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────6話*狂いだした歯車と動き出す運命
11・すれ違いと
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****♡Side・板井(同僚)
「そんなに辛いんですか?」
板井は塩田に怒られた後、苦情係にいない唯野を探し休憩室へ向かった。そこで唯野を見つけたものの、彼は目に涙を溜めただじっと一点を見つめていたのである。
「なに……が?」
板井に問われ驚いた顔をして振り返る彼。ようやくここで、塩田がなぜあんなに怒っていたのか理解した。
「塩田に気持ちを否定されることは、そんなに辛いことなんですか? 泣くほど?」
どうしてこんなことで不安になってしまうのだろう。
彼は塩田への過去の想いを断ち切るために話をしに来たはずなのに。
「そんなんじゃない」
掴んだはずの幸せが、指の間から砂のように零れていくような気がした。
「じゃあどうして泣くんですか? どうして放心状態になるほどショックを受けているんです?」
責めたいわけじゃないのに、確実に追い詰めている。
少なくとも、自分はそう感じていた。
唯野は眉を寄せると瞬きをする。きっと言葉にできない何かがあるのだろう。
「板井、すまなかった」
「はい?」
別れ話でもしようと言うのだろうか?
何を言われようが、別れを承諾する気はない。
”じゃあ、お前にやるよ。俺の全て”
彼は確かにあの時そういったはずだ。例え、まだ塩田が好きだと言われようが、それを含めて愛する覚悟くらいはしている。
──撤回なんて、絶対に受け入れない。
もし離れるというのなら、力ずくでも自分に向けてやる。
「俺がバカだった」
唯野は一歩、板井に近づくとハラハラと涙を零しながら。
「何の話です?」
「ちゃんとしたら、板井の不安を拭えると思った」
そこでぎゅっと抱き着かれて板井は戸惑う。
「俺はただ、お前に笑って欲しくて……」
何を誤解していたのか分からないが、唯野はそれを解こうと必死だったことは伝わってきた。
「塩田のことは、過去なんだよ。塩田には怒られたが」
唯野はたくさんのものを一人で抱えている。だが、それを部下に話すようなことはしなかった。副社長の皇にすら。
自分なら彼の心の負担を取り除けるのではないかと思っていた。
でもその過去は壮絶過ぎて、自分ごときではどうにもできそうにない。そんな彼の唯一の光が塩田だった。
やっと手に入れたのに、まだ彼はその光に縋るのかと思っていたのだ。
「修二さん。全てを知りたいと言ったら、あなたはご自分が抱えている過去を俺に話してくれますか?」
「全て……」
断片的なことなら『秘書室長』から聞いている。
しかし全てを知るのは彼だけ。
何があって今こうなっているのか知らなければ、もう彼を支えるのが難しい。そういう状況なのだと感じていた。
誰がどんな風に関わっていて、今苦情係で何が起きているのか?
塩田たちが何をしているのか? 板井は知らない。
皇も秘書室長も総括黒岩も、そして塩田も。
きっと断片的なことしか知らないはずだ。
「何を知っても、俺は変わりません」
ちゃんと順を追って、包み隠さず全てが知りたい。
「それは、前会長から何をされたのかも含むのか?」
それは十七年前の事件の一部。
「できれば」
板井の返事に彼が深いため息をつく。
「まだ一つだけ分からないことはある。それでも長くなるぞ?」
「覚悟は出来てます」
唯野は分かったと返答した。
──いよいよ、全てがわかるのか。
今までは蚊帳の外だった。事の発端が十七年前の事件にあることは分かっている。そのことで明かされたこともあるから唯野は離婚したのだ。
続いているパワハラはきっと、その事件と何かしら関係があるかも知れないし、関係ないかもしれない。
「結論から述べておくが、俺たちの戦っている相手は社長だ」
それは薄々気づいていたことでもある。
「そして今、俺たちは『皇を社長から守る』ことに全力を注いでいる」
最近皇が塩田たちと行動を共にしているのも変だと思っていた。あんなに塩田が邪険にしていたにも関わらず。
「今言えるのはそれだけだ。後は家で話そう」
「そんなに辛いんですか?」
板井は塩田に怒られた後、苦情係にいない唯野を探し休憩室へ向かった。そこで唯野を見つけたものの、彼は目に涙を溜めただじっと一点を見つめていたのである。
「なに……が?」
板井に問われ驚いた顔をして振り返る彼。ようやくここで、塩田がなぜあんなに怒っていたのか理解した。
「塩田に気持ちを否定されることは、そんなに辛いことなんですか? 泣くほど?」
どうしてこんなことで不安になってしまうのだろう。
彼は塩田への過去の想いを断ち切るために話をしに来たはずなのに。
「そんなんじゃない」
掴んだはずの幸せが、指の間から砂のように零れていくような気がした。
「じゃあどうして泣くんですか? どうして放心状態になるほどショックを受けているんです?」
責めたいわけじゃないのに、確実に追い詰めている。
少なくとも、自分はそう感じていた。
唯野は眉を寄せると瞬きをする。きっと言葉にできない何かがあるのだろう。
「板井、すまなかった」
「はい?」
別れ話でもしようと言うのだろうか?
何を言われようが、別れを承諾する気はない。
”じゃあ、お前にやるよ。俺の全て”
彼は確かにあの時そういったはずだ。例え、まだ塩田が好きだと言われようが、それを含めて愛する覚悟くらいはしている。
──撤回なんて、絶対に受け入れない。
もし離れるというのなら、力ずくでも自分に向けてやる。
「俺がバカだった」
唯野は一歩、板井に近づくとハラハラと涙を零しながら。
「何の話です?」
「ちゃんとしたら、板井の不安を拭えると思った」
そこでぎゅっと抱き着かれて板井は戸惑う。
「俺はただ、お前に笑って欲しくて……」
何を誤解していたのか分からないが、唯野はそれを解こうと必死だったことは伝わってきた。
「塩田のことは、過去なんだよ。塩田には怒られたが」
唯野はたくさんのものを一人で抱えている。だが、それを部下に話すようなことはしなかった。副社長の皇にすら。
自分なら彼の心の負担を取り除けるのではないかと思っていた。
でもその過去は壮絶過ぎて、自分ごときではどうにもできそうにない。そんな彼の唯一の光が塩田だった。
やっと手に入れたのに、まだ彼はその光に縋るのかと思っていたのだ。
「修二さん。全てを知りたいと言ったら、あなたはご自分が抱えている過去を俺に話してくれますか?」
「全て……」
断片的なことなら『秘書室長』から聞いている。
しかし全てを知るのは彼だけ。
何があって今こうなっているのか知らなければ、もう彼を支えるのが難しい。そういう状況なのだと感じていた。
誰がどんな風に関わっていて、今苦情係で何が起きているのか?
塩田たちが何をしているのか? 板井は知らない。
皇も秘書室長も総括黒岩も、そして塩田も。
きっと断片的なことしか知らないはずだ。
「何を知っても、俺は変わりません」
ちゃんと順を追って、包み隠さず全てが知りたい。
「それは、前会長から何をされたのかも含むのか?」
それは十七年前の事件の一部。
「できれば」
板井の返事に彼が深いため息をつく。
「まだ一つだけ分からないことはある。それでも長くなるぞ?」
「覚悟は出来てます」
唯野は分かったと返答した。
──いよいよ、全てがわかるのか。
今までは蚊帳の外だった。事の発端が十七年前の事件にあることは分かっている。そのことで明かされたこともあるから唯野は離婚したのだ。
続いているパワハラはきっと、その事件と何かしら関係があるかも知れないし、関係ないかもしれない。
「結論から述べておくが、俺たちの戦っている相手は社長だ」
それは薄々気づいていたことでもある。
「そして今、俺たちは『皇を社長から守る』ことに全力を注いでいる」
最近皇が塩田たちと行動を共にしているのも変だと思っていた。あんなに塩田が邪険にしていたにも関わらず。
「今言えるのはそれだけだ。後は家で話そう」
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