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────6話*狂いだした歯車と動き出す運命
21・後悔と執着
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****♡Side・社長(呉崎)
彼の言葉を反芻する。
『そんなことを言うなら、あなたが俺に恋を教えてくれたらよかったでしょう? なんでずっと放っておいて、こんな。今更』
それはつまり自分にもチャンスがあったということなのだろう。
呉崎はソファーに深く身を沈めぼんやりと窓の外を眺めていた。
足を組み、ひじ掛けに頬杖をついて。
皇の言うことはもっともだと思う。いくらだって時間はあったはずなのに、何も行動しなかった自分。彼に想う相手が出来て急に慌てだしたところで遅すぎるのだ。
──皇くんを変えたのは塩田君だ。
彼は周りの人間を変えていった。
僕にはできなかったことを、彼はいとも簡単に成し遂げる。
特に何をするわけでもなく、周りは彼によって変わっていった。良い連鎖を産んでいると思う。しかし良い連鎖が、イコール自分にとって良いこととは限らない。
『俺はあの日の行為に意味があるなんて思わなかった。聞くべきだったんですか?』
自分はただの新入社員で危ないところを助けてもらった立場。
助けてくれた相手は社長。普段接することのない相手が自分に特別な感情を抱いているなんて思いもしなかったと彼は言う。
それは不思議なことではないはずだ。
『俺はこれからもあなたから逃げ続けます。塩田が好きだから』
彼の涙で濡れた睫毛が震える。
『けれどもこうやって捉えられてしまったなら、俺はあなたに従う』
そんな覚悟を持って自分と接しているのかと思うと切なかった。
──僕が欲しいのはその心。
そうは思いながらも、触れられるのならそのチャンスを逃すはずはない。
この腕の中で何度も熱を放つ彼を満足気に見下ろしていた。その心がいつか自分のものになれば良いと願いながら。
かつて自分はこんなにも何かに執着したことはなかった。
彼だから欲しいのだ。
毎晩この胸に抱いて眠ることが出来たなら、どんなにか幸せだろう。
呉崎が物思いに耽っていると、遠慮がちに部屋のドアがノックされた。失礼しますという声ののち、人の気配が近づいてくる。
「部屋の鍵を開けっぱなしにしておくなんて、不用心ですよ」
「そろそろ君が来る頃だろうと思ってね」
呉崎の言葉に相手は一つため息をついた。
「そういうことにしておきましょう」
「皇くんは帰ったのかい?」
「ええ。お帰りになられましたよ」
呉崎はそうかと言って、傍らのコーヒーカップに手を伸ばす。
「黒岩君は」
「大丈夫です。皇さんが帰るよりだいぶ前にお帰りになりましたから」
「それならいいが」
黒岩をああいう風にしてしまったのは自分だ。多少は責任を感じてはいるものの、結果として誤算が生じてしまっただけ。
「黒岩君は唯野君に気があるのだとばかり思っていたのだがねえ」
「社長がどのような結果を期待したのかわかりませんが、失敗なのではありませんか?」
彼、秘書の神流川はスケジュール帳を捲りながら。
デジタル化が進み、スケジュールの管理もPCやスマホで行うことも可能だが、やはりこういったものは手書きに勝るものはない。紛失や盗難に遭わない限り流失する恐れもないからだ。
「失敗か……どうだろうね」
あんなことがあって皇は黒岩から逃げ回っている。
今日などは逃げた先にたまたま呉崎がいた。彼が黒岩から逃げ回っている限り、またチャンスは訪れるだろう。そこに便乗している以上、一概に失敗とは言えないのではないだろうか。
「何かありましたか?」
「いや」
だがそれも神流川の目を逃れてこそだ。気づかれるわけにはいかない。
「君ももう休むと良い」
神流川にも帰宅を促したが自分も泊ると言い張ったのは、呉崎が彼の目を逃れて皇を良いようにすると思ったからだろう。
もっとも、現在皇は塩田のマンションに寝泊まりしているという。そこに乗り込むのは得策ではない。
「抜け出したりしませんよね?」
