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────0話*出会いと恋
1・その会社、クレイジーにつき
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****side■塩田(平社員)
社長が苦情係の課長……通常は係長なのだろうが、役職は課長らしい……を連れて塩田家にやってきた日のことを思い出す。
後から知るが、苦情係の正式名称は【悪質クレーマー対策課】であり、そもそもこの会社には係長という職はないらしい。
それはさておき。
塩田の両親は彼のやることなすことに反対する親である。
それはもう、パブロフの犬のように。
車の免許を取るのは反対するし、就職も反対するし、マンションを買うのも反対された。
『以往ちゃん。働かなくても、一生遊べるくらいお金はあるのよ? 社会なんかに出ちゃダメ!』
母にそう言われたが、課長が何とか説得……あれは演説だ……をしてくれ、今こうしてここに居るわけだ。
二時間だか四時間だか忘れたが、課長の演説により両親は折れた。
仕方がないので免許は諦めたが、会社から五分のマンションを一括購入。とはいえ電車に乗ることも反対されているので、致し方ない。
別に両親が過保護と言うわけではない。
塩田以往とは誰に対しても『忖度なしの塩対応』。トラブルが多発しそうだ! と言うことで反対されているのである。
だが、どれだけ反対されようが我が道を行くのが塩田。
両親の心配など、知ったことではない。
塩田がエレベーターの箱から降りると、廊下で人が寝転んでいた。
”いきなりなんだ? 大丈夫か?”と思いつつ相手の顔を覗き込むと、童顔で金髪の男性が涙目でこちらを見上げる。
塩田は”手など貸さんぞ”というジェスチャーをした。
「ところで、なんでそんなところで寝っ転がっているんだ?」
と塩田。
「思った以上に絨毯が柔らかくて」
と彼。
力加減を間違え、転倒したらしい。おっちょこちょいにもほどがある。
後に知ることとなったが、彼の名は『電車紀夫』同じ苦情係に配属された同僚。
「なんでもいいが、こんなところで寝ているのはどうかと思うぞ?」
「ああ、うん」
彼は素直に立ち上がろうとして、更に転倒した。
──一体、どういうバランス感覚をしているんだ?
仕方ないなと言うように、塩田は彼に向って手を差し伸べる。
「ごめん。ありがとう」
塩田は電車を引っ張り起すと、やれやれと肩を竦めた。
先が思いやられる。
「君も新入社員なの?」
と彼。
「ああそうだが。そっちは?」
「俺もなんだよね。でも不安で」
彼の高すぎず低すぎない声のトーンが心地よい。
塩田はエレベーター内で聴いた『今年は副社長にも負けず劣らずの童顔のイケメンが入社した』という噂を思い出す。負けず劣らずが童顔を指しているのか、それともイケメンを指しているのか定かではないが頭髪はベージュ系の金髪と言っていたので彼に違いないだろうと思った。
確かに整った顔をしているし、優し気だ。騒がれるのも納得する。
だが社交的に見える彼がとても不安そうにしているのは意外だった。
「まあなんとかなるだろ」
塩田は思ったことをそのまま述べ、再び苦情係の方向へ足を向ける。
するとほどなくして『苦情係・商品部』と書かれたプレートを見つけた。
「おまえ……は」
名前を聞いていなかったなと思い、なんと呼ぶか考えていると、
「電車」
と唐突に自己紹介される。
「君は?」
やはり彼の声は心地よい。
「塩田」
塩田がぶっきらぼうにそう答えると、
「塩田くん、よろしくね」
と彼が優しい笑みを浮かべた。
その笑みを見て塩田は”まるで太陽みたいだな”と思ったのだった。
社長が苦情係の課長……通常は係長なのだろうが、役職は課長らしい……を連れて塩田家にやってきた日のことを思い出す。
後から知るが、苦情係の正式名称は【悪質クレーマー対策課】であり、そもそもこの会社には係長という職はないらしい。
それはさておき。
塩田の両親は彼のやることなすことに反対する親である。
それはもう、パブロフの犬のように。
車の免許を取るのは反対するし、就職も反対するし、マンションを買うのも反対された。
『以往ちゃん。働かなくても、一生遊べるくらいお金はあるのよ? 社会なんかに出ちゃダメ!』
母にそう言われたが、課長が何とか説得……あれは演説だ……をしてくれ、今こうしてここに居るわけだ。
二時間だか四時間だか忘れたが、課長の演説により両親は折れた。
仕方がないので免許は諦めたが、会社から五分のマンションを一括購入。とはいえ電車に乗ることも反対されているので、致し方ない。
別に両親が過保護と言うわけではない。
塩田以往とは誰に対しても『忖度なしの塩対応』。トラブルが多発しそうだ! と言うことで反対されているのである。
だが、どれだけ反対されようが我が道を行くのが塩田。
両親の心配など、知ったことではない。
塩田がエレベーターの箱から降りると、廊下で人が寝転んでいた。
”いきなりなんだ? 大丈夫か?”と思いつつ相手の顔を覗き込むと、童顔で金髪の男性が涙目でこちらを見上げる。
塩田は”手など貸さんぞ”というジェスチャーをした。
「ところで、なんでそんなところで寝っ転がっているんだ?」
と塩田。
「思った以上に絨毯が柔らかくて」
と彼。
力加減を間違え、転倒したらしい。おっちょこちょいにもほどがある。
後に知ることとなったが、彼の名は『電車紀夫』同じ苦情係に配属された同僚。
「なんでもいいが、こんなところで寝ているのはどうかと思うぞ?」
「ああ、うん」
彼は素直に立ち上がろうとして、更に転倒した。
──一体、どういうバランス感覚をしているんだ?
仕方ないなと言うように、塩田は彼に向って手を差し伸べる。
「ごめん。ありがとう」
塩田は電車を引っ張り起すと、やれやれと肩を竦めた。
先が思いやられる。
「君も新入社員なの?」
と彼。
「ああそうだが。そっちは?」
「俺もなんだよね。でも不安で」
彼の高すぎず低すぎない声のトーンが心地よい。
塩田はエレベーター内で聴いた『今年は副社長にも負けず劣らずの童顔のイケメンが入社した』という噂を思い出す。負けず劣らずが童顔を指しているのか、それともイケメンを指しているのか定かではないが頭髪はベージュ系の金髪と言っていたので彼に違いないだろうと思った。
確かに整った顔をしているし、優し気だ。騒がれるのも納得する。
だが社交的に見える彼がとても不安そうにしているのは意外だった。
「まあなんとかなるだろ」
塩田は思ったことをそのまま述べ、再び苦情係の方向へ足を向ける。
するとほどなくして『苦情係・商品部』と書かれたプレートを見つけた。
「おまえ……は」
名前を聞いていなかったなと思い、なんと呼ぶか考えていると、
「電車」
と唐突に自己紹介される。
「君は?」
やはり彼の声は心地よい。
「塩田」
塩田がぶっきらぼうにそう答えると、
「塩田くん、よろしくね」
と彼が優しい笑みを浮かべた。
その笑みを見て塩田は”まるで太陽みたいだな”と思ったのだった。
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