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────5話*俺のものだよ
15・社長の思惑と板井の行動
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****♡Side・社長(呉崎)
「そう。秘書室長が板井君にコンタクトを取ったの。面白くなりそうだねえ」
(株)原始人の社長こと呉崎は、社長室の大きな窓から見える景色を眺めながら、通話相手にそう言葉を漏らした。
『放っておいてよろしいので?』
「問題ない。想定外のことだが、思惑通りに事が運べば……唯野君は僕の思い通りになる」
『では、また何かあったら報告致します』
通話相手は指示のみを聞き、失礼しますと言って通話を終了した。
──相変わらずの塩対応だね。
呉崎は全く動じない協力者に肩を竦める。逆らって欲しいわけではないが、ユーモアもなければ意見をすることもない。報告係りとしては申し分ないが、如何せん相手が何を考えているのか分かり兼ねた。
それに比べ唯野は、どんなにパワハラを受けても姿勢を覆すことのない男だ。反発心を表すわけでもなく逆らうわけでもないが、嫌味が一級品。彼にとって自分はストレスかもしれないが、自分にとって彼は良い刺激。
──板井君は僕にとっての切り札だったが、勝手に動いてくれるなら好都合。果たして唯野君の過去を知っても、君の忠誠心は揺らがないのかな?
唯野にとって板井の存在は、本人すら気づいていない弁慶の泣き所。唯野がどれほど彼の存在に支えられているのか、気づいているのは自分だけかもしれない。そう思うと、自然と笑みが零れる呉崎。
──君が悪いんだよ。
僕にとって皇くんがどれほど大切な存在なのか知っているくせに。
それでも彼の防護壁を潜り抜け、何度も皇を抱いたことが自分の自信に繋がっていた。彼の肌の感触、熱、吐息。全てが自分を満たす。そしてその心が手に入るというならば、どんな汚い手でも使うだろう。
それほどに皇は呉崎の心を魅了した。
──板井君を失ったら、君はもう立ってはいられないだろう。
どんな顔をするのか楽しみだよ。
腹黒いと陰で言われている呉崎であったが、皇にしか執着してはいなかったし、唯野にしか憎しみの感情を向けることはなかった。皇に想いを抱く者を蹴落とし、知らず知らずのうちに敵に回していることも気づかずに。策士策に溺れるとは自分のことを言うのだと、後になって後悔することになるとは。
彼は板井の想いや器量を見誤っていたのである。
「社長。会合の……また悪だくみですか?」
「神流川君、君。随分なご挨拶だねえ」
ノックをして入ってきた社長第一秘書の神流川は、手帳を見ながら本日の予定を告げようとしたところで、呉崎の悪どい笑みに気づいたようだ。
「社長ほどじゃありませんよ」
呉崎はこの神流川をとても気に入っている。秘書としても優秀であるが、彼のスパイスの効いた受け答えを気に入り、第一秘書に据えたのだ。
──最も。君が皇くんに惚れてしまったのは、想定外だけれどね。
「ところで何処に行っていたんだね?」
神流川は呉崎が通話をし始めたので、気を利かせ離籍したらしい。いつもなら行先のメモを置いてくはずだが、見当たらなかった。
「秘書室ですよ。隣なのだから、メモは要らないでしょう?」
呉崎の不満を先読みしたのか彼からそういう回答が戻ってくる。
呉崎は先ほどの通話の内容を思い出し、
「秘書室長は元気かね?」
と尋ねた。
言うまでもなく、神流川は怪訝そうな眼差しをこちらに向ける。
「室長に何かなさったのですか?」
どうやら要らぬ嫌疑をかけられているようだ。
どうしたものかと思っていると、
「室長なら不在でしたよ。そのうち、わが社で殺人事件でも起こるのではないかと、私はヒヤヒヤしてます。殺しは止めてくださいね、社長」
神流川から痛烈な一撃を食らう。
「そんなことになったら、社員が路頭に迷ってしまうねえ」
しかし呉崎にとってこの程度のお小言は日常茶飯事。間延びした返事をすると、彼に手を差し出し書類を受け取る。
「今日の会合は何処と……ここかッ」
神流川から書類を受け取った呉崎はあからさまに嫌な顔をした。
「僕ここの社長、苦手なんだけれど」
「仕事ですよ」
「いや……でもねえ」
呉崎は書類をデスクに置くと仕方なくスーツのジャケットに袖を通したのだった。
「そう。秘書室長が板井君にコンタクトを取ったの。面白くなりそうだねえ」
(株)原始人の社長こと呉崎は、社長室の大きな窓から見える景色を眺めながら、通話相手にそう言葉を漏らした。
『放っておいてよろしいので?』
「問題ない。想定外のことだが、思惑通りに事が運べば……唯野君は僕の思い通りになる」
『では、また何かあったら報告致します』
通話相手は指示のみを聞き、失礼しますと言って通話を終了した。
──相変わらずの塩対応だね。
呉崎は全く動じない協力者に肩を竦める。逆らって欲しいわけではないが、ユーモアもなければ意見をすることもない。報告係りとしては申し分ないが、如何せん相手が何を考えているのか分かり兼ねた。
それに比べ唯野は、どんなにパワハラを受けても姿勢を覆すことのない男だ。反発心を表すわけでもなく逆らうわけでもないが、嫌味が一級品。彼にとって自分はストレスかもしれないが、自分にとって彼は良い刺激。
──板井君は僕にとっての切り札だったが、勝手に動いてくれるなら好都合。果たして唯野君の過去を知っても、君の忠誠心は揺らがないのかな?
唯野にとって板井の存在は、本人すら気づいていない弁慶の泣き所。唯野がどれほど彼の存在に支えられているのか、気づいているのは自分だけかもしれない。そう思うと、自然と笑みが零れる呉崎。
──君が悪いんだよ。
僕にとって皇くんがどれほど大切な存在なのか知っているくせに。
それでも彼の防護壁を潜り抜け、何度も皇を抱いたことが自分の自信に繋がっていた。彼の肌の感触、熱、吐息。全てが自分を満たす。そしてその心が手に入るというならば、どんな汚い手でも使うだろう。
それほどに皇は呉崎の心を魅了した。
──板井君を失ったら、君はもう立ってはいられないだろう。
どんな顔をするのか楽しみだよ。
腹黒いと陰で言われている呉崎であったが、皇にしか執着してはいなかったし、唯野にしか憎しみの感情を向けることはなかった。皇に想いを抱く者を蹴落とし、知らず知らずのうちに敵に回していることも気づかずに。策士策に溺れるとは自分のことを言うのだと、後になって後悔することになるとは。
彼は板井の想いや器量を見誤っていたのである。
「社長。会合の……また悪だくみですか?」
「神流川君、君。随分なご挨拶だねえ」
ノックをして入ってきた社長第一秘書の神流川は、手帳を見ながら本日の予定を告げようとしたところで、呉崎の悪どい笑みに気づいたようだ。
「社長ほどじゃありませんよ」
呉崎はこの神流川をとても気に入っている。秘書としても優秀であるが、彼のスパイスの効いた受け答えを気に入り、第一秘書に据えたのだ。
──最も。君が皇くんに惚れてしまったのは、想定外だけれどね。
「ところで何処に行っていたんだね?」
神流川は呉崎が通話をし始めたので、気を利かせ離籍したらしい。いつもなら行先のメモを置いてくはずだが、見当たらなかった。
「秘書室ですよ。隣なのだから、メモは要らないでしょう?」
呉崎の不満を先読みしたのか彼からそういう回答が戻ってくる。
呉崎は先ほどの通話の内容を思い出し、
「秘書室長は元気かね?」
と尋ねた。
言うまでもなく、神流川は怪訝そうな眼差しをこちらに向ける。
「室長に何かなさったのですか?」
どうやら要らぬ嫌疑をかけられているようだ。
どうしたものかと思っていると、
「室長なら不在でしたよ。そのうち、わが社で殺人事件でも起こるのではないかと、私はヒヤヒヤしてます。殺しは止めてくださいね、社長」
神流川から痛烈な一撃を食らう。
「そんなことになったら、社員が路頭に迷ってしまうねえ」
しかし呉崎にとってこの程度のお小言は日常茶飯事。間延びした返事をすると、彼に手を差し出し書類を受け取る。
「今日の会合は何処と……ここかッ」
神流川から書類を受け取った呉崎はあからさまに嫌な顔をした。
「僕ここの社長、苦手なんだけれど」
「仕事ですよ」
「いや……でもねえ」
呉崎は書類をデスクに置くと仕方なくスーツのジャケットに袖を通したのだった。
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