R18【同性恋愛】リーマン物語『俺のものになってよ』

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────5話*俺のものだよ

14・板井の推理と心境

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****♡Side・板井(同僚)

『そういえば、唯野君って離婚するんだって?』
『はい?』

 課長唯野と降りる駅の違う板井は、彼に挨拶をし先に列車を降りると、昼間屋上で聞いた話を思い出していた。最近身の回りで不可解なことが起きているが、実態は掴めないでいる。踏み込んではいけないのかもしれないが、唯野ことがどうしても気になってしまう。
『お疲れ様です』
 降り際の彼の表情が忘れられない。彼はすぐには反応しなかった。
 そして、
『ああ……またな』
 やっとで言葉を発した彼は、じっと板井のことを見つめていた。
 怪訝そうに見つめ返す板井に、慌てて笑みを加える。不自然、この上ない。
 いつだって笑顔を絶やさないような彼の、素の姿を見てしまったような気がした。少なくとも自分は目にしてはいけなかった。その証拠に、彼は慌てて笑顔を張り付けたのだ。

──心配だな……。

 我知らず、ため息が漏れる。板井は唯野のことをずっと尊敬していた。ここへきて、他の部署の人間から彼に関する良くない噂を耳にすることになろうとは思っていなかった。

『社長も大概腹黒いけど、お宅の課長もえげつないよね。部下に手を出そうとするなんて』
 その言葉を聞いた時、息が止まるかと思った。自分の尊敬する人がそんなことをするとは信じられなかったからだ。
『元はと言えば、企画部の奴らが悪いんだけど……それも社長の指示だったらしいし』
 今から一か月以上前の話だ。だがその話には思い当たることがあった。唯野が慌てて苦情係から出て行った日。その後、電車でんまから唯野の行き先を聞かれたことがある。

──あれは確か、塩田と電車が付き合い始めた頃だったはず。

 社長が何故、企画部の社員に塩田を襲わせたのかはまだ分からない。だがこの話を板井にした秘書室長の女性は、唯野と同期入社であり社長の性質も良く知っていた。
『社長は皇副社長に、ご執心なのよね。唯野君が社長からパワハラを受けてるのは彼絡みらしいし』
 ただ、気になるのは何故自分にこんな話をするのか、ということである。話を聞いているうちに、企画部の奴らを差し向けた理由はなんとなく想像できた。唯野が塩田を捜そうと動いたのは、社長にとって想定外の出来事だったのではないだろうか?

──そうでなければ、辻褄つじつまが合わない。
 だが、結果社長の思惑通りになったはず……。
 あの時点では、少なくとも。

 ではどこで計画が狂ったのだろうか?
 もしかしたら何かわかるかもしれない。
 そう考えた板井は、
『一体、何が起きてるんですか?』
と唯野へ質問を投げかけたが、失敗に終わった。
 彼は敢えて主語を交えなかった板井に警戒したのかも知れない。板井は瞬時にそう判断し、社長から呼ばれているということに方向転換を試みた。案の定、警戒が解けたように感じたが、違ったのだろうか。

 板井は手に握ったスマホに視線を向ける。昼間自分に情報を流してくれた秘書室長の女性。彼女に余計な問いかけはしなかった。板井が唯野のことに興味を示すと、連絡先を教えてくれたのだ。
『そんなに知りたければ、知っていること教えてあげるわ』
と言って。
 今度食事に行くことになっている。社内では何かと問題があるらしい。

──もしかしたら、これも社長の画策の一つかもしれない。
 課長を慕う俺に良くない噂を聞かせ、彼から引き離すための。

 だが板井の忠誠心はその程度のものではなかった。入社してすぐ彼に惹かれたのは、どんなに忙しくても笑顔を絶やさず、部下を大事にするその姿勢があったから。
 入社したばかりの頃、同僚の電車でんまはミスが多く、疲れにより遅刻をしてくるような人物だった。しかし唯野は一度だって怒ったことがない。
『慌てすぎるからだ。少し休憩して落ち着いてこい』
と声をかけたり、
『無事でよかった』
と優しい言葉をかけるような人だった。
 だからこそ自分も塩田も彼の負担を減らそうと、協力的になったのだ。タイプの違う三人が、今仲良くなっているのも唯野がいたから。

──俺はそう簡単に、課長を裏切ったりはしない。

 板井は改めて、そう心に誓ったのだった。
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