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────6話*狂いだした歯車と動き出す運命
14・その覚悟と自覚
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****♡Side・課長(唯野)
「社長には可愛がって貰っていたと思う。そんな関係が変わったのは皇が入社してから」
皇優一、現在の副社長だ。彼は入社二年目にして副社長に就任した。
就任当時は枕をして気に入られたなどという噂も飛び交ったが、実際彼が副社長として会社が稼働し始めると経営は右肩上がりとなる。そうして実力で周りを黙らせたのだ。
彼の働きを間近で見ていたのは企画部。
その為か企画部には彼を慕う皇信者が多くいる。
「彼は入社して営業部、俺や黒岩がいた営業一課に配属になった」
皇は今も童顔なのは変わらないが、とても華のある人物だった。
日本だけなのか、それとも人間はそういうものなのかわからないが、自分より目立つ後輩をいびるやつは必ずいる。それはきっと嫉妬によるものなのだろう。法律が厳しくなり、表立った苛めはなかったがそんな風に安心していたことが逆に良くなかったのかもしれない。
「皇は良く思っていなかった先輩たちに休憩室に連れていかれた」
それが皇が入社一年目に起きた”リンチ未遂事件”だった。
「そんなことがあったんですか」
板井は非常に驚いた顔をした。
「それ以来、我が社にはいたるところに監視カメラが設置された。まあ、首謀者は社長なんだがな」
「社長が?」
社長の目的は”お気に入りの皇から絶対的な信頼を得ること”。しかし計画は狂ってしまった。彼自身、想定外のことが起きたのである。
「信頼を得たいから自作自演したと。でも、そこまでしますか?」
「皇に反感を持っている奴らを本社から一掃したいというのもあったと思う」
これは憶測でしかないが、彼らはその後昇進という名の左遷をされていた。
言葉通り、本社から一掃されたのだ。
「一番の問題はそこではないんだ」
「と、言うと?」
板井は姿勢を正し真剣な眼差しでこちらを見ていた。
「そのリンチに遭いそうになった時、社長が皇を助けたんだが……その時、社長は皇を言いくるめて抱いたらしい」
「へ?」
それが想定外の出来事。いつも気丈に振舞う皇の恐怖に怯える姿。自分に縋る姿を見て社長は欲情したようだ。
「皇は当時、恋をしたことがなかった。だからそれは性欲処理だと思っている。まさか社長が自分に好意を持ったとは思っていない」
今はどうかわからないが、と付け加えて。
それから最近までは何事もなく過ごしてきた。それに変化が起きたのは、黒岩が彼に好意を持ったのが原因。
「黒岩さんが最近、副社長に言い寄っているのは知っていましたが」
苦情係でも何度か見かけている光景。
「黒岩は執念深いから簡単に諦めたりはしないだろうな」
それも頭痛の種なのだ。
「とは言え、皇の方が立場は上だから制止はできる」
だが社長に逆らうのは難しいだろう。
”もちろん、対策はしているんですよね?”と板井に問われ、
「あ、ああ」
と口ごもる唯野。
全て話すと約束したのだ、その内容まで話す必要があるだろう。
軽蔑されるのを恐れ今日まで黙っていたが、そうもいかない。
唯野は浅く息をすると、意を決して塩田たちに何をさせているのか板井に告白した。予想通りと言おうか、彼は唖然とした風に見える。
「もちろん酷いことをさせている自覚もあるし、軽蔑される覚悟もしている」
すると板井はため息をついたのち、
「自分にあなたを責めることはできません」
と口にした。
「正直、俺は塩田のことを親友だと思っていますし、電車とも仲が良いつもりでいます。でも彼らが愚痴の一つも零さずその命令に従ったというのなら、それは自分の意思だと思いますし」
”ただ……”と彼は続ける。
「自分だけが蚊帳の外だったことが、なんというか悔しいです。俺にも何かできることがあったんじゃないですか?」
言って額に手をあてる彼。
唯野は眉を寄せ板井を見つめていたが、
「すまない」
と頭を下げた。
「謝る必要はありません。あなたの判断でそのような業務命令をだしたのでしょうし」
誰よりも唯野の力になりたいと願っていた彼をないがしろにした自覚はある。いや、彼の言葉によって自覚した。