「明日も早いから僕も休むよ」
呉崎はゆっくりと立ち上がるとベッドへ向かう。彼の視線を感じながら。
彼の言葉を反芻する。
『そんなことを言うなら、あなたが俺に恋を教えてくれたらよかったでしょう? なんでずっと放っておいて、こんな。今更』
それはつまり自分にもチャンスがあったということなのだろう。
呉崎はソファーに深く身を沈めぼんやりと窓の外を眺めていた。
足を組み、ひじ掛けに頬杖をついて。
皇の言うことはもっともだと思う。いくらだって時間はあったはずなのに、何も行動しなかった自分。彼に想う相手が出来て急に慌てだしたところで遅すぎるのだ。
──皇くんを変えたのは塩田君だ。
彼は周りの人間を変えていった。
僕にはできなかったことを、彼はいとも簡単に成し遂げる。
特に何をするわけでもなく、周りは彼によって変わっていった。良い連鎖を産んでいると思う。しかし良い連鎖が、イコール自分にとって良いこととは限らない。
『俺はあの日の行為に意味があるなんて思わなかった。聞くべきだったんですか?』
自分はただの新入社員で危ないところを助けてもらった立場。
助けてくれた相手は社長。普段接することのない相手が自分に特別な感情を抱いているなんて思いもしなかったと彼は言う。
それは不思議なことではないはずだ。
『俺はこれからもあなたから逃げ続けます。塩田が好きだから』
彼の涙で濡れた睫毛が震える。
『けれどもこうやって捉えられてしまったなら、俺はあなたに従う』
そんな覚悟を持って自分と接しているのかと思うと切なかった。
──僕が欲しいのはその心。
そうは思いながらも、触れられるのならそのチャンスを逃すはずはない。
この腕の中で何度も熱を放つ彼を満足気に見下ろしていた。その心がいつか自分のものになれば良いと願いながら。
かつて自分はこんなにも何かに執着したことはなかった。
彼だから欲しいのだ。
毎晩この胸に抱いて眠ることが出来たなら、どんなにか幸せだろう。
呉崎が物思いに耽っていると、遠慮がちに部屋のドアがノックされた。失礼しますという声ののち、人の気配が近づいてくる。
「部屋の鍵を開けっぱなしにしておくなんて、不用心ですよ」
「そろそろ君が来る頃だろうと思ってね」
呉崎の言葉に相手は一つため息をついた。
「そういうことにしておきましょう」
「皇くんは帰ったのかい?」
「ええ。お帰りになられましたよ」
呉崎はそうかと言って、傍らのコーヒーカップに手を伸ばす。
「黒岩君は」
「大丈夫です。皇さんが帰るよりだいぶ前にお帰りになりましたから」
「それならいいが」
黒岩をああいう風にしてしまったのは自分だ。多少は責任を感じてはいるものの、結果として誤算が生じてしまっただけ。
「黒岩君は唯野君に気があるのだとばかり思っていたのだがねえ」
「社長がどのような結果を期待したのかわかりませんが、失敗なのではありませんか?」
彼、秘書の神流川はスケジュール帳を捲りながら。
デジタル化が進み、スケジュールの管理もPCやスマホで行うことも可能だが、やはりこういったものは手書きに勝るものはない。紛失や盗難に遭わない限り流失する恐れもないからだ。
「失敗か……どうだろうね」
あんなことがあって皇は黒岩から逃げ回っている。
今日などは逃げた先にたまたま呉崎がいた。彼が黒岩から逃げ回っている限り、またチャンスは訪れるだろう。そこに便乗している以上、一概に失敗とは言えないのではないだろうか。
「何かありましたか?」
「いや」
だがそれも神流川の目を逃れてこそだ。気づかれるわけにはいかない。
「君ももう休むと良い」
神流川にも帰宅を促したが自分も泊ると言い張ったのは、呉崎が彼の目を逃れて皇を良いようにすると思ったからだろう。
もっとも、現在皇は塩田のマンションに寝泊まりしているという。そこに乗り込むのは得策ではない。
「抜け出したりしませんよね?」
「明日も早いから僕も休むよ」
呉崎はゆっくりと立ち上がるとベッドへ向かう。彼の視線を感じながら。
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