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────0話*出会いと恋
0・想定外の出来事
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****side■塩田以往(平社員)
「塩田」
廊下で背後から名前を呼ばれ、塩田以往はそちらに目を向けた。
塩田を呼び止めたのは全身ブランドで固めたキラキライケメン男こと、我が社の副社長の皇優一。
めんどくさいなと思いながらも一応立ち止まるが、何も相手が目上の者だからではなかった。今、無視しても状況は変わらないだろう。
「なにか?」
いつもの冷静な態度で皇に問う。
──なんでこんなところにいるんだろうな、俺は。
「今日こそ逃さないぞ」
腕を掴まれ、彼をじっと見つめ返す塩田。
もっとも、彼が塩田の部署に手伝いに来るのはほぼ毎日。
逃げた覚えなどない。
「放せ」
「誰に向かって口を聞いている? もっとも、お前のそういうところがそそるんだがな」
魔王のような物言いだが、それは社内でのみ。彼がこんな風なのは社長の意向らしい。
「気持ち悪いことを言うな」
だが”そそる”だなどと言われたのは初めてである。
なんだか嫌な予感がした。
そのため塩田は掴まれた腕を振り払おうとしたが、そのまま近くの部屋に連れ込まれたのだった。
「おい!」
ガチャリと鍵を締められ声を荒げたが、彼は放してはくれない。
塩田は仕方なく壁に背を預けた。
「俺をどうしたいわけ」
「わかってるくせに」
と副社長はフッと笑う。
分かったことがかつて一度でもあっただろうか?
塩田はため息をついた。彼に絡まれるのは日常茶飯事。今に始まったことではないが。
「婚約者がいるくせに」
このような茶番はよせと言ったつもりだった。自分などにかまっていないで、婚約者にかまえと。
「なんだ、嫉妬か?」
皇の言葉に、なぜそのように受け取るのだと頭痛がした。
「誰がそんなものするかよ」
塩田がぷいっと横を向くと、彼に襟元を掴まれる。
「殺す気か?」
と問えば、彼は一瞬複雑な表情をしたが、
「いいや、可愛がってやるさ」
と不敵な笑みを浮かべた。
──ああ、面倒なやつに捕まったな。
塩田がこの会社へ就職してから一年が経つ。
恋人いない歴イコール年齢の塩田は誰に対しても忖度なしの塩対応だった為、当然学生時代に友人などはいなかった。
しかしこの会社に入り友人と言える者が出来た。
同僚の電車紀夫と板井小指。想定外のことが次から次へと怒る日々。だが、さすがに恋愛沙汰に巻き込まれるなんて想像していなかったのである。
『以往ちゃん。絶対に課長さんに迷惑をかけちゃ駄目よ!』
(株)原始人。変わった名前の会社だなと思いながら、塩田以往は全面ガラス張りのビルを見上げる。
母の忠告が頭をよぎるが、そんなことは知ったことではない。
社長に土下座をされてまで入った会社だ。好きにさせてもらう。
そんなことを思いながら、塩田は社の玄関に足を踏み入れた。
左右にスッと開く自動ドア。
中もピカピカしており受付けも視界には入るが、それよりも中央にオブジェのようにように置かれた花壇が気になる。
”ホテルじゃあるまいし”と思いながら上を見上げた。
ロビーはどうやら吹き抜けになっておりエスカレーターが設置されてはいるが、皆奥のエレベーターを使用しているようである。
エスカレーターはお客様用なのだろう。
邪魔な花壇だなと思いながらも、塩田は皆に習ってエレベーターに向かった。
塩田は今日からここの社員となる。
配属先は今年できたばかりの『苦情係』。正式名称があったはずだが、忘れてしまった。上司が一人と新入社員三人で回すとのこと。
どんな業務なのか名前で想像はつくが、新入社員三人とはまた無茶ぶりが過ぎるのではないだろうか?
