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────1話*俺のものになってよ
6・不機嫌な塩田と困惑の電車【R】
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****side■電車
「塩田ー?」
朝、起きたら彼が不機嫌だった。怒っているとはちょっと違うようなのだが。
「何だ」
「何か怒ってる?」
「は?」
──受け答えはいつもと変わらないんだけど。
酔ってた時、何かしちゃったのかな?
「昨日、俺嫌なことしちゃった?」
「別に」
ソファーに足を組んで腰掛ける彼を、後ろから抱き締める。顔に触れる彼の髪からはシャンプーの香りがした。
「髪、ちゃんと乾かしたのか?」
先にシャワーを浴びた彼は、チラリとこちらに視線を向けて。
「うん」
ちゅっと首筋に口づけ、微笑した。すると塩田はため息をつく。
「隣、いいよね?」
不機嫌な理由が知りたかった。塩田はただ手の平を上に向け、”どうぞ”という仕草をするだけ。
「なんで、ムッとしてるの?」
「お前には関係な……いこともないけど」
「え?」
それはつまり関係していると言うことではないのか?
「お前が途中で寝るから悪いんだ」
──なんのこと?
俺、何かした?
「なんでもない」
”覚えていないならいい”と言われてしまう。しかし電車は食い下がった。
「イチャイチャしようよ、機嫌直して?」
「断る」
「なんでー」
「!」
何故か塩田が一瞬、凄く驚いた顔をして、口づけをくれる。
「しお……た?」
「泣きたいのは、俺のほうなのに」
そういって電車の肩に額をつける塩田の背中に、腕を回す。
「泣きそうな顔やめろよ」
「してないよ」
「してた」
顔をあげると優しい瞳を向けられ、心拍数が上がっていくのを感じた。いつもと違う優しい表情に心が奪われてゆく。
「早く彼女と別れて」
”俺だけのものになれよ”
耳元で囁かれぐいっと引かれた。
「電話……する」
「ん」
彼の唇に親指の腹でなぞるように触れる。柔らかい唇、滑らかな首筋を撫で耳を噛む。
「なんだよ、俺を食う気か?」
眉を寄せ困ったように笑う塩田をソファーに押し付け唇を奪うと、上体を起こしスマホに手を伸ばした。
****side■塩田
『ったく、電車のバカ』
引き抜こうとしたら意外と強めに握られていて、手を解こうとして擦れる。
『く……』
──やばい、気持ちいい。
その後何をしたのかは……。
隣で電話をかけている電車にチラリと視線を向け、昨夜のことを思い出し額に手をやる。人として、やってはいけないことした。塩田としては思い出したくも無い醜態である。
──悪いの俺じゃないから。
電車が途中で人のものを握り締めて寝るのがいけないんだよ。
起き上がった塩田の手を握ったまま電話口で話をしている彼。恋は人を狂わせる。どうにも出来ない独占欲が塩田の心を支配してゆく。
「悪いの俺なのは分かってるよ。でもごめん、好きな人がいるんだ」
”好きな人”
電車に好きと言われる度、温かいものが自分を包んだ。恋がどんなもので、愛がどんなものか知った。
──お前の気持ちを独り占めしたい。
いいよな?
じっと横顔を見つめていたら、繋いでいた手が離れ頬を撫でられる。三日月みたいに目を細め笑う彼が、耳をなぞり髪を撫でた。まるで”愛しい”とでも言うように。
「で?」
電話を切った彼に問いかけると、途端に渋い顔。
「会うことになった。会って話すことに」
「ふーん」
ちゃんと別れられるのか? というように。
「相手連れて来てって言われてるんだけど」
「は?」
「相手に納得したら別れてくれるって」
「え、つまり」
電車に縋るような瞳を向けられ、さすがの塩田も困る。
「一緒に来てくれる?」
「塩田ー?」
朝、起きたら彼が不機嫌だった。怒っているとはちょっと違うようなのだが。
「何だ」
「何か怒ってる?」
「は?」
──受け答えはいつもと変わらないんだけど。
酔ってた時、何かしちゃったのかな?
「昨日、俺嫌なことしちゃった?」
「別に」
ソファーに足を組んで腰掛ける彼を、後ろから抱き締める。顔に触れる彼の髪からはシャンプーの香りがした。
「髪、ちゃんと乾かしたのか?」
先にシャワーを浴びた彼は、チラリとこちらに視線を向けて。
「うん」
ちゅっと首筋に口づけ、微笑した。すると塩田はため息をつく。
「隣、いいよね?」
不機嫌な理由が知りたかった。塩田はただ手の平を上に向け、”どうぞ”という仕草をするだけ。
「なんで、ムッとしてるの?」
「お前には関係な……いこともないけど」
「え?」
それはつまり関係していると言うことではないのか?
「お前が途中で寝るから悪いんだ」
──なんのこと?
俺、何かした?
「なんでもない」
”覚えていないならいい”と言われてしまう。しかし電車は食い下がった。
「イチャイチャしようよ、機嫌直して?」
「断る」
「なんでー」
「!」
何故か塩田が一瞬、凄く驚いた顔をして、口づけをくれる。
「しお……た?」
「泣きたいのは、俺のほうなのに」
そういって電車の肩に額をつける塩田の背中に、腕を回す。
「泣きそうな顔やめろよ」
「してないよ」
「してた」
顔をあげると優しい瞳を向けられ、心拍数が上がっていくのを感じた。いつもと違う優しい表情に心が奪われてゆく。
「早く彼女と別れて」
”俺だけのものになれよ”
耳元で囁かれぐいっと引かれた。
「電話……する」
「ん」
彼の唇に親指の腹でなぞるように触れる。柔らかい唇、滑らかな首筋を撫で耳を噛む。
「なんだよ、俺を食う気か?」
眉を寄せ困ったように笑う塩田をソファーに押し付け唇を奪うと、上体を起こしスマホに手を伸ばした。
****side■塩田
『ったく、電車のバカ』
引き抜こうとしたら意外と強めに握られていて、手を解こうとして擦れる。
『く……』
──やばい、気持ちいい。
その後何をしたのかは……。
隣で電話をかけている電車にチラリと視線を向け、昨夜のことを思い出し額に手をやる。人として、やってはいけないことした。塩田としては思い出したくも無い醜態である。
──悪いの俺じゃないから。
電車が途中で人のものを握り締めて寝るのがいけないんだよ。
起き上がった塩田の手を握ったまま電話口で話をしている彼。恋は人を狂わせる。どうにも出来ない独占欲が塩田の心を支配してゆく。
「悪いの俺なのは分かってるよ。でもごめん、好きな人がいるんだ」
”好きな人”
電車に好きと言われる度、温かいものが自分を包んだ。恋がどんなもので、愛がどんなものか知った。
──お前の気持ちを独り占めしたい。
いいよな?
じっと横顔を見つめていたら、繋いでいた手が離れ頬を撫でられる。三日月みたいに目を細め笑う彼が、耳をなぞり髪を撫でた。まるで”愛しい”とでも言うように。
「で?」
電話を切った彼に問いかけると、途端に渋い顔。
「会うことになった。会って話すことに」
「ふーん」
ちゃんと別れられるのか? というように。
「相手連れて来てって言われてるんだけど」
「は?」
「相手に納得したら別れてくれるって」
「え、つまり」
電車に縋るような瞳を向けられ、さすがの塩田も困る。
「一緒に来てくれる?」
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