R18【同性恋愛】リーマン物語『俺のものになってよ』

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────1話*俺のものになってよ

6・不機嫌な塩田と困惑の電車【R】

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****side■電車

「塩田ー?」
 朝、起きたら彼が不機嫌だった。怒っているとはちょっと違うようなのだが。
「何だ」
「何か怒ってる?」
「は?」

──受け答えはいつもと変わらないんだけど。
 酔ってた時、何かしちゃったのかな?

「昨日、俺嫌なことしちゃった?」
「別に」
 ソファーに足を組んで腰掛ける彼を、後ろから抱き締める。顔に触れる彼の髪からはシャンプーの香りがした。
「髪、ちゃんと乾かしたのか?」
 先にシャワーを浴びた彼は、チラリとこちらに視線を向けて。
「うん」
 ちゅっと首筋に口づけ、微笑した。すると塩田はため息をつく。
「隣、いいよね?」
 不機嫌な理由が知りたかった。塩田はただ手の平を上に向け、”どうぞ”という仕草をするだけ。

「なんで、ムッとしてるの?」
「お前には関係な……いこともないけど」
「え?」
 それはつまり関係していると言うことではないのか?
「お前が途中で寝るから悪いんだ」

──なんのこと?
 俺、何かした?

「なんでもない」
 ”覚えていないならいい”と言われてしまう。しかし電車は食い下がった。
「イチャイチャしようよ、機嫌直して?」
「断る」
「なんでー」
「!」
 何故か塩田が一瞬、凄く驚いた顔をして、口づけをくれる。
「しお……た?」
「泣きたいのは、俺のほうなのに」
 そういって電車の肩に額をつける塩田の背中に、腕を回す。
「泣きそうな顔やめろよ」
「してないよ」
「してた」

 顔をあげると優しい瞳を向けられ、心拍数が上がっていくのを感じた。いつもと違う優しい表情に心が奪われてゆく。
「早く彼女と別れて」
 ”俺だけのものになれよ”
 耳元で囁かれぐいっと引かれた。
「電話……する」
「ん」
 彼の唇に親指の腹でなぞるように触れる。柔らかい唇、滑らかな首筋を撫で耳を噛む。
「なんだよ、俺を食う気か?」
 眉を寄せ困ったように笑う塩田をソファーに押し付け唇を奪うと、上体を起こしスマホに手を伸ばした。


****side■塩田

『ったく、電車のバカ』
 引き抜こうとしたら意外と強めに握られていて、手を解こうとして擦れる。
『く……』

──やばい、気持ちいい。

 その後何をしたのかは……。
 隣で電話をかけている電車にチラリと視線を向け、昨夜のことを思い出し額に手をやる。人として、やってはいけないことした。塩田としては思い出したくも無い醜態である。

──悪いの俺じゃないから。
 電車が途中で人のものを握り締めて寝るのがいけないんだよ。

 起き上がった塩田の手を握ったまま電話口で話をしている彼。恋は人を狂わせる。どうにも出来ない独占欲が塩田の心を支配してゆく。

「悪いの俺なのは分かってるよ。でもごめん、好きな人がいるんだ」

 ”好きな人”
 電車に好きと言われる度、温かいものが自分を包んだ。恋がどんなもので、愛がどんなものか知った。

──お前の気持ちを独り占めしたい。
 いいよな?

 じっと横顔を見つめていたら、繋いでいた手が離れ頬を撫でられる。三日月みたいに目を細め笑う彼が、耳をなぞり髪を撫でた。まるで”愛しい”とでも言うように。

「で?」
 電話を切った彼に問いかけると、途端に渋い顔。
「会うことになった。会って話すことに」
「ふーん」
 ちゃんと別れられるのか? というように。
「相手連れて来てって言われてるんだけど」
「は?」
「相手に納得したら別れてくれるって」
「え、つまり」
 電車に縋るような瞳を向けられ、さすがの塩田も困る。
「一緒に来てくれる?」
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