150 / 218
────6話*狂いだした歯車と動き出す運命
8・今日は二人きり?
しおりを挟む
****♡Side・塩田
「塩田、どうかしたの?」
業務に戻り、黙々と仕事をしていると不意に隣の電車からそう問われた。板井と課長唯野は休憩へ。副社長の皇は自分の業務へ行っており不在。二人きりなのはそう珍しいことでもない。
「ん?」
いつも通りにしているつもりだった塩田は、電車にそう問われ一瞬手を止める。何も言っていないはずなのに、何に気づいたというのだろうか?
今は業務中。隣は商品部。
板井と唯野のことで悩んでいると打ち明けるべきか迷う。誰かに聞かれたら面倒なことになるだろうと。
「ここでは話せないこと? それとも俺には言えないこと?」
初めの頃こそ天然で鈍感に見えた彼は天然は健在だが、塩田のことについては敏感になった。
「ここで話すのは差し支えるな」
彼がアドバイスをくれるとは限らないが、隠し事は極力避けたい。
優しい彼のことだ。また悲しませてしまうから。
「そっか。じゃあ、業務が終わってからだね」
簡単に引く彼は、とても居心地がいい相手でもある。
食い下がられるのは苦手だ。
「塩田が悩み事なんて珍しいね」
電車の方に視線を向けると、柔らかい笑みを浮かべこちらを見ていた。
この笑顔が好きだ。
優しくてぽかぽかのお日様のような笑顔が。
「あ、そういえば」
と電車。
「ん? どうかしたのか?」
「さっき副社長が来て、今日は遅くなるから先にご飯食べてだって」
「遅くなる?」
自分たちの任務は彼を社長の魔の手から守ること。
もし、社長が一緒なら阻止しなければならない。
「秘書の神流川が一緒だから、心配ないって言っていた」
「そうか」
接待だろうかと思っていると、
「企画部の方に用があるんだって」
と電車が彼の事情を説明してくれた。
我が社のでの残業はしても最大二時間まで。皇は現在会社から徒歩五分の塩田のマンションで一緒に暮らしている。
徒歩五分の距離ではあるが自家用車での通勤だ。帰りは問題ないとは思うが、やはり心配である。
「皇は夕飯どうするって?」
「企画部の人たちと食べて帰るって」
最近一緒にいることに慣れてしまったが、元は別々だったのだ。
こんな風に彼の夕飯を心配する日が来ようとは。
予定すら把握する時が来るなんて思ってもいなかった。
「残業のあとで食べて帰るなら、だいぶ遅くなるだろうな」
「そうだね。じゃあ今日は久々に二人でイチャイチャしようよ、塩田」
言われてみれば、三人でいることが多くなりそれが日常と化している。二人で付き合っていることを忘れてしまいそうなほどに。
「それは名案だな。ならさっさと仕事を終わらせないと」
板井と唯野のことは風呂に入ったついでにでも話せば良いかと、塩田は考えていた。
板井との話の内容はともかく、唯野が自分にしようとしたことについては電車も知っている。あれがどのような感情によるものだったのか話すのは気が重いが、話すべき時が来たのだろうと思う。
今でこそアットホームな雰囲気の苦情係だが、向き合うべきことに今まで向き合わなかっただけ。
解決すべきことを後回しにしてきただけなのだ。
──課長が何を考えているのか、どんな作戦を立ているのか分からないが、近く社長と対峙する時が来るだろう。
始まりはなんだったのか? 俺には分からないけれど。
唯野が今まで一人で抱えて来たもの。
それはきっと板井が理解しているだろう。
自分たちは計画に沿ってサポートをするだけ。
その先に何を見据えているのか分からなくても。
「調子はどうだ?」
そこへ休憩へ出ていた唯野と板井が戻ってくる。
手にカフェオレを持って。
どうやら一階にあるカフェに行ってきたらしい。
この社の一階には食堂やカフェ、売店などがあり休憩中に利用する社員も多い。だが、二人はあまりそこを活用しない派だ。
各階に休憩所や仮眠室が設置されており、無料ドリンクもあるので。
「二人にも」
と板井がカフェオレのカップを塩田たちに差し出す。
「どういう風の吹き回しだ?」
と塩田が問うと、
「商品部の部長に無料券貰ったんだ」
と唯野。
やたら奢りたがる部長絡みかと塩田は納得したのだった。
「塩田、どうかしたの?」
業務に戻り、黙々と仕事をしていると不意に隣の電車からそう問われた。板井と課長唯野は休憩へ。副社長の皇は自分の業務へ行っており不在。二人きりなのはそう珍しいことでもない。
「ん?」
いつも通りにしているつもりだった塩田は、電車にそう問われ一瞬手を止める。何も言っていないはずなのに、何に気づいたというのだろうか?
