133 / 218
────5話*俺のものだよ
14・板井の推理と心境
しおりを挟む
****♡Side・板井(同僚)
『そういえば、唯野君って離婚するんだって?』
『はい?』
課長唯野と降りる駅の違う板井は、彼に挨拶をし先に列車を降りると、昼間屋上で聞いた話を思い出していた。最近身の回りで不可解なことが起きているが、実態は掴めないでいる。踏み込んではいけないのかもしれないが、唯野ことがどうしても気になってしまう。
『お疲れ様です』
降り際の彼の表情が忘れられない。彼はすぐには反応しなかった。
そして、
『ああ……またな』
やっとで言葉を発した彼は、じっと板井のことを見つめていた。
怪訝そうに見つめ返す板井に、慌てて笑みを加える。不自然、この上ない。
いつだって笑顔を絶やさないような彼の、素の姿を見てしまったような気がした。少なくとも自分は目にしてはいけなかった。その証拠に、彼は慌てて笑顔を張り付けたのだ。
──心配だな……。
我知らず、ため息が漏れる。板井は唯野のことをずっと尊敬していた。ここへきて、他の部署の人間から彼に関する良くない噂を耳にすることになろうとは思っていなかった。
『社長も大概腹黒いけど、お宅の課長もえげつないよね。部下に手を出そうとするなんて』
その言葉を聞いた時、息が止まるかと思った。自分の尊敬する人がそんなことをするとは信じられなかったからだ。
『元はと言えば、企画部の奴らが悪いんだけど……それも社長の指示だったらしいし』
今から一か月以上前の話だ。だがその話には思い当たることがあった。唯野が慌てて苦情係から出て行った日。その後、電車から唯野の行き先を聞かれたことがある。
──あれは確か、塩田と電車が付き合い始めた頃だったはず。
社長が何故、企画部の社員に塩田を襲わせたのかはまだ分からない。だがこの話を板井にした秘書室長の女性は、唯野と同期入社であり社長の性質も良く知っていた。
『社長は皇副社長に、ご執心なのよね。唯野君が社長からパワハラを受けてるのは彼絡みらしいし』
ただ、気になるのは何故自分にこんな話をするのか、ということである。話を聞いているうちに、企画部の奴らを差し向けた理由はなんとなく想像できた。唯野が塩田を捜そうと動いたのは、社長にとって想定外の出来事だったのではないだろうか?
──そうでなければ、辻褄が合わない。
だが、結果社長の思惑通りになったはず……。
あの時点では、少なくとも。
ではどこで計画が狂ったのだろうか?
もしかしたら何かわかるかもしれない。
そう考えた板井は、
『一体、何が起きてるんですか?』
と唯野へ質問を投げかけたが、失敗に終わった。
彼は敢えて主語を交えなかった板井に警戒したのかも知れない。板井は瞬時にそう判断し、社長から呼ばれているということに方向転換を試みた。案の定、警戒が解けたように感じたが、違ったのだろうか。
板井は手に握ったスマホに視線を向ける。昼間自分に情報を流してくれた秘書室長の女性。彼女に余計な問いかけはしなかった。板井が唯野のことに興味を示すと、連絡先を教えてくれたのだ。
『そんなに知りたければ、知っていること教えてあげるわ』
と言って。
今度食事に行くことになっている。社内では何かと問題があるらしい。
──もしかしたら、これも社長の画策の一つかもしれない。
課長を慕う俺に良くない噂を聞かせ、彼から引き離すための。
だが板井の忠誠心はその程度のものではなかった。入社してすぐ彼に惹かれたのは、どんなに忙しくても笑顔を絶やさず、部下を大事にするその姿勢があったから。
入社したばかりの頃、同僚の電車はミスが多く、疲れにより遅刻をしてくるような人物だった。しかし唯野は一度だって怒ったことがない。
『慌てすぎるからだ。少し休憩して落ち着いてこい』
と声をかけたり、
『無事でよかった』
と優しい言葉をかけるような人だった。
だからこそ自分も塩田も彼の負担を減らそうと、協力的になったのだ。タイプの違う三人が、今仲良くなっているのも唯野がいたから。
──俺はそう簡単に、課長を裏切ったりはしない。
板井は改めて、そう心に誓ったのだった。
『そういえば、唯野君って離婚するんだって?』
『はい?』
課長唯野と降りる駅の違う板井は、彼に挨拶をし先に列車を降りると、昼間屋上で聞いた話を思い出していた。最近身の回りで不可解なことが起きているが、実態は掴めないでいる。踏み込んではいけないのかもしれないが、唯野ことがどうしても気になってしまう。
『お疲れ様です』
降り際の彼の表情が忘れられない。彼はすぐには反応しなかった。
そして、
『ああ……またな』
やっとで言葉を発した彼は、じっと板井のことを見つめていた。
怪訝そうに見つめ返す板井に、慌てて笑みを加える。不自然、この上ない。
いつだって笑顔を絶やさないような彼の、素の姿を見てしまったような気がした。少なくとも自分は目にしてはいけなかった。その証拠に、彼は慌てて笑顔を張り付けたのだ。
──心配だな……。
我知らず、ため息が漏れる。板井は唯野のことをずっと尊敬していた。ここへきて、他の部署の人間から彼に関する良くない噂を耳にすることになろうとは思っていなかった。
『社長も大概腹黒いけど、お宅の課長もえげつないよね。部下に手を出そうとするなんて』
その言葉を聞いた時、息が止まるかと思った。自分の尊敬する人がそんなことをするとは信じられなかったからだ。
『元はと言えば、企画部の奴らが悪いんだけど……それも社長の指示だったらしいし』
今から一か月以上前の話だ。だがその話には思い当たることがあった。唯野が慌てて苦情係から出て行った日。その後、電車から唯野の行き先を聞かれたことがある。
──あれは確か、塩田と電車が付き合い始めた頃だったはず。
社長が何故、企画部の社員に塩田を襲わせたのかはまだ分からない。だがこの話を板井にした秘書室長の女性は、唯野と同期入社であり社長の性質も良く知っていた。
『社長は皇副社長に、ご執心なのよね。唯野君が社長からパワハラを受けてるのは彼絡みらしいし』
ただ、気になるのは何故自分にこんな話をするのか、ということである。話を聞いているうちに、企画部の奴らを差し向けた理由はなんとなく想像できた。唯野が塩田を捜そうと動いたのは、社長にとって想定外の出来事だったのではないだろうか?
──そうでなければ、辻褄が合わない。
だが、結果社長の思惑通りになったはず……。
あの時点では、少なくとも。
ではどこで計画が狂ったのだろうか?
もしかしたら何かわかるかもしれない。
そう考えた板井は、
『一体、何が起きてるんですか?』
と唯野へ質問を投げかけたが、失敗に終わった。
彼は敢えて主語を交えなかった板井に警戒したのかも知れない。板井は瞬時にそう判断し、社長から呼ばれているということに方向転換を試みた。案の定、警戒が解けたように感じたが、違ったのだろうか。
板井は手に握ったスマホに視線を向ける。昼間自分に情報を流してくれた秘書室長の女性。彼女に余計な問いかけはしなかった。板井が唯野のことに興味を示すと、連絡先を教えてくれたのだ。
『そんなに知りたければ、知っていること教えてあげるわ』
と言って。
今度食事に行くことになっている。社内では何かと問題があるらしい。
──もしかしたら、これも社長の画策の一つかもしれない。
課長を慕う俺に良くない噂を聞かせ、彼から引き離すための。
だが板井の忠誠心はその程度のものではなかった。入社してすぐ彼に惹かれたのは、どんなに忙しくても笑顔を絶やさず、部下を大事にするその姿勢があったから。
入社したばかりの頃、同僚の電車はミスが多く、疲れにより遅刻をしてくるような人物だった。しかし唯野は一度だって怒ったことがない。
『慌てすぎるからだ。少し休憩して落ち着いてこい』
と声をかけたり、
『無事でよかった』
と優しい言葉をかけるような人だった。
だからこそ自分も塩田も彼の負担を減らそうと、協力的になったのだ。タイプの違う三人が、今仲良くなっているのも唯野がいたから。
──俺はそう簡単に、課長を裏切ったりはしない。
板井は改めて、そう心に誓ったのだった。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。


百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる