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────6話*狂いだした歯車と動き出す運命
12・17年前、悪夢の始まり
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****♡Side・板井(同僚)
十七年前、『唯野修二』は入社一年目の新入社員だった。
配属先は営業一課。同期には黒岩が。
見目麗しく物腰の柔らかい唯野は『営業』に向いているとは言い難がった。
それに対し黒岩は『粘りと強気の黒岩』と言われるくらい営業には向いていたようだ。
それでも真面目で勤勉な唯野は黒岩と営業のトップを争うような関係となっていく。そんな経緯もあってか、その年の営業一課は期待されていた。
どんなに目立ちたくなくとも営業は花形。
営業成績が良ければそれなりに社内で注目される。その上、見目も良ければ当然だろう。唯野は異性、同性関係なく求愛されることが増えた。
しかし『仕事に慣れる』ことを優先。お付き合いについては誰であっても断っていた。
だが、断れないものもある。
それは飲み会だ。
入社一年目で目をつけられるのは困る。営業なら何処で出会いがあるか分からない。顧客を増やすチャンスを棒に振るわけにはいかない。
飲み会は誘えば来る。それが唯野修二。
ハードではあるが平穏な毎日が続くと思っていた。
その平穏が崩されたきっかけは何だったのか?
予感はあったのかもしれない。
黒岩につきあおうと言われた時点ではまだ平穏が続いていたように思う。
この会社の至る所に監視カメラが設置されたのは、皇の事件が始まりだった。そのため、この頃は死角が多かったはず。それなのにどこから漏れたのだろうか?
黒岩への交際の断り方に問題があったことは否めない。
『今は仕事に専念したいから』
そのような理由で断ったはずだ。それを『男もイケる』と判断されたのは、自分にも非があったのかもしれない。
「つまり、黒岩さんへの返事がきっかけで『元会長』に目をつけられた……いや、ターゲットにされたと?」
と話を聞いていた板井。
「俺はそう思っている」
この会社は各階に仮眠室と休憩所が設置されている。
どこを使うのか想像はしやすい。あの時、盗聴器が設置されていたという想像は的外れではないはずだ。
だが元会長は唯野に直接手を出すようなことはしなかった。
当時の受付嬢が唯野に気があるということを知り、利用したのである。
「その修二さんの元妻である受付嬢が気があるというのは何処から?」
噂の出どころは分かっていないようだが、人の口に戸は立てられぬというように人の噂は勝手に広がっていくものだ。
「出どころは分からないが、元会長の耳に入るくらいには噂になっていたのだと思う」
板井と唯野はダイニングのカウンターに横に並び腰掛け、話をしていた。
夕飯は刺身がメイン。茄子の芝漬けに箸を伸ばした唯野。板井はグラスに注がれたビールを煽る。部屋にはFINESSEが静かに流れていた。
家でもまるでバーで呑んでいるような錯覚を起こす洒落たダイニング。等間隔に設置された間接照明の淡いライトがグラスを煌めかせている。
ダイニングをコーディネートをしたのは板井だ。
唯野が、
『板井はホントセンスがいいな』
と目を細めて、間接照明を設置をしている板井を眺めていたことを思い出す。
あれから何度かホームセンターへ出向き、必要なものを購入した。簡素だった唯野のマンションはすかっりお洒落な空間へと変化している。
『ロマンチストなので』
と返事をすれば、彼はワイングラスを傾けクスリと笑みを零した。
”いう言う”という意味なのかと思ったら、
『そりゃ、楽しくなりそうだな』
と。
板井はこの十以上も年上で上司で美人で真面目な恋人のことが愛しくてたまらなかった。
やっと振り向てくれた、ずっと好きだった人。
結婚したいくらい好きだ。
「それで、その元奥さんを利用して修二さんを嵌めたということなんですか?」
「そうなるな」
あの日も普通の飲み会だったはずだ。
記憶のないあの時間に何があったのか、まだ全容は聞いていないが唯野の元妻が酔った唯野をタクシーで送ると同僚たちに告げたことは確かなようだ。
ため息をつく唯野。
板井は立ち上がると冷蔵庫へ。何を聞いても変わらないと心に固く誓い。
十七年前、『唯野修二』は入社一年目の新入社員だった。
配属先は営業一課。同期には黒岩が。
見目麗しく物腰の柔らかい唯野は『営業』に向いているとは言い難がった。
それに対し黒岩は『粘りと強気の黒岩』と言われるくらい営業には向いていたようだ。
それでも真面目で勤勉な唯野は黒岩と営業のトップを争うような関係となっていく。そんな経緯もあってか、その年の営業一課は期待されていた。
どんなに目立ちたくなくとも営業は花形。
営業成績が良ければそれなりに社内で注目される。その上、見目も良ければ当然だろう。唯野は異性、同性関係なく求愛されることが増えた。
しかし『仕事に慣れる』ことを優先。お付き合いについては誰であっても断っていた。
だが、断れないものもある。
それは飲み会だ。
入社一年目で目をつけられるのは困る。営業なら何処で出会いがあるか分からない。顧客を増やすチャンスを棒に振るわけにはいかない。
飲み会は誘えば来る。それが唯野修二。
ハードではあるが平穏な毎日が続くと思っていた。
その平穏が崩されたきっかけは何だったのか?
予感はあったのかもしれない。
黒岩につきあおうと言われた時点ではまだ平穏が続いていたように思う。
この会社の至る所に監視カメラが設置されたのは、皇の事件が始まりだった。そのため、この頃は死角が多かったはず。それなのにどこから漏れたのだろうか?
黒岩への交際の断り方に問題があったことは否めない。
『今は仕事に専念したいから』
そのような理由で断ったはずだ。それを『男もイケる』と判断されたのは、自分にも非があったのかもしれない。
「つまり、黒岩さんへの返事がきっかけで『元会長』に目をつけられた……いや、ターゲットにされたと?」
と話を聞いていた板井。
「俺はそう思っている」
この会社は各階に仮眠室と休憩所が設置されている。
どこを使うのか想像はしやすい。あの時、盗聴器が設置されていたという想像は的外れではないはずだ。
だが元会長は唯野に直接手を出すようなことはしなかった。
当時の受付嬢が唯野に気があるということを知り、利用したのである。
「その修二さんの元妻である受付嬢が気があるというのは何処から?」
噂の出どころは分かっていないようだが、人の口に戸は立てられぬというように人の噂は勝手に広がっていくものだ。
「出どころは分からないが、元会長の耳に入るくらいには噂になっていたのだと思う」
板井と唯野はダイニングのカウンターに横に並び腰掛け、話をしていた。
夕飯は刺身がメイン。茄子の芝漬けに箸を伸ばした唯野。板井はグラスに注がれたビールを煽る。部屋にはFINESSEが静かに流れていた。
家でもまるでバーで呑んでいるような錯覚を起こす洒落たダイニング。等間隔に設置された間接照明の淡いライトがグラスを煌めかせている。
ダイニングをコーディネートをしたのは板井だ。
唯野が、
『板井はホントセンスがいいな』
と目を細めて、間接照明を設置をしている板井を眺めていたことを思い出す。
あれから何度かホームセンターへ出向き、必要なものを購入した。簡素だった唯野のマンションはすかっりお洒落な空間へと変化している。
『ロマンチストなので』
と返事をすれば、彼はワイングラスを傾けクスリと笑みを零した。
”いう言う”という意味なのかと思ったら、
『そりゃ、楽しくなりそうだな』
と。
板井はこの十以上も年上で上司で美人で真面目な恋人のことが愛しくてたまらなかった。
やっと振り向てくれた、ずっと好きだった人。
結婚したいくらい好きだ。
「それで、その元奥さんを利用して修二さんを嵌めたということなんですか?」
「そうなるな」
あの日も普通の飲み会だったはずだ。
記憶のないあの時間に何があったのか、まだ全容は聞いていないが唯野の元妻が酔った唯野をタクシーで送ると同僚たちに告げたことは確かなようだ。
ため息をつく唯野。
板井は立ち上がると冷蔵庫へ。何を聞いても変わらないと心に固く誓い。
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