今は業務中。隣は商品部。
板井と唯野のことで悩んでいると打ち明けるべきか迷う。誰かに聞かれたら面倒なことになるだろうと。
「ここでは話せないこと? それとも俺には言えないこと?」
初めの頃こそ天然で鈍感に見えた彼は天然は健在だが、塩田のことについては敏感になった。
「ここで話すのは差し支えるな」
彼がアドバイスをくれるとは限らないが、隠し事は極力避けたい。
優しい彼のことだ。また悲しませてしまうから。
「そっか。じゃあ、業務が終わってからだね」
簡単に引く彼は、とても居心地がいい相手でもある。
食い下がられるのは苦手だ。
「塩田が悩み事なんて珍しいね」
電車の方に視線を向けると、柔らかい笑みを浮かべこちらを見ていた。
この笑顔が好きだ。
優しくてぽかぽかのお日様のような笑顔が。
「あ、そういえば」
と電車。
「ん? どうかしたのか?」
「さっき副社長が来て、今日は遅くなるから先にご飯食べてだって」
「遅くなる?」
自分たちの任務は彼を社長の魔の手から守ること。
もし、社長が一緒なら阻止しなければならない。
「秘書の神流川が一緒だから、心配ないって言っていた」
「そうか」
接待だろうかと思っていると、
「企画部の方に用があるんだって」
と電車が彼の事情を説明してくれた。
我が社のでの残業はしても最大二時間まで。皇は現在会社から徒歩五分の塩田のマンションで一緒に暮らしている。
徒歩五分の距離ではあるが自家用車での通勤だ。帰りは問題ないとは思うが、やはり心配である。
「皇は夕飯どうするって?」
「企画部の人たちと食べて帰るって」
最近一緒にいることに慣れてしまったが、元は別々だったのだ。
こんな風に彼の夕飯を心配する日が来ようとは。
予定すら把握する時が来るなんて思ってもいなかった。
「残業のあとで食べて帰るなら、だいぶ遅くなるだろうな」
「そうだね。じゃあ今日は久々に二人でイチャイチャしようよ、塩田」
言われてみれば、三人でいることが多くなりそれが日常と化している。二人で付き合っていることを忘れてしまいそうなほどに。
「それは名案だな。ならさっさと仕事を終わらせないと」
板井と唯野のことは風呂に入ったついでにでも話せば良いかと、塩田は考えていた。
板井との話の内容はともかく、唯野が自分にしようとしたことについては電車も知っている。あれがどのような感情によるものだったのか話すのは気が重いが、話すべき時が来たのだろうと思う。
今でこそアットホームな雰囲気の苦情係だが、向き合うべきことに今まで向き合わなかっただけ。
解決すべきことを後回しにしてきただけなのだ。
──課長が何を考えているのか、どんな作戦を立ているのか分からないが、近く社長と対峙する時が来るだろう。
始まりはなんだったのか? 俺には分からないけれど。
唯野が今まで一人で抱えて来たもの。
それはきっと板井が理解しているだろう。
自分たちは計画に沿ってサポートをするだけ。
その先に何を見据えているのか分からなくても。
「調子はどうだ?」
そこへ休憩へ出ていた唯野と板井が戻ってくる。
手にカフェオレを持って。
どうやら一階にあるカフェに行ってきたらしい。
この社の一階には食堂やカフェ、売店などがあり休憩中に利用する社員も多い。だが、二人はあまりそこを活用しない派だ。
各階に休憩所や仮眠室が設置されており、無料ドリンクもあるので。
「二人にも」
と板井がカフェオレのカップを塩田たちに差し出す。
「どういう風の吹き回しだ?」
と塩田が問うと、
「商品部の部長に無料券貰ったんだ」
と唯野。
やたら奢りたがる部長絡みかと塩田は納得したのだった。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる