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────6話*狂いだした歯車と動き出す運命

10・優しい君の【微R】

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****♡Side・塩田

 否定しても、なかったことにはならない。
 それは理解しているつもりだった。
 板井は人生ではじめて出来た友人で、おそらく親友と呼べるもの。
 呼んでいい関係だと思う。

 その板井が傷つくことが泣くほど嫌だったということに気づいて、自分自身驚いた。
 唯野のことは嫌いにはなれないが、その身勝手さには腹が立つ。

──俺のことが好きと言うだけなら、怒りはしない。
 板井とつきあっているのにそんなことを言うから腹が立つのだ。
 たとえそれが過去形であっても。

 板井は口にこそ出さないが、とても分かりやすいヤツだと思う。
 唯野のことを信頼し慕っていたことは、誰の目にも明らかだった。それが恋慕なのかは分からないが。
 社長に呼ばれる唯野を一番心配していたのも板井。
 唯野に『自分がいなくても休憩に行けよ』と言われていたにも関わらず、彼が社長が呼ばれた日は一人苦情係で帰りを待っていた。
 そんな彼だったから、陰では『唯野課長の忠犬』などと呼ばれていたのだ。

 仮にそれが正しくても、そんなことを言うヤツらに対し塩田は良く思っていなかった。どんなに的を得ていたとしても、それは板井の想いを笑っているのと同等に感じたから。

「塩田」
「ん……」
 奥に指を挿入され、虚ろな目で電車を見つめ返す。
「塩田は板井が大好きなんだね」
「へ?」
 想定外のことを言われ、驚いた表情をした塩田。
「大好きだから、傷つけられることが悲しいんだよね?」
「あ、ああ」

 そうか、そうなのかと塩田は納得した。
 大事に思うのは『大好きだから』なのだと。

 パートナーとは互いに慈しみ合い、補い合うもの。
 恋人である電車でんま紀夫は、日々小さな幸せを両手いっぱい与えてくれる。一つ一つは小さなものでもたくさんの愛情に包まれ、自分はとても幸せだなと感じていた。

「んんッ……」
 慣らすために挿入されていた彼の指が、内壁にジェルを塗りこめていく。
「愛してるよ」
 彼の唇が鎖骨から胸に伝う。そのもどかしい感触に、塩田は身を捩った。
「俺も……」

『塩田は真っ直ぐだから、許せないこともたくさんあると思うの』
 電車は風呂で塩田の話しを聞きながらそういった。
『人は常に葛藤して生きていて、つい弱い自分に心を染められてしまう』
 自分の頬に触れた指先に塩田は手を添える。
『でもね、ちゃんと立ち直れるから。どんなに時間がかかっても』
 電車が誰の何について言っていたのかはわからない。
 ただ、とても大切にしてくれていることはわかる。
 
──俺が傷つかないように。
 苦しまないように、守ってくれようとしている。

「んッ……はあッ」
「力抜いて」
 彼の指が奥から抜かれ、代わりに彼自身が塩田の蕾に宛がわれた。
「あ……ッ」
「そう、上手。力抜いててね」
 彼自身が、ゆっくりと塩田の中に入ってくる。
 何度こうして身体を重ねただろう。
 初めてこそ気持ちが通じてはいなかったが、自覚して夢中になったのは自分の方だと断言できる。

「くッ……ッ」
「ほら、全部入ったよ」
 内壁が擦れて熱い。元々入れるべき場所ではないから、最初は苦しいのはいつものこと。腰を引けば、意識が飛びそうなほどの快感に支配される。
「紀夫」
 甘えるようにその名を呼び、彼の首に自分の腕を絡めキスを強請れば、可愛いと言われた。
「大好きだよ。ずっと一緒にいようね、塩田」
 彼のくれる愛に溺れていたい。
 もう傷つかないように。
 もう、誰も傷つけないように。

「あッ……んんんッ」
 電車は何も強要はしない。そのままでいいと言う。
 変わっても変わらなくても塩田だよと。
 塩田はそんな彼の口づけに酔って、されるがままに愛を受け入れていたのだった。
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