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────0話*出会いと恋
5・課長の昇進と塩田の心遣い
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****side■塩田
「悪いな、手伝わせて」
塩田から見て課長の唯野と言う男は一言でいうと『忍耐』。
帰り支度をし、玄関から社外へ出ると彼は駅に向かうという。塩田のマンションは駅とは逆だった。
「いや」
それで帰ろうとすると、唯野に引き留められる。
『軽く夕飯を食べていかないか?』と誘われたのだ。
断るつもりだった塩田の気が変わったのは、この近くに美味しい店があると言われたから。
引っ越して間もない塩田はこの辺のことを知らなかった。
そのため、周辺に何があるか知る良い機会だと思ったのである。
そこは株原の社員が良く行く店だという。
その後世間話から、ふと唯野自身の話しとなった。彼の話しでは『自分は昇進が遅く、同期の者の中には総括部長になった者までいる』らしい。
我が社ではその名の通り”総括”。全部署の総括という役割。なので例えば隣の商品部の部長などよりも遥かに上だという。
彼の話を聞いていると、まるで自分自身を恥じているようにも感じた。
だが、苦情係の直属の上司は副社長。位置づけで言えば、かなり上なのではないか。塩田は組織について詳しく知らなかった為、単純にそう思ったのである。
普段なら、気落ちしている人を励ましたりなどしないのだが。
「悪い、そこに寄る」
と言って徐に文具屋へ。
上司を私用につき合わせることなど、普通はしないだろう。
しかし塩田は今、必要だと思ったのだ。
「これ、お祝」
長方形の箱を彼に差し向けると、凄く驚いた顔をされた。
「社長の見る目は確かだと言ったのは課長だ。この部署を任せられるのは、あんたしかいないって社長が思ったんだろ?」
友人すらいたことのない塩田。
どんな言葉を向けたら彼が自分自身に自信を持てるのかわからない。
それでも、自分なりに励ましたつもりだった。
「ありがと。開けて良い?」
驚きに目を見開いていた彼が嬉しそうに笑う。
「ここでか? 家で開けろよ」
流石の塩田も眉を顰めた。
「昇進は昇進だろう? 胸を張ればいいじゃないか」
塩田の言葉に彼が頷く。
誰かを励まそうとしたのは初めてだった。
翌日、彼の胸ポケットに刺さった万年筆を見て『気に入ってくれたのだな』くらいにしか思っていなかったが、確実に何かが変わり始めていたのである。
翌日から連日の残業。
しかも唯野は、ちょっちゅう社長に呼ばれる始末。
新入社員三人だけでどうしろと言うんだと思ったところに、わが社では有名らしい副社長が現れた。
「業務は順調かい?」
全身ブランドで固め、ふんわりと香水を纏ったキラキラした男は、オーバーアクションをしながら苦情係に顔を出したのである。
変わった奴が来た。
塩田は自分のことを棚にあげつつ、そんなことを思ったのだった。
「悪いな、手伝わせて」
塩田から見て課長の唯野と言う男は一言でいうと『忍耐』。
帰り支度をし、玄関から社外へ出ると彼は駅に向かうという。塩田のマンションは駅とは逆だった。
「いや」
それで帰ろうとすると、唯野に引き留められる。
『軽く夕飯を食べていかないか?』と誘われたのだ。
断るつもりだった塩田の気が変わったのは、この近くに美味しい店があると言われたから。
引っ越して間もない塩田はこの辺のことを知らなかった。
そのため、周辺に何があるか知る良い機会だと思ったのである。
そこは株原の社員が良く行く店だという。
その後世間話から、ふと唯野自身の話しとなった。彼の話しでは『自分は昇進が遅く、同期の者の中には総括部長になった者までいる』らしい。
我が社ではその名の通り”総括”。全部署の総括という役割。なので例えば隣の商品部の部長などよりも遥かに上だという。
彼の話を聞いていると、まるで自分自身を恥じているようにも感じた。
だが、苦情係の直属の上司は副社長。位置づけで言えば、かなり上なのではないか。塩田は組織について詳しく知らなかった為、単純にそう思ったのである。
普段なら、気落ちしている人を励ましたりなどしないのだが。
「悪い、そこに寄る」
と言って徐に文具屋へ。
上司を私用につき合わせることなど、普通はしないだろう。
しかし塩田は今、必要だと思ったのだ。
「これ、お祝」
長方形の箱を彼に差し向けると、凄く驚いた顔をされた。
「社長の見る目は確かだと言ったのは課長だ。この部署を任せられるのは、あんたしかいないって社長が思ったんだろ?」
友人すらいたことのない塩田。
どんな言葉を向けたら彼が自分自身に自信を持てるのかわからない。
それでも、自分なりに励ましたつもりだった。
「ありがと。開けて良い?」
驚きに目を見開いていた彼が嬉しそうに笑う。
「ここでか? 家で開けろよ」
流石の塩田も眉を顰めた。
「昇進は昇進だろう? 胸を張ればいいじゃないか」
塩田の言葉に彼が頷く。
誰かを励まそうとしたのは初めてだった。
翌日、彼の胸ポケットに刺さった万年筆を見て『気に入ってくれたのだな』くらいにしか思っていなかったが、確実に何かが変わり始めていたのである。
翌日から連日の残業。
しかも唯野は、ちょっちゅう社長に呼ばれる始末。
新入社員三人だけでどうしろと言うんだと思ったところに、わが社では有名らしい副社長が現れた。
「業務は順調かい?」
全身ブランドで固め、ふんわりと香水を纏ったキラキラした男は、オーバーアクションをしながら苦情係に顔を出したのである。
変わった奴が来た。
塩田は自分のことを棚にあげつつ、そんなことを思ったのだった。
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