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────6話*狂いだした歯車と動き出す運命
16・彼の想い
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****♡Side・課長(唯野)
何処から間違っていたのか。
何が間違っているのか。
唯野は自分自身に問いながら板井の欲情を受け止めていた。
自分は赦されるのだろうか。
そんなことを思いながら。
『自分だけが蚊帳の外だったことが悔しい』
板井はそう言った。恐らくそれが彼の激情の本質。
──過去をやり直したとしてもきっと俺は言わないだろう。
板井に話すことはできない。
何度繰り返しても、知られたくないと思ったはずだ。
表向きは穏やかな苦情係で板井だけが知らなかった事実。その裏では飛んでもないことが行われていたのだ。
──皇を守るために部下にあんな任務をさせるなんて自分でもクレイジーだとは思う。でも他にどうしていいかわからなかった。
少なくとも、かつては自分も想いを寄せた相手に出す任務ではない。
板井は常識人。不倫も浮気もパワハラもセクハラも許せないに違いない。だから自分を慕い尊敬してくれている部下に知られたくなかったのだ。
それはつまり、偽りの自分が信頼されていたのと変わらない。
『何を知って変わらない』
と彼は言った。
それは”何を知っても変わらないから言って欲しかった”と同等と理解するまでに時間はかからなかったと思う。
いろんなことを知って思うことはたくさんあるだろうに、何も言わない彼。代わりに欲情としてぶつけてくる。
責めればいいのにと唯野は思っていた。
彼にとって言われないことは信頼されていないとイコールなのだろう。
何といえば彼は救われるのだろう? そればかり考えている。
「板井」
何度かの波を迎えた後、板井は唯野を開放した。
身体がだるく動くのも辛いが言わねばならないことがある。
「はい」
彼は両手を唯野の顔の横に付いてこちらを見下ろしていた。
唯野はその頬に両手を伸ばす。
「俺は何度過去を繰り返しても、お前には話さなかったと思う。暴かれるまで」
その言葉に彼が眉を寄せる。険しい表情に怯みそうになるが、これが真実だ。
「俺はそれほどまでにお前を失うのが怖いんだ」
震える声でそう告げると板井は驚いた顔をした。
理解してくれとは言わない。
確かに自分は塩田に恋心を抱いていた。叶わないことを知り、せめてその身体に自分を刻みたいと願いもした。塩田が言う通り自分はとても身勝手だと思う。
けれども、そんなことをして塩田に嫌われないとは思っていない。
嫌われて当然だと思っている。
しかし彼は”嫌うことさえしない”くらいに唯野に対して無関心だったのだ。彼の心には電車しかいない。
そして彼にとっては同僚で友人、親友だと思っている板井の方が大切なのだ。
──恐らく自分は心のどこかでそのことを理解していた。
皇がどんなにちょっかいを出そうとも見向きもしないのだ。それなのになんの行動も起こさない自分に振り向くことなんてあり得ないと。
だが板井は違う。
誰よりも唯野を優先していたのは彼だ。
確かに社の中では慕ってくれる者も多い。
しかしそれはあくまでも会社の人間として。
そんなことも分からないほど馬鹿じゃないつもりだ。
人は自分に都合の良い人を好きになるようにできている。だから愛想の良い人には好感を持つ。自分を慕ってくれる人には良くしようとする。そういう生き物。それが分かっているから上辺の自分しか見ていない相手は信用しない。
そんな好意に嫌悪を抱く。
それでも相手が自分だけを特別に思ってくれていたなら?
「俺はズルいんだよ」
目に涙を溜めて彼にそう告げる。
板井はそんな唯野をじっと見つめていたが不意に笑って、
「いいですよ、ズルくったって」
と言う。
「そこまでして俺が離れていくのが嫌だった。そう言いたいんでしょう?」
「そうだよ」
全て作っていたわけではない。
けれども汚い部分を見せなかったのは事実。
全てを見せて受け入れて欲しいなどという傲りはなかった。
板井を人として評価していたからこそ、傲慢になりたくなかったというのが本心だ。
何処から間違っていたのか。
何が間違っているのか。
唯野は自分自身に問いながら板井の欲情を受け止めていた。
自分は赦されるのだろうか。
そんなことを思いながら。
『自分だけが蚊帳の外だったことが悔しい』
板井はそう言った。恐らくそれが彼の激情の本質。
──過去をやり直したとしてもきっと俺は言わないだろう。
板井に話すことはできない。
何度繰り返しても、知られたくないと思ったはずだ。
表向きは穏やかな苦情係で板井だけが知らなかった事実。その裏では飛んでもないことが行われていたのだ。
──皇を守るために部下にあんな任務をさせるなんて自分でもクレイジーだとは思う。でも他にどうしていいかわからなかった。
少なくとも、かつては自分も想いを寄せた相手に出す任務ではない。
板井は常識人。不倫も浮気もパワハラもセクハラも許せないに違いない。だから自分を慕い尊敬してくれている部下に知られたくなかったのだ。
それはつまり、偽りの自分が信頼されていたのと変わらない。
『何を知って変わらない』
と彼は言った。
それは”何を知っても変わらないから言って欲しかった”と同等と理解するまでに時間はかからなかったと思う。
いろんなことを知って思うことはたくさんあるだろうに、何も言わない彼。代わりに欲情としてぶつけてくる。
責めればいいのにと唯野は思っていた。
彼にとって言われないことは信頼されていないとイコールなのだろう。
何といえば彼は救われるのだろう? そればかり考えている。
「板井」
何度かの波を迎えた後、板井は唯野を開放した。
身体がだるく動くのも辛いが言わねばならないことがある。
「はい」
彼は両手を唯野の顔の横に付いてこちらを見下ろしていた。
唯野はその頬に両手を伸ばす。
「俺は何度過去を繰り返しても、お前には話さなかったと思う。暴かれるまで」
その言葉に彼が眉を寄せる。険しい表情に怯みそうになるが、これが真実だ。
「俺はそれほどまでにお前を失うのが怖いんだ」
震える声でそう告げると板井は驚いた顔をした。
理解してくれとは言わない。
確かに自分は塩田に恋心を抱いていた。叶わないことを知り、せめてその身体に自分を刻みたいと願いもした。塩田が言う通り自分はとても身勝手だと思う。
けれども、そんなことをして塩田に嫌われないとは思っていない。
嫌われて当然だと思っている。
しかし彼は”嫌うことさえしない”くらいに唯野に対して無関心だったのだ。彼の心には電車しかいない。
そして彼にとっては同僚で友人、親友だと思っている板井の方が大切なのだ。
──恐らく自分は心のどこかでそのことを理解していた。
皇がどんなにちょっかいを出そうとも見向きもしないのだ。それなのになんの行動も起こさない自分に振り向くことなんてあり得ないと。
だが板井は違う。
誰よりも唯野を優先していたのは彼だ。
確かに社の中では慕ってくれる者も多い。
しかしそれはあくまでも会社の人間として。
そんなことも分からないほど馬鹿じゃないつもりだ。
人は自分に都合の良い人を好きになるようにできている。だから愛想の良い人には好感を持つ。自分を慕ってくれる人には良くしようとする。そういう生き物。それが分かっているから上辺の自分しか見ていない相手は信用しない。
そんな好意に嫌悪を抱く。
それでも相手が自分だけを特別に思ってくれていたなら?
「俺はズルいんだよ」
目に涙を溜めて彼にそう告げる。
板井はそんな唯野をじっと見つめていたが不意に笑って、
「いいですよ、ズルくったって」
と言う。
「そこまでして俺が離れていくのが嫌だった。そう言いたいんでしょう?」
「そうだよ」
全て作っていたわけではない。
けれども汚い部分を見せなかったのは事実。
全てを見せて受け入れて欲しいなどという傲りはなかった。
板井を人として評価していたからこそ、傲慢になりたくなかったというのが本心だ。
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