうのではないかという不安を感じたのだ。
──塩田はブレない。
だからきっと大丈夫。
『塩田はどうしたい?』
他人を気にかけてあげることは悪いことではない。ましてや一緒に暮らしている相手ならなおさら。彼の心の成長を見守るべきだと思う。
『どうしたいって言われても……』
彼はどんな行動をとって良いのかわからないのだろう。
『例えば問いただしたいのか? 話を聞いてあげたいのか。いろいろあるでしょう?』
『ああ、まあ。そうだな』
心配なら声をかけてあげればいい。
今まで他人に全く興味を示さなかったのだ。人として、どんな行動を取るのが自然なのかもわからないのだろうと感じた。
『いつ頃帰宅するって?』
『もうこの近くまで来ているらしい』
『そっか』
いつもきちんと報告してくれる人が理由も述べないのだ。話せる相手も限られているだろう。皇にとって塩田は特別な存在。
頼れる相手という意味ならば唯野が適役だろうが、彼には言えないこともあるだろうと思った。
『じゃあ、ちょっと出てくるからさ。話、聞いてあげてよ』
『え? 俺が?』
『そう、塩田が。塩田になら話せることもあるでしょ?』
”そうなのか?”
と不思議そうな顔をする彼。
しかし電車はニコッと笑うとソファから立ち上がる。
『何か欲しいものある?』
『茄子漬』
こんな時でも彼らしいなと思いながら電車はスマホと車のキーをポケットに入れるとエコバックを手にした。
『一時間くらいで帰るから』
『分かった』
塩田はとても素直だと思う。
とは言え、従順ということではなく嫌なことは嫌だというタイプ。
だから安心していていいのかなという気持ちもある。自分はいいなりの人形が欲しいわけではない。だからこれでいい。
電車は隣の駅近くのスーパーの駐車場で車を停めるとエコバックを手にし、車外へ出た。スマホの時計で確認すると家を出てから十分ほどが経っている。
そろそろ皇は帰宅しただろうか。
そんなことを思いながら店の中へ入ろうとして声をかけられた。
「こんなところまで買い物か?」
「課長……と板井」
同じ部署の上司、唯野と板井である。
そう言えば二人はこの駅の近辺にマンションを借りて同棲していたということを思い出す。話に聞いていただけでは実感はわかなかったが、こうして実際に近くで私服の二人と出くわすととたんに現実味が出てくる。
「うん、ちょっとね」
”ここでしか売ってないお惣菜があって”と笑顔で答えると一緒に買い物しようという話になったのだった、
副社長こと皇の様子が変だと言い出したのは塩田だった。
電車は自家用車で目的地に向かいながら、先ほどのことを思い出す。
『なんか変じゃないか?』
塩田はスマホの画面を見つめ、ポツリと呟く。
『何が?』
その横で電車はカフェオレを飲みながらスマホアプリのゲーム画面を眺めていた。反射的に返事をしたが、彼は先ほどまで一緒にゲームをしていたはずだった。
基本は個人。チームやパーティを組んでイベントをクリアするスタイルのゲームである。自分たちは固定のパーティとして板井と三人で組んでいた。
てっきりそのゲームのことかと思っていたのだが、
『今頃、皇から遅くなるって連絡がきた』
と彼。
電車はスマホの画面から顔を上げるとチラリと時計を見上げた。
皇が他社との会合のために我が社を出たのは午後一だった。定時までには帰れないとは聞いていたが、いつもなら予定が決まった時点で一報がある。
現在の時刻は二十時過ぎ。定時は十七時だ。
昼から今まで連絡が出来なかったということは、何らかのトラブルがあったと考えてもおかしくはないだろう。
『確かに変だね』
『だろ?』
塩田は眉を寄せ、電車の方を見る。
以前は全く他人に対して興味を持たなかった彼がちょっとした違和感を気にするようになったことに複雑な心境になった。それは彼にとって良い変化なのだとは思う。
しかし他の人に心を奪われてしまうのではないかという不安を感じたのだ。
──塩田はブレない。
だからきっと大丈夫。
『塩田はどうしたい?』
他人を気にかけてあげることは悪いことではない。ましてや一緒に暮らしている相手ならなおさら。彼の心の成長を見守るべきだと思う。
『どうしたいって言われても……』
彼はどんな行動をとって良いのかわからないのだろう。
『例えば問いただしたいのか? 話を聞いてあげたいのか。いろいろあるでしょう?』
『ああ、まあ。そうだな』
心配なら声をかけてあげればいい。
今まで他人に全く興味を示さなかったのだ。人として、どんな行動を取るのが自然なのかもわからないのだろうと感じた。
『いつ頃帰宅するって?』
『もうこの近くまで来ているらしい』
『そっか』
いつもきちんと報告してくれる人が理由も述べないのだ。話せる相手も限られているだろう。皇にとって塩田は特別な存在。
頼れる相手という意味ならば唯野が適役だろうが、彼には言えないこともあるだろうと思った。
『じゃあ、ちょっと出てくるからさ。話、聞いてあげてよ』
『え? 俺が?』
『そう、塩田が。塩田になら話せることもあるでしょ?』
”そうなのか?”
と不思議そうな顔をする彼。
しかし電車はニコッと笑うとソファから立ち上がる。
『何か欲しいものある?』
『茄子漬』
こんな時でも彼らしいなと思いながら電車はスマホと車のキーをポケットに入れるとエコバックを手にした。
『一時間くらいで帰るから』
『分かった』
塩田はとても素直だと思う。
とは言え、従順ということではなく嫌なことは嫌だというタイプ。
だから安心していていいのかなという気持ちもある。自分はいいなりの人形が欲しいわけではない。だからこれでいい。
電車は隣の駅近くのスーパーの駐車場で車を停めるとエコバックを手にし、車外へ出た。スマホの時計で確認すると家を出てから十分ほどが経っている。
そろそろ皇は帰宅しただろうか。
そんなことを思いながら店の中へ入ろうとして声をかけられた。
「こんなところまで買い物か?」
「課長……と板井」
同じ部署の上司、唯野と板井である。
そう言えば二人はこの駅の近辺にマンションを借りて同棲していたということを思い出す。話に聞いていただけでは実感はわかなかったが、こうして実際に近くで私服の二人と出くわすととたんに現実味が出てくる。
「うん、ちょっとね」
”ここでしか売ってないお惣菜があって”と笑顔で答えると一緒に買い物しようという話になったのだった、
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