R18【同性恋愛】リーマン物語『俺のものになってよ』

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────6話*狂いだした歯車と動き出す運命

8・今日は二人きり?

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****♡Side・塩田

「塩田、どうかしたの?」
 業務に戻り、黙々と仕事をしていると不意に隣の電車でんまからそう問われた。板井と課長唯野は休憩へ。副社長の皇は自分の業務へ行っており不在。二人きりなのはそう珍しいことでもない。
「ん?」
 いつも通りにしているつもりだった塩田は、電車にそう問われ一瞬手を止める。何も言っていないはずなのに、何に気づいたというのだろうか?
 今は業務中。隣は商品部。
 板井と唯野のことで悩んでいると打ち明けるべきか迷う。誰かに聞かれたら面倒なことになるだろうと。

「ここでは話せないこと? それとも俺には言えないこと?」
 初めの頃こそ天然で鈍感に見えた彼は天然は健在だが、塩田のことについては敏感になった。
「ここで話すのは差し支えるな」
 彼がアドバイスをくれるとは限らないが、隠し事は極力避けたい。
 優しい彼のことだ。また悲しませてしまうから。
「そっか。じゃあ、業務が終わってからだね」
 簡単に引く彼は、とても居心地がいい相手でもある。
 食い下がられるのは苦手だ。

「塩田が悩み事なんて珍しいね」
 電車の方に視線を向けると、柔らかい笑みを浮かべこちらを見ていた。
 この笑顔が好きだ。
 優しくてぽかぽかのお日様のような笑顔が。
「あ、そういえば」
と電車。
「ん? どうかしたのか?」
「さっき副社長が来て、今日は遅くなるから先にご飯食べてだって」
「遅くなる?」
 自分たちの任務は彼を社長の魔の手から守ること。
 もし、社長が一緒なら阻止しなければならない。

「秘書の神流川が一緒だから、心配ないって言っていた」
「そうか」
 接待だろうかと思っていると、
「企画部の方に用があるんだって」
と電車が彼の事情を説明してくれた。
 我が社のでの残業はしても最大二時間まで。皇は現在会社から徒歩五分の塩田のマンションで一緒に暮らしている。
 徒歩五分の距離ではあるが自家用車での通勤だ。帰りは問題ないとは思うが、やはり心配である。
「皇は夕飯どうするって?」
「企画部の人たちと食べて帰るって」
 
 最近一緒にいることに慣れてしまったが、元は別々だったのだ。
 こんな風に彼の夕飯を心配する日が来ようとは。
 予定すら把握する時が来るなんて思ってもいなかった。

「残業のあとで食べて帰るなら、だいぶ遅くなるだろうな」
「そうだね。じゃあ今日は久々に二人でイチャイチャしようよ、塩田」
 言われてみれば、三人でいることが多くなりそれが日常と化している。二人で付き合っていることを忘れてしまいそうなほどに。
「それは名案だな。ならさっさと仕事を終わらせないと」
 板井と唯野のことは風呂に入ったついでにでも話せば良いかと、塩田は考えていた。

 板井との話の内容はともかく、唯野が自分にしようとしたことについては電車も知っている。あれがどのような感情によるものだったのか話すのは気が重いが、話すべき時が来たのだろうと思う。
 今でこそアットホームな雰囲気の苦情係だが、向き合うべきことに今まで向き合わなかっただけ。
 解決すべきことを後回しにしてきただけなのだ。

──課長が何を考えているのか、どんな作戦を立ているのか分からないが、近く社長と対峙する時が来るだろう。
 始まりはなんだったのか? 俺には分からないけれど。

 唯野が今まで一人で抱えて来たもの。
 それはきっと板井が理解しているだろう。
 自分たちは計画に沿ってサポートをするだけ。
 その先に何を見据えているのか分からなくても。

「調子はどうだ?」
 そこへ休憩へ出ていた唯野と板井が戻ってくる。
 手にカフェオレを持って。
 どうやら一階にあるカフェに行ってきたらしい。
 この社の一階には食堂やカフェ、売店などがあり休憩中に利用する社員も多い。だが、二人はあまりそこを活用しない派だ。
 各階に休憩所や仮眠室が設置されており、無料ドリンクもあるので。
「二人にも」
と板井がカフェオレのカップを塩田たちに差し出す。
「どういう風の吹き回しだ?」
と塩田が問うと、
「商品部の部長に無料券貰ったんだ」
と唯野。
 やたら奢りたがる部長絡みかと塩田は納得したのだった。
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