157 / 218
────6話*狂いだした歯車と動き出す運命
15・激情の行方【微R】
しおりを挟む
****♡Side・板井(同僚)
正直、唯野から聞いた業務命令の内容は想像を絶するものであった。
非人道的といっても差し支えないとも言える。
それを”あの”塩田が引き受けたのは意外だった。
──塩田の世界の中心にいるのは電車だ。
仮に電車からやれと言われたところで塩田がやるとは思えないし、そもそも電車が承諾するとは思えない。
つまり塩田の意思が働いているということ。
自分がされたことをカミングアウトする以上に彼らへ業務命令の内容を明かすことの方がダメージが大きかったのか、先ほどから唯野は黙って項垂れている。
板井はそんな彼を眺めながら”唯野の忠犬”などと呼ばれている自分自身を滑稽に思った。
以前から唯野のことを信頼し慕っていた板井。
きっと何を知ってもそれは変わらなかったと思う。
変わるくらいの気持ちならば『人の良い面』しか見ていないということにもなるし、それでは自分に都合の良い上司像を慕っているだけと言っているようなものだから。
でも、その想いは彼には伝わっていなかったのだ。
仮に唯野が恋慕から板井に嫌われるのが怖くて口にできなかったのだったとしても。
──信頼されていなかったことが地味にキツイ。
きっとそんなつもりはないのだろうけれど。
誰だって好きな相手には嫌われたくないはずだ。
幻滅されるのも軽蔑されるのも辛いに違いない。
理論では理解できるがやはり納得していない自分がいる。
──いや、修二さんが悪いわけじゃない。
自分だって好きとは言わなかったじゃないか。
想いを告げていれば違った可能性だってあるのに。
それでも済んでしまったことに拘っている自分がいた。
この激情を一体どこにぶつけたら自分は救われるのだろう?
そんなことを思いながら唯野の傍らに膝をつく。
「修二さん」
思い切って、先に進むために声をかける。
「あ……」
顔を上げた彼は何か言おうとし、口を噤む。板井はその顎を掴み口づけた。
きっと何を言っても救われることはないのだろう。
どんなに言葉尽くしてもこの想いを昇華させることはできない。
理解はされても。
何故なら。
自分が求めているのは過去の改変であり、理解ではないから。
変えることができない過去に拘って、苦悩して、自分の感情に振り回されているに過ぎない。大人げないと思いながら、やめることが出来ない。
「ん……あッ……」
彼のシャツの中に手を差し入れ、わき腹を撫でれば上気した頬に潤んだ瞳。
「こ、ここでする?」
今から自分が板井に何をされるのか察した彼が頬を染め、問う。
彼に自分自身を穿てばこんな気持ちから解放されるのだろうか?
間違っていると思ったが、唯野は板井の激情の全てを受け止める気でいるように感じた。
「いえ。ベッドにいきましょう」
小さな優しさを絞り出して理性を保つ。
だがそんなものすぐに消えてしまうことも分かっていた。
薄っぺらな理性はすぐに手の中でクシャっと握りつぶされる。
それほどに今の板井には余裕がなかったのだ。
「んッ……はあッ」
何をしようとも彼は抵抗しなかった。
背面騎乗位で形を持った彼自身に指を絡める板井。
自分の中にある劣等感や焦燥、後悔をこんな形で発散しようとするのは間違っている。正しくないことを嫌と言うほど理解しているのに、それを彼にぶつける外なかった。
言葉にしなければ伝わらないとわかっていながら、周りの評価に甘んじた自分。
責められるべきは自分の方だろう。
だからこれは甘えでしかない。
それなのに……
「板井」
名前を呼ばれハッとして彼に視線を移すと”愛しい”とでもいうようにこちらを見つめていた。
「そんな、泣きだしそうな顔しないでくれよ」
ゆっくりと瞬きをし、頬に触れる。
愛だけで満足できたならどんなに良かっただろうか。
その感情の全てを自分に向けて欲しいなんて、どこまで自分は強欲なのだろう。
正直、唯野から聞いた業務命令の内容は想像を絶するものであった。
非人道的といっても差し支えないとも言える。
それを”あの”塩田が引き受けたのは意外だった。
──塩田の世界の中心にいるのは電車だ。
仮に電車からやれと言われたところで塩田がやるとは思えないし、そもそも電車が承諾するとは思えない。
つまり塩田の意思が働いているということ。
自分がされたことをカミングアウトする以上に彼らへ業務命令の内容を明かすことの方がダメージが大きかったのか、先ほどから唯野は黙って項垂れている。
板井はそんな彼を眺めながら”唯野の忠犬”などと呼ばれている自分自身を滑稽に思った。
以前から唯野のことを信頼し慕っていた板井。
きっと何を知ってもそれは変わらなかったと思う。
変わるくらいの気持ちならば『人の良い面』しか見ていないということにもなるし、それでは自分に都合の良い上司像を慕っているだけと言っているようなものだから。
でも、その想いは彼には伝わっていなかったのだ。
仮に唯野が恋慕から板井に嫌われるのが怖くて口にできなかったのだったとしても。
──信頼されていなかったことが地味にキツイ。
きっとそんなつもりはないのだろうけれど。
誰だって好きな相手には嫌われたくないはずだ。
幻滅されるのも軽蔑されるのも辛いに違いない。
理論では理解できるがやはり納得していない自分がいる。
──いや、修二さんが悪いわけじゃない。
自分だって好きとは言わなかったじゃないか。
想いを告げていれば違った可能性だってあるのに。
それでも済んでしまったことに拘っている自分がいた。
この激情を一体どこにぶつけたら自分は救われるのだろう?
そんなことを思いながら唯野の傍らに膝をつく。
「修二さん」
思い切って、先に進むために声をかける。
「あ……」
顔を上げた彼は何か言おうとし、口を噤む。板井はその顎を掴み口づけた。
きっと何を言っても救われることはないのだろう。
どんなに言葉尽くしてもこの想いを昇華させることはできない。
理解はされても。
何故なら。
自分が求めているのは過去の改変であり、理解ではないから。
変えることができない過去に拘って、苦悩して、自分の感情に振り回されているに過ぎない。大人げないと思いながら、やめることが出来ない。
「ん……あッ……」
彼のシャツの中に手を差し入れ、わき腹を撫でれば上気した頬に潤んだ瞳。
「こ、ここでする?」
今から自分が板井に何をされるのか察した彼が頬を染め、問う。
彼に自分自身を穿てばこんな気持ちから解放されるのだろうか?
間違っていると思ったが、唯野は板井の激情の全てを受け止める気でいるように感じた。
「いえ。ベッドにいきましょう」
小さな優しさを絞り出して理性を保つ。
だがそんなものすぐに消えてしまうことも分かっていた。
薄っぺらな理性はすぐに手の中でクシャっと握りつぶされる。
それほどに今の板井には余裕がなかったのだ。
「んッ……はあッ」
何をしようとも彼は抵抗しなかった。
背面騎乗位で形を持った彼自身に指を絡める板井。
自分の中にある劣等感や焦燥、後悔をこんな形で発散しようとするのは間違っている。正しくないことを嫌と言うほど理解しているのに、それを彼にぶつける外なかった。
言葉にしなければ伝わらないとわかっていながら、周りの評価に甘んじた自分。
責められるべきは自分の方だろう。
だからこれは甘えでしかない。
それなのに……
「板井」
名前を呼ばれハッとして彼に視線を移すと”愛しい”とでもいうようにこちらを見つめていた。
「そんな、泣きだしそうな顔しないでくれよ」
ゆっくりと瞬きをし、頬に触れる。
愛だけで満足できたならどんなに良かっただろうか。
その感情の全てを自分に向けて欲しいなんて、どこまで自分は強欲なのだろう。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

敏感リーマンは大型ワンコをうちの子にしたい
おもちDX
BL
社畜のサラリーマン柊(ひいらぎ)はある日、ヘッドマッサージの勧誘にあう。怪しいマッサージかと疑いながらもついて行くと、待っていたのは――極上の癒し体験だった。柊は担当であるイケメンセラピスト夕里(ゆり)の技術に惚れ込むが、彼はもう店を辞めるという。柊はなんとか夕里を引き止めたいが、通ううちに自分の痴態を知ってしまった。ただのマッサージなのに敏感体質で喘ぐ柊に、夕里の様子がおかしくなってきて……?
敏感すぎるリーマンが、大型犬属性のセラピストを癒し、癒され、懐かれ、蕩かされるお話。
心に傷を抱えたセラピスト(27)×疲れてボロボロのサラリーマン(30)
現代物。年下攻め。ノンケ受け。
※表紙のイラスト(攻め)はPicrewの「人間(男)メーカー(仮)」で作成しました。


【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
年上の恋人は優しい上司
木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。
仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。
基本は受け視点(一人称)です。
一日一花BL企画 参加作品も含まれています。
表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!!
完結済みにいたしました。
6月13日、同人誌を発売しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる