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────6話*狂いだした歯車と動き出す運命
13・あの日の真実
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****♡Side・板井(同僚)
「結論から言うと、妻とは肉体関係になったことはない」
一人娘とは血のつながりがなく、体外受精でできたようだが妻もその相手を知らないという。
世の中、大金を積めば思い通りになることもあるということだ。
それにしても、好いた男を手に入れるためにそこまでするのか? という疑念もわく。
「妻も元会長に利用された口だから……」
板井が知りたいのはその会長に何をされたのか、だが。
冷蔵庫から飲み物を取り出すと彼の隣に戻る。
「板井」
「はい?」
ビールの缶をカウンターに置いた板井のシャツの袖を唯野が掴む。
「どうしたんです?」
「抱きしめてて」
今から話すことは、彼にとって辛い過去なのだろう。それを察した板井は彼の方に向き直ると、その身を抱きしめた。
既成事実を突きつけられた唯野は認知をしたのち、直ぐに籍を入れたのだ。披露宴には同じ部署の者を招待した。何の変哲もない普通の結婚式。だが式を行ったこと自体に意味があった。
「新婚旅行とかは……」
「急だったし、行ってないな」
旅行へでも行けば仲は深まったかもしれない。しかし、大して話したこともない相手との旅行は苦行だったに違いない。
当時仕事が忙しかったことも相まって、落ち着いたらそのうちと約束はしたもののそのままとなった。
「俺は以前にも増して家に帰るのが遅くなった。そんな頃だ、会長に呼ばれたのは」
初めは世間話から始まったという。
妻の話しとなり、『熱愛結婚』で片付いたはずの二人のことに彼は触れた。それは唯野が隠しておきたい事実だった。
何故丸く収まったものを掘り起こすのか。事実が明るみになれば、一夜の関係で孕まされた妻も辱めを受けるだろう。悪い噂が立つのは避けたかった。
産まれてくる子供には罪はない。しかしいつか自分の父母の話しを誰かから聞かされれば傷つくだろうとも思った。
「今思えば、知っていて当たり前だったんだよ。策を講じた本人なんだから」
「要求は……」
概要は聞いているが、今日は全てを話すと言ったのだ、彼は。
「会長は卑劣な奴だったよ。妻に気がある素振りをして、初めから狙いは俺だったんだから」
会長は不能だったため、性欲の捌け口にされはしなかったがおもちゃにはされた。
「始めは服を脱げと言われただけだった。抵抗しないことに安心感を得たのか、要求はエスカレートしたよ」
「まさか、奉仕されられたりとか?」
「有難いことに、それはなかった」
会長は唯野の過去の交際についても調べたようだった。
過去に交際したことのある相手が女性ばかりだったことを知っていた彼は、そこには踏み切らなかったと思われる。
もっとも不能では奉仕をしたところで顎がつかれるだけだろう。
だが黒岩とのことを知り、嫌悪は持たないのだろうと思ったのかもしれない。
「では……?」
何故こんなにも知りたいのか。理由が分からないまま。
「その……舐められたり、指を突っ込まれたりとかはした」
自分はオカシイのだろうか?
今よりもずっと若い彼が無抵抗なまま、性的なことをされているところを想像し興奮してしまっている。
「板井?」
「いえ……」
どうかしていると自分を戒め、深呼吸する。
彼の背中に手を這わせ、口づけた。
「愛してますよ」
「ん……」
板井の首に腕を巻き付ける彼。
「……はあッ……続き、話さなきゃ」
息も切れ切れに彼が吐き出すように言う。板井は彼の髪を撫で、心を落ち着けた。
「最終的に会長のしていることは社長の知るところになり、助けられた形にはなった」
その時、彼は社長から『どうして自分に助けを求めないのか?』と尋ねられたようだ。だが、当時の唯野は一介の平社員であり、社長に言えるようなことではなかった。
「良くも悪くも、あれが社長と関わるようになったきっかけだ」
初めは目をかけて貰っていた方だったが、その関係は皇の事件により変わってしまう。恐らく、現在彼が社長からパワハラを受けている原因がそこにある。板井は気を引き締めたのだった。
「結論から言うと、妻とは肉体関係になったことはない」
一人娘とは血のつながりがなく、体外受精でできたようだが妻もその相手を知らないという。
世の中、大金を積めば思い通りになることもあるということだ。
それにしても、好いた男を手に入れるためにそこまでするのか? という疑念もわく。
「妻も元会長に利用された口だから……」
板井が知りたいのはその会長に何をされたのか、だが。
冷蔵庫から飲み物を取り出すと彼の隣に戻る。
「板井」
「はい?」
ビールの缶をカウンターに置いた板井のシャツの袖を唯野が掴む。
「どうしたんです?」
「抱きしめてて」
今から話すことは、彼にとって辛い過去なのだろう。それを察した板井は彼の方に向き直ると、その身を抱きしめた。
既成事実を突きつけられた唯野は認知をしたのち、直ぐに籍を入れたのだ。披露宴には同じ部署の者を招待した。何の変哲もない普通の結婚式。だが式を行ったこと自体に意味があった。
「新婚旅行とかは……」
「急だったし、行ってないな」
旅行へでも行けば仲は深まったかもしれない。しかし、大して話したこともない相手との旅行は苦行だったに違いない。
当時仕事が忙しかったことも相まって、落ち着いたらそのうちと約束はしたもののそのままとなった。
「俺は以前にも増して家に帰るのが遅くなった。そんな頃だ、会長に呼ばれたのは」
初めは世間話から始まったという。
妻の話しとなり、『熱愛結婚』で片付いたはずの二人のことに彼は触れた。それは唯野が隠しておきたい事実だった。
何故丸く収まったものを掘り起こすのか。事実が明るみになれば、一夜の関係で孕まされた妻も辱めを受けるだろう。悪い噂が立つのは避けたかった。
産まれてくる子供には罪はない。しかしいつか自分の父母の話しを誰かから聞かされれば傷つくだろうとも思った。
「今思えば、知っていて当たり前だったんだよ。策を講じた本人なんだから」
「要求は……」
概要は聞いているが、今日は全てを話すと言ったのだ、彼は。
「会長は卑劣な奴だったよ。妻に気がある素振りをして、初めから狙いは俺だったんだから」
会長は不能だったため、性欲の捌け口にされはしなかったがおもちゃにはされた。
「始めは服を脱げと言われただけだった。抵抗しないことに安心感を得たのか、要求はエスカレートしたよ」
「まさか、奉仕されられたりとか?」
「有難いことに、それはなかった」
会長は唯野の過去の交際についても調べたようだった。
過去に交際したことのある相手が女性ばかりだったことを知っていた彼は、そこには踏み切らなかったと思われる。
もっとも不能では奉仕をしたところで顎がつかれるだけだろう。
だが黒岩とのことを知り、嫌悪は持たないのだろうと思ったのかもしれない。
「では……?」
何故こんなにも知りたいのか。理由が分からないまま。
「その……舐められたり、指を突っ込まれたりとかはした」
自分はオカシイのだろうか?
今よりもずっと若い彼が無抵抗なまま、性的なことをされているところを想像し興奮してしまっている。
「板井?」
「いえ……」
どうかしていると自分を戒め、深呼吸する。
彼の背中に手を這わせ、口づけた。
「愛してますよ」
「ん……」
板井の首に腕を巻き付ける彼。
「……はあッ……続き、話さなきゃ」
息も切れ切れに彼が吐き出すように言う。板井は彼の髪を撫で、心を落ち着けた。
「最終的に会長のしていることは社長の知るところになり、助けられた形にはなった」
その時、彼は社長から『どうして自分に助けを求めないのか?』と尋ねられたようだ。だが、当時の唯野は一介の平社員であり、社長に言えるようなことではなかった。
「良くも悪くも、あれが社長と関わるようになったきっかけだ」
初めは目をかけて貰っていた方だったが、その関係は皇の事件により変わってしまう。恐らく、現在彼が社長からパワハラを受けている原因がそこにある。板井は気を引き締めたのだった。
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