そんなことを思いながら、塩田はエレベーターの箱に乗り込んだのだった。
「塩田」
廊下で背後から名前を呼ばれ、塩田以往はそちらに目を向けた。
塩田を呼び止めたのは全身ブランドで固めたキラキライケメン男こと、我が社の副社長の皇優一。
めんどくさいなと思いながらも一応立ち止まるが、何も相手が目上の者だからではなかった。今、無視しても状況は変わらないだろう。
「なにか?」
いつもの冷静な態度で皇に問う。
──なんでこんなところにいるんだろうな、俺は。
「今日こそ逃さないぞ」
腕を掴まれ、彼をじっと見つめ返す塩田。
もっとも、彼が塩田の部署に手伝いに来るのはほぼ毎日。
逃げた覚えなどない。
「放せ」
「誰に向かって口を聞いている? もっとも、お前のそういうところがそそるんだがな」
魔王のような物言いだが、それは社内でのみ。彼がこんな風なのは社長の意向らしい。
「気持ち悪いことを言うな」
だが”そそる”だなどと言われたのは初めてである。
なんだか嫌な予感がした。
そのため塩田は掴まれた腕を振り払おうとしたが、そのまま近くの部屋に連れ込まれたのだった。
「おい!」
ガチャリと鍵を締められ声を荒げたが、彼は放してはくれない。
塩田は仕方なく壁に背を預けた。
「俺をどうしたいわけ」
「わかってるくせに」
と副社長はフッと笑う。
分かったことがかつて一度でもあっただろうか?
塩田はため息をついた。彼に絡まれるのは日常茶飯事。今に始まったことではないが。
「婚約者がいるくせに」
このような茶番はよせと言ったつもりだった。自分などにかまっていないで、婚約者にかまえと。
「なんだ、嫉妬か?」
皇の言葉に、なぜそのように受け取るのだと頭痛がした。
「誰がそんなものするかよ」
塩田がぷいっと横を向くと、彼に襟元を掴まれる。
「殺す気か?」
と問えば、彼は一瞬複雑な表情をしたが、
「いいや、可愛がってやるさ」
と不敵な笑みを浮かべた。
──ああ、面倒なやつに捕まったな。
塩田がこの会社へ就職してから一年が経つ。
恋人いない歴イコール年齢の塩田は誰に対しても忖度なしの塩対応だった為、当然学生時代に友人などはいなかった。
しかしこの会社に入り友人と言える者が出来た。
同僚の電車紀夫と板井小指。想定外のことが次から次へと怒る日々。だが、さすがに恋愛沙汰に巻き込まれるなんて想像していなかったのである。
『以往ちゃん。絶対に課長さんに迷惑をかけちゃ駄目よ!』
(株)原始人。変わった名前の会社だなと思いながら、塩田以往は全面ガラス張りのビルを見上げる。
母の忠告が頭をよぎるが、そんなことは知ったことではない。
社長に土下座をされてまで入った会社だ。好きにさせてもらう。
そんなことを思いながら、塩田は社の玄関に足を踏み入れた。
左右にスッと開く自動ドア。
中もピカピカしており受付けも視界には入るが、それよりも中央にオブジェのようにように置かれた花壇が気になる。
”ホテルじゃあるまいし”と思いながら上を見上げた。
ロビーはどうやら吹き抜けになっておりエスカレーターが設置されてはいるが、皆奥のエレベーターを使用しているようである。
エスカレーターはお客様用なのだろう。
邪魔な花壇だなと思いながらも、塩田は皆に習ってエレベーターに向かった。
塩田は今日からここの社員となる。
配属先は今年できたばかりの『苦情係』。正式名称があったはずだが、忘れてしまった。上司が一人と新入社員三人で回すとのこと。
どんな業務なのか名前で想像はつくが、新入社員三人とはまた無茶ぶりが過ぎるのではないだろうか?
そんなことを思いながら、塩田はエレベーターの箱に乗り込んだのだった。
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