132 / 218
────5話*俺のものだよ
13・課長の誤算と板井の心遣い
しおりを挟む
****♡Side・課長(唯野)
「課長」
「うん?」
課長こと唯野は、板井に呼ばれそちらに視線を向けた。自分の所属する課の部下、板井とは路線が同じなことから大抵帰りは一緒になる。苦情係は四人だけの小さな部署。その為、個性的な三人の部下は唯野にとって、とても大切な存在。
主に電話でのクレーマーに応対する塩田は、上司だろうが客だろうが忖度なしの塩対応で有名。その割には、客に好かれているようでクレーマーと仲良くなってしまうのが特徴。
現在その塩田の恋人である電車は彼と同棲しており、焦るとミスが多くなるがムードメーカー。見た目からして優しい雰囲気を持っており、大変モテるようだ。たまに社内で告白を受けているところを、目撃したりもする。
そして板井は陰では”課長の忠犬”などと言われているほど、真面目で上司を立ててくれる人物だった。常識人ではあるが、自分の価値観を他人に押し付けたりしないので、塩田や電車と仲が良いようだ。その上、余計なことは言わない。そして気遣いも巧い。唯野は板井のことをとても信頼している。
「一体、何が起きてるんですか?」
板井は唯野がしょっちゅう社長に呼ばれていることを知っていた。知っていながら余計なことを言わなかったのだ。心配はしていても。
唯野は彼に余計な心配をかけまいと、副社長こと皇の身に起きていることを話していない。そして自分が社長から呼ばれている理由も。
今回彼があえてそう問うのは、変化を感じ取ってのことなのだろう。唯野はどう答えるか迷った。いずれは彼にも事情を話す必要があるとは思っている。
──でもなあ。
俺が塩田にした指示の内容を知ったら、板井は俺を軽蔑するかもしれない。
唯野は板井に軽蔑されたくなかった。彼の前では良い上司でいたかったのだ。彼は自分が塩田にしようとしたことも知らない。
──俺の気持ちに気づいているかもしれないが。
唯野は笑みを浮かべると、
「大丈夫だよ」
と答えた。
大丈夫だと言っている時点で、何か起きていると言っているようなものだが。他に言いようがなかった。
「心配するなって」
「でも、最近頻度が増してますよね?」
思えばこの時、彼に話してしまえば良かったのだ。唯野は後にこの時の選択ミスを深く後悔することになる。しかし唯野は板井のことを知らなさ過ぎた。塩田に夢中になっていたばかりに。
彼が慕っているのは唯野だけで、心配なのも唯野だからだったのに。彼は誰よりも唯野の味方であり、頼れる存在だった。情報を共有することが絆や情報操作を防ぐことに繋がると思い至らなかった為に、そこを社長に攻められるとは思っていなかったのである。
「まあ、ちょっとイラついてるみたいだけれどな」
板井は唯野が話したくないのだと察したのか、それ以上踏み込んでくることはなかった。
彼は唯野の反応に対し、”自分には言えないことなんだ”と受け取ったことに気づけなかった。狂い始める歯車。
「無理、しないでくださいね」
小さな変化。板井はスッと唯野から視線を逸らしたのだった。
──板井……?
「課長」
「うん?」
課長こと唯野は、板井に呼ばれそちらに視線を向けた。自分の所属する課の部下、板井とは路線が同じなことから大抵帰りは一緒になる。苦情係は四人だけの小さな部署。その為、個性的な三人の部下は唯野にとって、とても大切な存在。
主に電話でのクレーマーに応対する塩田は、上司だろうが客だろうが忖度なしの塩対応で有名。その割には、客に好かれているようでクレーマーと仲良くなってしまうのが特徴。
現在その塩田の恋人である電車は彼と同棲しており、焦るとミスが多くなるがムードメーカー。見た目からして優しい雰囲気を持っており、大変モテるようだ。たまに社内で告白を受けているところを、目撃したりもする。
そして板井は陰では”課長の忠犬”などと言われているほど、真面目で上司を立ててくれる人物だった。常識人ではあるが、自分の価値観を他人に押し付けたりしないので、塩田や電車と仲が良いようだ。その上、余計なことは言わない。そして気遣いも巧い。唯野は板井のことをとても信頼している。
「一体、何が起きてるんですか?」
板井は唯野がしょっちゅう社長に呼ばれていることを知っていた。知っていながら余計なことを言わなかったのだ。心配はしていても。
唯野は彼に余計な心配をかけまいと、副社長こと皇の身に起きていることを話していない。そして自分が社長から呼ばれている理由も。
今回彼があえてそう問うのは、変化を感じ取ってのことなのだろう。唯野はどう答えるか迷った。いずれは彼にも事情を話す必要があるとは思っている。
──でもなあ。
俺が塩田にした指示の内容を知ったら、板井は俺を軽蔑するかもしれない。
唯野は板井に軽蔑されたくなかった。彼の前では良い上司でいたかったのだ。彼は自分が塩田にしようとしたことも知らない。
──俺の気持ちに気づいているかもしれないが。
唯野は笑みを浮かべると、
「大丈夫だよ」
と答えた。
大丈夫だと言っている時点で、何か起きていると言っているようなものだが。他に言いようがなかった。
「心配するなって」
「でも、最近頻度が増してますよね?」
思えばこの時、彼に話してしまえば良かったのだ。唯野は後にこの時の選択ミスを深く後悔することになる。しかし唯野は板井のことを知らなさ過ぎた。塩田に夢中になっていたばかりに。
彼が慕っているのは唯野だけで、心配なのも唯野だからだったのに。彼は誰よりも唯野の味方であり、頼れる存在だった。情報を共有することが絆や情報操作を防ぐことに繋がると思い至らなかった為に、そこを社長に攻められるとは思っていなかったのである。
「まあ、ちょっとイラついてるみたいだけれどな」
板井は唯野が話したくないのだと察したのか、それ以上踏み込んでくることはなかった。
彼は唯野の反応に対し、”自分には言えないことなんだ”と受け取ったことに気づけなかった。狂い始める歯車。
「無理、しないでくださいね」
小さな変化。板井はスッと唯野から視線を逸らしたのだった。
──板井……?
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話
あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハンター ライト(17)
???? アル(20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後半のキャラ崩壊は許してください;;
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる