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────1話*俺のものになってよ
3・彼の優しい愛に溺れて
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****side■電車
気付けば仮眠室から課長の唯野は居なくなっていた。
諦めてくれたのかと少しホッとする電車。腕の中の塩田はぐったりとしている。
「大丈夫?」
と問えば、
「ああ」
と短い返事。
──言うなら今だよね?
さっき、好きって言ってくれたよね?
「塩田」
「ん……」
「恋人になって」
勇気を出して言葉にすると、塩田がゆっくりと顔を上げる。眉を寄せ、何故か険しい顔をしていた。
「断る」
「え……」
塩田は怒っているようで。
そんな彼の姿に、電車は泣きそうになる。
「なんで? なんでだよっ」
「っ」
電車は思わず感情的になり、声を荒げた。
「だって…」
”お前、彼女居るじゃん”
小さく苦しげな声で。
”二股なんて、冗談じゃねえぞ……”
「っ……やめ」
あまりに愛しくて口づけた、逃げる彼を押さえつけて。
「別れようってちゃんと話したよ」
「は?」
”つまり別れたわけではない”のだと察した彼が、電車の胸を押し返す。
「拗れているだけで……ちゃんと別れるから」
「とっとと、別れろよ」
顔を歪める塩田を、電車はぎゅっと抱き締める。
「ごめん、塩田」
怒りながらも電車の背中に手を回す彼の耳たぶを噛む。
「別れたら、つき合ってくれる?」
言葉にして欲しいなんて望んではいけないのは分かってる。塩田が言葉にしてくれる可能性は低い。ガッカリするのは自分だし、都合が良すぎる。
「付き合って欲しければ、早く別れろ」
──何、可愛いんだけど……。
付き合うとは言ってくれないものの、それはYESと同等。
一年かけて距離を縮めてきた甲斐があったというものだ。
塩田はストレートな人間だ。らしいなと思うと顔がにやける。
「何笑ってるんだよ」
と不機嫌な塩田。
「塩田、好き」
もう付き合っている気分になっている電車は、じっと彼を見つめそう口にする。だが、塩田はさらにムッとした。
「今すぐ、別れろ」
「ええええ」
「ほら、早く」
いつになく強引な塩田に自分のスマホをぐりぐりと押し付けられて、電車は困惑した。
「ちょっと待ってよ、さっき電話したばかりだしっ」
「うるさい」
──くうううううッ。
塩田、可愛いっ。
いつだって我が道を行く彼。
それでも他人に対し、自分を押し付けるようなことは今までしなかった。
早く別れろということは、早く付き合いたいということに相当するのではないだろうか?
あまりにもポジティブ過ぎる思考だが、それくらいに電車は浮かれていたのである。
それほどに塩田の競争率は高い。
電車は自分がモテるということには無自覚であり、塩田しか眼中になかった為、彼の不安にはまったく気づいていなかったのだった。
気付けば仮眠室から課長の唯野は居なくなっていた。
諦めてくれたのかと少しホッとする電車。腕の中の塩田はぐったりとしている。
「大丈夫?」
と問えば、
「ああ」
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──言うなら今だよね?
さっき、好きって言ってくれたよね?
「塩田」
「ん……」
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「断る」
「え……」
塩田は怒っているようで。
そんな彼の姿に、電車は泣きそうになる。
「なんで? なんでだよっ」
「っ」
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「だって…」
”お前、彼女居るじゃん”
小さく苦しげな声で。
”二股なんて、冗談じゃねえぞ……”
「っ……やめ」
あまりに愛しくて口づけた、逃げる彼を押さえつけて。
「別れようってちゃんと話したよ」
「は?」
”つまり別れたわけではない”のだと察した彼が、電車の胸を押し返す。
「拗れているだけで……ちゃんと別れるから」
「とっとと、別れろよ」
顔を歪める塩田を、電車はぎゅっと抱き締める。
「ごめん、塩田」
怒りながらも電車の背中に手を回す彼の耳たぶを噛む。
「別れたら、つき合ってくれる?」
言葉にして欲しいなんて望んではいけないのは分かってる。塩田が言葉にしてくれる可能性は低い。ガッカリするのは自分だし、都合が良すぎる。
「付き合って欲しければ、早く別れろ」
──何、可愛いんだけど……。
付き合うとは言ってくれないものの、それはYESと同等。
一年かけて距離を縮めてきた甲斐があったというものだ。
塩田はストレートな人間だ。らしいなと思うと顔がにやける。
「何笑ってるんだよ」
と不機嫌な塩田。
「塩田、好き」
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「今すぐ、別れろ」
「ええええ」
「ほら、早く」
いつになく強引な塩田に自分のスマホをぐりぐりと押し付けられて、電車は困惑した。
「ちょっと待ってよ、さっき電話したばかりだしっ」
「うるさい」
──くうううううッ。
塩田、可愛いっ。
いつだって我が道を行く彼。
それでも他人に対し、自分を押し付けるようなことは今までしなかった。
早く別れろということは、早く付き合いたいということに相当するのではないだろうか?
あまりにもポジティブ過ぎる思考だが、それくらいに電車は浮かれていたのである。
それほどに塩田の競争率は高い。
電車は自分がモテるということには無自覚であり、塩田しか眼中になかった為、彼の不安にはまったく気づいていなかったのだった。
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