R18【同性恋愛】リーマン物語『俺のものになってよ』

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────5話*俺のものだよ

19・自分の本心と向き合う日

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****♡Side・課長(唯野)

 唯野は一人、マンションのベランダで欄干に腕を置き、階下を見下ろしていた。先ほどから何度も操作しようとしては止めたスマホの画面。自分がどうしたいのか分からなくなって、ため息をつく。

 先日、妻から離婚の話をされた。きっとすごく悩んで決めたことなのだろう。彼女の口から紡がれる真実に少し驚きはしたものの、予想がついていたことでもあった。唯野は”わかった”と一言告げると、離婚届に判を押したのだった。いつかはこうなると思ってはいた。ただ、それが今の時期だったというだけ。

──塩田か……。

 板井に塩田のことを出され、それどころではない自分がいた。それよりも、板井に好きと告白されたことの方がずっと心を占めている。まさか部下に恋心を持たれるとは思っていなかった。
 ベランダに置かれたテーブルにスマホを置くと、胸ポケットにいつも入れている万年筆を取り出す。それは塩田からの昇進祝い。自分にとって宝物だ。
 毎日、社長のパワハラに耐えられたのも、これのお陰だと言える。
「なのに俺は……」
 力づくで塩田を手に入れようとした。板井はそのことを知っているのだろうか。知ればきっと気持ちが変わるに違いない。
 
──全て話した方がいいのかもしれない。
 こうなる前に言うべきだったのに。

 唯野は後悔していた。きっと話すチャンスはあったはず。それを逃してしまった。
 彼の好意が純粋だったとしても自分の汚さを知れば、心は離れてしまうだろう。

 家庭を顧みることのなかった自分。必死だっただけで、そこに愛なんてなかった。
 それは初めから分かっていたのではないか?
 記憶のないあの時間に何があったのか、真実を知った今。彼女に同情できなくなっている。血がつながらなくても愛しい子に変わらない娘。心配なのは我が子だけだった。

『好きにすればいい』
 我ながら、冷たい言葉に寒気がした。すぐに引っ越し先を決め、家を出た自分。
 あの時、板井にはこれ以上心配をかけたくないと思っていた。
「意味なんてなかったな」
 再びため息をつき、決心を固める。彼には全てを話すべきだと思う。どの道、秘書室長と懇意にしているのであれば伝わってしまうだろう。ならば自分の口から話した方が少しはマシなのかもしれない。

 トントンとスマホの画面を叩き、彼に電話をかける。業務以外に部下にかけるのはパワハラなのだろうか、と思いながら。
 数コールして相手が電話口に出る。聞きなれた落ち着いた声なのに、心拍数が上がっていく。

──そういえば、誰かが言っていたな。
 告白は二度しろと。
 一度目は気持ちを知ってもらい、意識させるため。
 二度目が本番だと。

 唯野はそんなことを思い出す。完全に意識してしまっている自分がいるからだ。
 板井に好きだと言われた時、予感はあった。
 いずれ自分は彼に惹かれるだろうという。

『課長?』
 電話が繋がっても一向に話そうとしない唯野に、彼が不思議そうな声を上げる。
「悪い。考え事してた」
『普通、考え事しながらかけませんよね? 電話』
と彼は笑っていた。
「そうだな。なあ、話したいことがあるんだ。うちに来ないか?」
 個人的な誘いはパワハラに当たるんだろうか? そんなことを思いながら言葉を繋ぐ。
『話ですか』
「個人的なやつ」
 暗くならないように極めて明るく言うが、彼には通用しないことも分かっている。

 彼は少し考えた後、
『何があっても自己責任で許されるなら』
と言った。
 それはつまり、何かするということなのだろうか。
「分かった。それなりの覚悟はしておくよ。駅まで迎えに行くから……」
と言いかけたところで阻まれる。
『地図送ってください、車で行きますので』
「いいけど、殺して埋めたりとかしないよな?」
と唯野。
 すると、
『何言ってるんですか!』
と怒られたのだった。
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