何故あんなにも塩田が怒るのか。あまりにも周りが見えていなかった自分に唯野は落胆したのだった。
「社長には可愛がって貰っていたと思う。そんな関係が変わったのは皇が入社してから」
皇優一、現在の副社長だ。彼は入社二年目にして副社長に就任した。
就任当時は枕をして気に入られたなどという噂も飛び交ったが、実際彼が副社長として会社が稼働し始めると経営は右肩上がりとなる。そうして実力で周りを黙らせたのだ。
彼の働きを間近で見ていたのは企画部。
その為か企画部には彼を慕う皇信者が多くいる。
「彼は入社して営業部、俺や黒岩がいた営業一課に配属になった」
皇は今も童顔なのは変わらないが、とても華のある人物だった。
日本だけなのか、それとも人間はそういうものなのかわからないが、自分より目立つ後輩をいびるやつは必ずいる。それはきっと嫉妬によるものなのだろう。法律が厳しくなり、表立った苛めはなかったがそんな風に安心していたことが逆に良くなかったのかもしれない。
「皇は良く思っていなかった先輩たちに休憩室に連れていかれた」
それが皇が入社一年目に起きた”リンチ未遂事件”だった。
「そんなことがあったんですか」
板井は非常に驚いた顔をした。
「それ以来、我が社にはいたるところに監視カメラが設置された。まあ、首謀者は社長なんだがな」
「社長が?」
社長の目的は”お気に入りの皇から絶対的な信頼を得ること”。しかし計画は狂ってしまった。彼自身、想定外のことが起きたのである。
「信頼を得たいから自作自演したと。でも、そこまでしますか?」
「皇に反感を持っている奴らを本社から一掃したいというのもあったと思う」
これは憶測でしかないが、彼らはその後昇進という名の左遷をされていた。
言葉通り、本社から一掃されたのだ。
「一番の問題はそこではないんだ」
「と、言うと?」
板井は姿勢を正し真剣な眼差しでこちらを見ていた。
「そのリンチに遭いそうになった時、社長が皇を助けたんだが……その時、社長は皇を言いくるめて抱いたらしい」
「へ?」
それが想定外の出来事。いつも気丈に振舞う皇の恐怖に怯える姿。自分に縋る姿を見て社長は欲情したようだ。
「皇は当時、恋をしたことがなかった。だからそれは性欲処理だと思っている。まさか社長が自分に好意を持ったとは思っていない」
今はどうかわからないが、と付け加えて。
それから最近までは何事もなく過ごしてきた。それに変化が起きたのは、黒岩が彼に好意を持ったのが原因。
「黒岩さんが最近、副社長に言い寄っているのは知っていましたが」
苦情係でも何度か見かけている光景。
「黒岩は執念深いから簡単に諦めたりはしないだろうな」
それも頭痛の種なのだ。
「とは言え、皇の方が立場は上だから制止はできる」
だが社長に逆らうのは難しいだろう。
”もちろん、対策はしているんですよね?”と板井に問われ、
「あ、ああ」
と口ごもる唯野。
全て話すと約束したのだ、その内容まで話す必要があるだろう。
軽蔑されるのを恐れ今日まで黙っていたが、そうもいかない。
唯野は浅く息をすると、意を決して塩田たちに何をさせているのか板井に告白した。予想通りと言おうか、彼は唖然とした風に見える。
「もちろん酷いことをさせている自覚もあるし、軽蔑される覚悟もしている」
すると板井はため息をついたのち、
「自分にあなたを責めることはできません」
と口にした。
「正直、俺は塩田のことを親友だと思っていますし、電車とも仲が良いつもりでいます。でも彼らが愚痴の一つも零さずその命令に従ったというのなら、それは自分の意思だと思いますし」
”ただ……”と彼は続ける。
「自分だけが蚊帳の外だったことが、なんというか悔しいです。俺にも何かできることがあったんじゃないですか?」
言って額に手をあてる彼。
唯野は眉を寄せ板井を見つめていたが、
「すまない」
と頭を下げた。
「謝る必要はありません。あなたの判断でそのような業務命令をだしたのでしょうし」
誰よりも唯野の力になりたいと願っていた彼をないがしろにした自覚はある。いや、彼の言葉によって自覚した。
何故あんなにも塩田が怒るのか。あまりにも周りが見えていなかった自分に唯野は落胆したのだった。
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