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────0話*出会いと恋
14・塩田vs恋人になりたいと切望す、電車
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****side■電車
「どうかしたのか?」
彼の家は会社から五分。
ほんとにすぐそこで。
副社長皇の暴挙のせいで仕事が終わらず残業になったにも関わらず、塩田は文句一つ言わなかった。
そんな彼を電車は以前から尊敬している。いつだって仕事に対して文句を言ったことがない。疲れなど見せず背筋を伸ばして歩く彼は魅力的で、つい見惚れてしまっていた。
「ううん」
と首を横に降る電車。
「コンビニ寄っていいか?」
塩田はいつになく、優しい声音で問う。手を繋ぎたいなと思った。
月が綺麗な夜だ。たった数十分、こうやって彼を独り占めできる。
塩田の傍にはなんだかんだいつも誰かしらがいて、二人きりになんてとてもじゃないがなれない。
電車は塩田に触れようとして伸ばした手を引っ込める。
──触れたい……。
塩田に。
「ん」
いいよという意味合いで、短く返答をすれば、
「なんだよ、大人しいな」
と彼が不思議そうにこちらを見つめた。
家に着いてしまえば、手は繋げない。
明日、二人きりになれる保証もない。だとするなら……。
「塩田」
「うん?」
「手、繋いでいい?」
“子供か?”とからかわれるかもしれない。なんたって塩な男だ。微妙な恋心なんて理解……できるわけがない。
そう、思った時だった。
「寒いのか?」
塩田は電車に向け、手を差し出したのである。
「いいの?」
と電車は思わず、彼に問う。
「繋ぎたいといったのは、そっちだろ」
眉を寄せる彼。
「恋人だと思われちゃうよ?」
世は同性婚可能な時代。見られるとしたら、そういう目だ。
「俺、塩田が好きなんだよ? ちゃんとわかってる?」
そんなことを言う電車に、さすがの塩田も困った顔をする。
「どうしたいんだよ」
もっともだと思った。
「塩田に好かれたい」
と言えば、
「嫌いじゃない」
という返答。
──それは恋愛感情じゃないよね。
泣きそうな顔をしていたのだろうか?
電車はぐいっと腕を掴まれ、彼に口づけられる。
驚いていたら塩田はスッと離れた。彼の艶やかな黒いストレートの髪が、ハラリと落ちる。
「塩田!」
「?」
腰を引き寄せ貪るように口づけた。
塩田は嫌がりもせず、舌を絡める。
彼は嘘をつかない。だから、好きとは言ってくれないのだ。
「早く、買い物して帰ろう」
唇が離れると彼はそう言った。
──好きって言って。
嘘でもいいから。
伝わることのない想いを抱え、彼に続く。
嘘でもいいからなんて、強がりでしかないことに気づき唇を噛みしめる。
本当はちゃんと好かれたいのだ。
そんな様子を塩田が心配そうに見ていたことに、電車は気づかないのだった。
「どうかしたのか?」
彼の家は会社から五分。
ほんとにすぐそこで。
副社長皇の暴挙のせいで仕事が終わらず残業になったにも関わらず、塩田は文句一つ言わなかった。
そんな彼を電車は以前から尊敬している。いつだって仕事に対して文句を言ったことがない。疲れなど見せず背筋を伸ばして歩く彼は魅力的で、つい見惚れてしまっていた。
「ううん」
と首を横に降る電車。
「コンビニ寄っていいか?」
塩田はいつになく、優しい声音で問う。手を繋ぎたいなと思った。
月が綺麗な夜だ。たった数十分、こうやって彼を独り占めできる。
塩田の傍にはなんだかんだいつも誰かしらがいて、二人きりになんてとてもじゃないがなれない。
電車は塩田に触れようとして伸ばした手を引っ込める。
──触れたい……。
塩田に。
「ん」
いいよという意味合いで、短く返答をすれば、
「なんだよ、大人しいな」
と彼が不思議そうにこちらを見つめた。
家に着いてしまえば、手は繋げない。
明日、二人きりになれる保証もない。だとするなら……。
「塩田」
「うん?」
「手、繋いでいい?」
“子供か?”とからかわれるかもしれない。なんたって塩な男だ。微妙な恋心なんて理解……できるわけがない。
そう、思った時だった。
「寒いのか?」
塩田は電車に向け、手を差し出したのである。
「いいの?」
と電車は思わず、彼に問う。
「繋ぎたいといったのは、そっちだろ」
眉を寄せる彼。
「恋人だと思われちゃうよ?」
世は同性婚可能な時代。見られるとしたら、そういう目だ。
「俺、塩田が好きなんだよ? ちゃんとわかってる?」
そんなことを言う電車に、さすがの塩田も困った顔をする。
「どうしたいんだよ」
もっともだと思った。
「塩田に好かれたい」
と言えば、
「嫌いじゃない」
という返答。
──それは恋愛感情じゃないよね。
泣きそうな顔をしていたのだろうか?
電車はぐいっと腕を掴まれ、彼に口づけられる。
驚いていたら塩田はスッと離れた。彼の艶やかな黒いストレートの髪が、ハラリと落ちる。
「塩田!」
「?」
腰を引き寄せ貪るように口づけた。
塩田は嫌がりもせず、舌を絡める。
彼は嘘をつかない。だから、好きとは言ってくれないのだ。
「早く、買い物して帰ろう」
唇が離れると彼はそう言った。
──好きって言って。
嘘でもいいから。
伝わることのない想いを抱え、彼に続く。
嘘でもいいからなんて、強がりでしかないことに気づき唇を噛みしめる。
本当はちゃんと好かれたいのだ。
そんな様子を塩田が心配そうに見ていたことに、電車は気づかないのだった。
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