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────6話*狂いだした歯車と動き出す運命
4・馴染んでいく日常に
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****♡Side・電車
「で? 何処に行くって」
と言う皇に電車は雑誌を開きながら、
「三人でも楽しめるところがいいな」
と返答した。
”場所を聞いているんだぞ”と言われるのは覚悟の上だ。
だが皇は予想に反して、
「じゃあ、キャンプか城だな」
と雑誌のページを繰った。
その返答に反応したのは、塩田である。
──そういえば、塩田は城に住みたがっていたものねえ。
「城にしようよ」
いつもは尊大な態度なのに、自分が運転しない為に遠慮しているのだろう塩田の代わりに提案すれば、彼が目に見えて嬉しそうな顔をした。
可愛いなあと思っていると、
「紀夫も城の良さがわかるのか?」
と期待に満ちた瞳でじっとこちらを見つめる塩田。
そんな彼を目を細め、愛しそうに見ている皇が視界の端に入る。
本当に塩田のことが好きなのだなと思った。
自分たちはとても不思議な関係だ。
恋人とライバルと一緒に暮らしている。
それなのに、こんなにも心穏やかでいられるなんて。
不安に思っていたこともあるけれど、今は塩田が幸せならいいなと思う。
「塩田ほどじゃないけれど」
電車は無難な返答をし、皇の方へ合図を送る。
「よし、塩田のお奨めの城に行こうじゃないか」
と皇。
塩田の行きたいところへ上手く話を持っていく皇を、電車はさすがだなあと思っていた。自分も下の兄弟はたくさんいるが、うまく立ててあげることはできない。
嬉しそうにページを捲る塩田を見ながら、伊達に副社長をしているわけではないのだなと心の中で皇を尊敬していると、
「どうかした? 電車」
と皇に問われる。
「いや、いつ何時もリーダーシップを発揮するなあと思って」
電車が思っていたことを素直に言葉にすると、
「塩田はいつ何時も電車を立てるよな」
と肩を竦めた。
上手い返しをしたつもりなのだろう。
しかし、
「当たり前だろう。恋人なんだから」
と塩田から普通の言葉が返ってきて、二人は顔を見合わせる。
そんな二人に、
「なんだよ?」
と塩田。
「ここは乗るところじゃないのか?」
皇はビールのグラスに手を伸ばしながら、くくくと笑う。
「何に」
お目当ての城のページが見つかったのか、三人の中央へ雑誌を押しやりながら、不思議そうに問う塩田。
「何にって……まあいい」
皇は雑誌を覗き込むと、ビールグラスを傾けた。
電車は枝豆に手を伸ばしながら、音楽プレイヤーのリモコンに指先で触れる。聴きなれた軽快な音楽がスピーカーから流れ始め、塩田は茄子の芝漬けに箸をつけた。
こんな日常にも、いつの間にか慣れ始めている。
まるで以前からこうだったかのように。
「そういえば、夕飯これだけでいいの?」
電車はテーブル裏の薄い棚に手を差し入れると、出前のチラシを引き出しながら、二人に問う。
「食べに行くとしても、吞んじゃってるから行くなら会社の近くの南国バナナだな」
と電車からチラシを受け取った皇が、それらを広げながら。
「行ってもいいけれど、会社の人に会いそう」
と電車。
「それは面倒。俺、寿司」
と塩田はその中の一枚を引き出すと早速タブレットでQRコードを読み取って、サイトにアクセスしている。
「電車も寿司でいいなら、俺が出すから三人前」
皇はチラリと塩田の手元に視線を送っただけで、チラシをまとめた。
「塩田、どれにするの?」
「これ」
電車の言葉に画像を指す、塩田。
「じゃあそれ三人前で」
言って立ち上がると、電車は冷蔵へ向かい歩き出す。
こんな穏やかな毎日が続けばいいなと思いながら。
「で? 何処に行くって」
と言う皇に電車は雑誌を開きながら、
「三人でも楽しめるところがいいな」
と返答した。
”場所を聞いているんだぞ”と言われるのは覚悟の上だ。
だが皇は予想に反して、
「じゃあ、キャンプか城だな」
と雑誌のページを繰った。
その返答に反応したのは、塩田である。
──そういえば、塩田は城に住みたがっていたものねえ。
「城にしようよ」
いつもは尊大な態度なのに、自分が運転しない為に遠慮しているのだろう塩田の代わりに提案すれば、彼が目に見えて嬉しそうな顔をした。
可愛いなあと思っていると、
「紀夫も城の良さがわかるのか?」
と期待に満ちた瞳でじっとこちらを見つめる塩田。
そんな彼を目を細め、愛しそうに見ている皇が視界の端に入る。
本当に塩田のことが好きなのだなと思った。
自分たちはとても不思議な関係だ。
恋人とライバルと一緒に暮らしている。
それなのに、こんなにも心穏やかでいられるなんて。
不安に思っていたこともあるけれど、今は塩田が幸せならいいなと思う。
「塩田ほどじゃないけれど」
電車は無難な返答をし、皇の方へ合図を送る。
「よし、塩田のお奨めの城に行こうじゃないか」
と皇。
塩田の行きたいところへ上手く話を持っていく皇を、電車はさすがだなあと思っていた。自分も下の兄弟はたくさんいるが、うまく立ててあげることはできない。
嬉しそうにページを捲る塩田を見ながら、伊達に副社長をしているわけではないのだなと心の中で皇を尊敬していると、
「どうかした? 電車」
と皇に問われる。
「いや、いつ何時もリーダーシップを発揮するなあと思って」
電車が思っていたことを素直に言葉にすると、
「塩田はいつ何時も電車を立てるよな」
と肩を竦めた。
上手い返しをしたつもりなのだろう。
しかし、
「当たり前だろう。恋人なんだから」
と塩田から普通の言葉が返ってきて、二人は顔を見合わせる。
そんな二人に、
「なんだよ?」
と塩田。
「ここは乗るところじゃないのか?」
皇はビールのグラスに手を伸ばしながら、くくくと笑う。
「何に」
お目当ての城のページが見つかったのか、三人の中央へ雑誌を押しやりながら、不思議そうに問う塩田。
「何にって……まあいい」
皇は雑誌を覗き込むと、ビールグラスを傾けた。
電車は枝豆に手を伸ばしながら、音楽プレイヤーのリモコンに指先で触れる。聴きなれた軽快な音楽がスピーカーから流れ始め、塩田は茄子の芝漬けに箸をつけた。
こんな日常にも、いつの間にか慣れ始めている。
まるで以前からこうだったかのように。
「そういえば、夕飯これだけでいいの?」
電車はテーブル裏の薄い棚に手を差し入れると、出前のチラシを引き出しながら、二人に問う。
「食べに行くとしても、吞んじゃってるから行くなら会社の近くの南国バナナだな」
と電車からチラシを受け取った皇が、それらを広げながら。
「行ってもいいけれど、会社の人に会いそう」
と電車。
「それは面倒。俺、寿司」
と塩田はその中の一枚を引き出すと早速タブレットでQRコードを読み取って、サイトにアクセスしている。
「電車も寿司でいいなら、俺が出すから三人前」
皇はチラリと塩田の手元に視線を送っただけで、チラシをまとめた。
「塩田、どれにするの?」
「これ」
電車の言葉に画像を指す、塩田。
「じゃあそれ三人前で」
言って立ち上がると、電車は冷蔵へ向かい歩き出す。
こんな穏やかな毎日が続けばいいなと思いながら。
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